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アルバム「ZIPANGU姫神」

 アルバム「ZIPANGU姫神」がリリースされた平成4(1992)年は、バブル経済崩壊の衝撃波が、日本社会の隅々に至るまで波及した年でもありました。前年まで、ここには書けない放恣(ほうし)な暮らしをしていた私のアフターファイブは、灯が消えたようにすっかり寂しいものになってしまいました。

 また1992年は、コロンブスがジパングへの西回り航路へ船出してから、ちょうど500年にあたりました。それらに関する書籍を読み直していくうち、「東方見聞録」やモンゴル帝国支配下の事柄に興味が拡がっていきました。

 モンゴルのチンギス・ハーンの誕生から、欧亜にまたがる大帝国の出現、ヨーロッパの大航海時代、日本の安土・桃山時代の南蛮船の来航や朱印船貿易に至る数世紀は、それまでバロキアル(地域限定的)だった人類の活動が、地球的規模でリンクされ始めた時代でした。

 その遠因となったのが、東の海の彼方に黄金の島があるという、あくまで私見ですが多分に作為的(ZIPANGUの背景参照)な伝説でした。このはなはだいい加減な伝説に夢をかけて、ユーラシアの東と西の人々が大きな犠牲を払いつつ、時代を切り開いていきました。

 姫神・星吉昭さんは、その同じエネルギーの発露を、バブル経済崩壊後の畏縮した日本人に期待したのかなと、私は考えています。バブル絶頂期の、日本全体が忘年会の乱痴気騒ぎみたいな様相を呈していた頃、アルバム「姫神風土記」や「イーハトーヴォ日高見」といった恬淡な作品を作ってきた星さんにとって、バブルの崩壊は、逆にハレの日々の始まりだったのかもしれません。

 アルバム「ZIPANGU姫神」に関して、ほのぼのとした牧歌的なニュアンスが感じられない、姫神らしくない、という感想を、周囲の人達から聞きました。そして星さんは、まさにそういう仕上がりの作品を目指したのだと思います。

 このアルバムに、日本は直接的には描かれていないような気がします。あえて意識のフレームから外したと思います。このアルバムのタイトルは「ZIPANGU姫神」。多分に観念的な意味での日本の呼称ジパングを、さらにアルファベット表記していることからそう考えました。それまでの作品とは描く対象が違う。人類が地球的規模での活動を開始した数世紀を描く以上、いやが上にもダイナミックな編曲・演奏になると思います。

 そして、アルバム「北天幻想」以降、星さんがほぼ一人で演奏までを行う制作スタイルが定着していましたが、「ZIPANGU姫神」から、再びアコースティック楽器とその演奏家が起用されました。すなわち、バイオリン/スライドギター/ブズーキ佐久間順平(さくま・じゅんぺい)さん、パーカッション菅原裕紀(すがわら・ゆうき)さん。

 昨年来、私はある事情で、東京都内のJR中央線沿線を何度か彷徨したのですが、フォークシンガー高田渡(たかだ・わたる。故人)さんゆかりの吉祥寺のある店で、生前の高田さんのライブDVDを観る機会がありました。高田さんのバックでバイオリンを弾いていたのは、佐久間順平さんでした(エンディングの字幕で判った)。

 菅原裕紀さんは、後に佐久間さんと一緒に姫神の公演にも出演されました。一度、姫神のステージでのメンバー紹介の時、パーカッションを使って艶かしいというか官能的な音を出したのですが、姫神の聴衆にウケたとはいい難かった。ただし、姫神ヴォイスのお姐さん達は、舞台上でお喜びだった記憶があります。

 平成11(1999)年前2月岩手県玉山村で星さんに、レコーディングにもドラムセットと演奏家をフィーチャーしてくれませんかと、お願いした事があります。星さんからは、「リズムボックスが出て来た時、これを新鮮だと感じた。人間の叩くドラムが、どんなシチュエーションにおいてもベストだとは思わない」といった意味のお答えをいただきました。

 描く対象も、曲想も、制作の形も、それまでと違う新しい姫神に、私はたいへん感動しました。アルバム「ZIPANGU姫神」も、私が深く愛している作品です。

 アルバム「ZIPANGU姫神」の収録曲は、「風、大循環に」「うら青く波涛は澄み」「光の海南」「東方エルドラド」「金銀島」「白くひらける東のそら」「燐光」「天翔ける」「火振り神事〜Zipanguのテーマ〜」。

 昨今、日本の内外に降り懸る種々(くさぐさ)の事柄を思う度、私は無性にアルバム「ZIPANGU姫神」を聴きたくなります。「火振り神事〜Zipanguのテーマ〜」がフェイドアウトしていく時にいつもこつ然と私の脳裏に現れる、打ち寄せる波に白く縁どられた、そして、なぜか実際より大陸からひどく遠くに横たわる日本列島…。“今、日本内外に降り懸る種々の事柄”は、逆に日本人が覚醒し、日本国が雄飛する力にもなると思います。

 アルバム「ZIPANGU姫神」がリリースされた平成4年は、私が初めて姫神の公演を体験した年でもあります。12月20日、岩手県江刺市で行われました。姫神せんせいしょんを知って以来、まもなく10年が経とうとしていました。テレビの映像や雑誌のグラビアではなく、目の前で姫神夫妻が演奏している事に感動しました。

 そして、来る10月1日は、平成16(2004)年にこの世を去った、姫神・星吉昭さんの命日です。

 夜半、知人から電話であの報を受けてから、もう6年か…。遺してくださった作品群は、その後も全く色あせる事なく私を魅了し、様々に思慮を巡らせる縁(よすが)になり続けてくれています。
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by manewyemong | 2010-09-29 11:12 | 音楽 | Comments(0)

シンセサイザー、デコラティブジャパン(絢爛な日本)文化、絵巻、屏風、浮世絵、都市散歩、神社が好きです。鈴木春信の春画「風流艶色真似ゑもん」にちなみました。


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