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アルバム「惑星 ULTIMATE EDITION」

 冨田勲さんのアルバム「惑星 ULTIMATE EDITION」を聴きました。

 まず、CDの帯には

完全リメイク版

新しい機材の採用によって作品全体が完全に新たにリメイクされました

とあったので、てっきり1から新たに制作された物かと思ったのですが、実際は昭和52(1977)年の「惑星」の音源を元に、サラウンド効果の付加と後に掲げるモーグやローランドのシンセによる音の付け足しが為されたというものでした。要するにリミックス盤でした。

 私はサラウンド効果を体験する環境を持っていない事と、その効果に必ずしも乗り切れない感性の持ち主なので、あくまでステレオ音場で聴取したという前提で、記事を書いていきたいと思います。今回は基本的に1977年盤「惑星」には触れません。

 キーボーディストでもなければDTMキーパンチャーでもない、昨今絶えて久しい感のある“シンセシストの成果物”に触れたくてこのアルバムCDを買ったのですが、結果的にそのどれでもない“ミキシングエンジニアの成果物”という印象を持ちました。

 このアルバムに対する最大の感想なのですが、今回継ぎ足した部分と既存の部分が上手く混ざり合っていないと思いました。もちろん私が1977年盤「惑星」を30年以上、何度となく聴き続けて来たが故に、それが聴覚や感性に染み付いているという事情はあります。

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 1977年盤「惑星」の完成度は、作者である冨田勲さんご自身をも寄せ付けなかったという事ではないでしょうか。継ぎ足した部分の違和感をほぼ全編に渡って味わい続けました。

 あるいは、実は私が既存の物だと思ったアナログシンセのパートは、今回もモーグで演奏・録音されたのかなとも思ったのですが…。

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 例えば1977年盤「火星」冒頭のロケットの噴射音を、全く同じ方法で後年の「冨田勲の世界」で録音してみたら、後者収録の方が良い結果であると冨田さんご自身が「冨田勲の世界」に書かれています。アナログシンセサイザーは良きにつけ悪しきにつけ時や場所等が変われば寸分変わらず同じ風合いの音を得る事ができるとは考えにくく、全編モーグを鳴らし直したとは思えません。

 ちなみに今回使用された機材は、moog system 55、Roland JUPITER-80GAIA SH-01、VP-7、VP-770、SD-50。DAWはsteinberg Nuendo。

 サラウンド効果の環境を持っていない私がどうこういう筋合いの話ではないのですが、音場に関する私の考えを付記したいと思います。

 高輪の冨田勲さんのスタジオで収録され、平成元年(1989)年3月26日に放映されたNHK総合「てれび自由席 わたしの番組批評」というインタビュー番組で、総合テレビの大相撲の実況中継はステレオなのに、その裏の教育テレビのオペラ「ばらの騎士」(リヒャルト・シュトラウス作)はモノラルで、ステレオで聴きたいのであれば同時に放送しているFMを利用するようにというスーパーが繰り返し画面に出たが、相撲はステレオでオペラがモノラルなのはおかしい、という指摘をされました。

 当時、オペラを劇場で体験するのが難しい身分だった私には、たいへんありがたい指摘だと思いました。この後、教育テレビのステレオ放送が始まったか、既に始まってはいたが飛躍的に増えた記憶があります。

 冨田さんの「バッハファンタジー」のライナーノーツに、NHKの演出家・和田勉(わだ・べん)さんと溜池のサウナの中で交わした議論が載っています。和田さんは映画館のワイドスクリーンを否定し、映画もテレビも古い四角画面で良い、オーディオで聴く音の本質はモノラルにこそあるとし、冨田さんは目や耳が二つあるのはそれで得られる情報を体自体が必要としている、だからオーディオもステレオであるべき、というのがお二人の論旨でした。

 私はもちろんステレオ派なのですが、最近、あくまでアンプ/スピーカーを使うという前提でですが、音の本質を得る上で音場が必要十分条件だとも思えなくなってきました。その理由は三つあります。

 一つは最近モノラルのSP盤を聴く機会があったのですが、ステレオ音場に配されるのとはまた違う音の表情を楽しめたからです。ちなみにSP盤にはもちろんステレオもあります。

 もう一つは動画投稿サイトです。画面は小さく、粗く、音もモノラルですが、それでも自分が意外に楽しめている事に気付いたという事。

 そして、昨今の映画館での、左右だけでなく後からも音響が聴こえてくる事の違和感です。ステレオまでは良かったのですが、登場人物の台詞は前から聞こえてくるのに、雑踏や風、異星人の攻撃を受けて狼狽する武官達のどよめきといった音が後ろから聞こえてくる事に、臨場感よりもわざとらしさを感じてしまうのです。

 井上靖の小説「敦煌」が映画化され、昭和63(1988)年に公開されました。渡瀬恒彦さん扮する西夏の王太子李元昊(り・げんこう)が、甘州に拠るウイグル軍との合戦を前に全軍を督励する場面、李元昊の西夏語の言葉が、漢(日本)語、吐蕃語、ウイグル語といった言語に訳され各外人部隊に伝えられるのですが、これがステレオ音場に配されていて、微妙に言葉の終わりに速い遅いがある事と併せて臨場感が出ていました。もし、これに前後が加わっていたらどう感じただろうなと思います。

 もちろん、前後で聴いてみたい音もあるにはあります。その一つは冨田さんのアルバム「宇宙幻想」に収録された「パシフィック231」(作曲アルチュール・オネゲル)の踏切の音です。この音を左右で聴くのは、席が長い、進行方向へ垂直に載せられた、要するに通勤電車のような音場なのですが、蒸気機関車の牽引する客車は、進行方向もしくは逆に向いた音場であり、この作品の場合は後者こそがシチュエーションに忠実なのではないかと思ったからです。

 組曲「惑星」に関して作曲者グスターブ・テオドル・ホルストは、この曲の編曲等の改変は慎まれなければならないと遺言し、長く遺族によって守られてきました。1977年盤「惑星」はそれを合法的にクリアして世に出、そして現在、ホルストの著作権は失効しています。

 しかしながらアルバム「惑星 ULTIMATE EDITION」の「木星」「土星」の間に、冨田さんの手による「イトカワとはやぶさ」なるオリジナル曲が挿入されている事に違和感を覚えます。原作者へのリスペクトとして「惑星」ではなく、糸川英夫さんがライナーノーツを担当した冨田さんのアルバム「宇宙幻想」か、せめて「惑星 ULTIMATE EDITION」の最後に収めるかにしていただきたかった。

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Commented by C5 at 2011-06-10 20:19 x
はじめまして。
冨田勲さんのアルバム「惑星 ULTIMATE EDITION」同意見です。何回聴いてみても違和感が拭えません。
やはりオリジナル版の方が私にとってULTIMATE EDITIONです。
Commented by manewyemong at 2011-06-11 08:03
 1982年公開のリドリー・スコット監督の映画「ブレードランナー」は、1992/2007年に手を加える形でリバイバル上映されたのですが、それで作品の質が劇的に上がったとは思えませんでした。映画であれ音楽であれクリエーターは後になって作品に手を加える暇があるのだったら、新作を作っていただけたらと思います。

 今になって、あれはだめだった、古傷だ、とかいうのであれば、LP(私は1枚聴きつぶしもう1枚買いました)とCDに支払った私のカネは一体なんだったのかと、ケチな事も言いたくなりますし…。
by manewyemong | 2011-06-06 09:55 | 音楽 | Comments(2)

シンセサイザー、デコラティブジャパン(絢爛な日本)文化、絵巻、屏風、浮世絵、都市散歩、神社が好きです。鈴木春信の春画「風流艶色真似ゑもん」にちなみました。


by manewyemong