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YAMAHA DX7試奏記

 ついにこのシンセサイザーの試奏記を書く日が来ました。implant4さんで国産デジタルシンセサイザー民生機のはしり、YAMAHA DX7を試奏させていただきました。

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 なまじ頑丈な鉄板の筐体を持つが故に、ユーザーに酷使されて無惨な状態(にも関わらず、たいてい使用に耐えられる)のものが多い中、この個体はかなりの美品といって良いと思います。既にチェックや調整は終わっていて、早晩implant4さんのサイトの在庫リストにアップされるものと思います。

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 YAMAHA DX7は昭和58(1983)年春、登場しました。

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 サウンド&レコーディングマガジン昭和58(1983)年4月号YAMAHA DX7、DX9の広告。ちなみに、この画像のDX7はプロトタイプらしく、フロントパネルのEGの図の右にあるはずのキーボードスケーリングの図がありません。

 MIDI元年でもあるこの年、コルグはPOLY-800、ローランドはJUPITER-6、JX-3P、そしてシーケンシャルサーキットはprophet-600を出しました。はっきりいってYAMAHA DX7の登場は突出した事件です。

 何度も書くのですが、私にはアナログシンセがとても楽器だとは思えず、シンセは弾くものではなく聴くものと割り切って、やめてしまおうかと思っていた矢先の出来事でした。

 DX7発売前のキーボードマガジン誌の付録、井上鑑さんによる「DX7 SOUND SENSATION 脅威の“音”の世界」は衝撃的でした。グラビアで見たルックスも洗練されていて、とにかく今までとは違う存在という感じを、実物を見るよりも前に味わっていました。楽器店に展示されるのをずいぶん待った記憶があります。

 パラメーターを呼び出してエディットしていくデジタルアクセスコントロール方式のシンセサイザーは、前年秋にKORG POLY-61が登場していたのですが、なまじバリューという形で見えるが故に、むしろアナログシンセの音色変化の緩慢さや狭さを、はっきり知覚させられました。

 その点DX7は、輪郭の明瞭さと雑音の無さに裏打ちされた音色の存在感、音色の表情の豊かさとその付けやすさ、分からないながらもバリューを変えてみると、変えた分だけムラだの癖だの無しに素直に音色が変わってくれるパラメーター群…。デジタルシンセは、私がアナログシンセに感じて来た胸くその悪さを、完全に払底してくれる事を実感しました。本当に目の前の霧がさっと晴れていく感じを味わいました。

 待てば待つほど各社から良いモデルが出てくるであろう事を予感し、しばらくはアナログシンセで我慢しておく事にしました。

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 フロントパネル。

 筐体のカラーリングは、実際はもっとチョコレートみたいな焦げ茶色なのですが、写真にするとなぜか黒みが強くなってしまいます。私のカメラだけでなく、当時の雑誌のグラビアやカタログもそうでした。

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 ボリューム、データ入力スライダー、DEC/INCボタン。

 音色設定操作子はこのスライダーとボタンだけです。これらより右にある全てのボタンは、音色やパラメーターを呼び出すための選択操作子です。

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 モード選択ボタン、パラメーターを表示する二桁のLED、液晶画面。

 選択ボタンの色は、液晶画面右横に並ぶ32個のボタンの使用目的の種別の文字の色に対応しています。

 音色に名前を付ける機能は、実はヤマハの特許だそうです。

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 アルゴリズムのパターンを示す図。

 DX7の姿が初めて載った雑誌を見た時、全体のすっきりした様子とは別に、フロントパネル上の見ただけでは意味が分からないこのアルゴリズムの表記からも、それまでとは全く違うシンセが来たという印象を強く持ちました。

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 レイトとレベルで構成されたEGのパラメーター及びキーボードスケーリングの表記、ROM/RAMカートリッジの差し込み口。

 SEQUENTIAL CIRCUITS prophet-5等、この頃のプログラマブルシンセサイザーの外部記憶装置はカセットテープインターフェイスが多かったのですが、DX7は専用のカートリッジを採っていました。扱いが簡単なのとデータを本機へロードせずとも使える点が良かった。

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 今でこそ音色はメーカーから無料でダウンロードできるのですが、DX7の頃はメーカーはもちろん、ここにあるように出版社や楽器店からも、独自の音色ROMカートリッジが販売されていました。

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 ホイール。ピッチホイールはニュートラル位置に勝手に戻るタイプです。DX7の筐体の端やこのホイールの部分は、特にチョコレートっぽい感じがします。

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 ヘッドフォンとブレスコントローラー端子。奏者側にあります。

 ブレスコントローラー対応はアナログシンセYAMAHA CS01に続いて2番目です。当時のブレスコントローラーはヘッドセットタイプBC3ではなく、赤ん坊のおしゃぶりのようなBC1でした。

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 ヤマハ製FS鍵盤。グリッサンドの跡も無く、かなり良い状態の鍵盤です。

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 FS鍵盤の特徴である白鍵中央を走るしきり。疲労感を全く感じない感触でした。あるいは前のユーザーの手許にあった頃にメンテナンスを受けたのかもしれません。

 プリセット音のベロシティやアフタータッチの設定は、他社のそれよりも指の力が強い人向けになっている気がしました。

 ベロシティ(キーベロシティセンシティビティ)やアフタータッチは、21世紀の今日に至るまで東西の数多のシンセサイザーに継承されています。昭和58年当時、DX7に楽器を感じたポイントの一つはまさにこれらでした。

 アナログシンセの高級機の中にもあるにはあり、近年いくつかのモデルを試奏させていただきましたが、これらの効果によって加えられる表情がとにかく緩慢で、楽器を感じる事はありませんでした。

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 リアパネル側。

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 「YAMAHA DX7」ロゴ。音叉マークはありません。

 DX(FM音源シンセ)、QX(MIDIシーケンサー)、RX(リズムマシン)等、YAMAHA Xシリーズのロゴがこのレタリングで統一されていた頃、文字通り世界を席巻している感がありました。ヤマハは単独で「X-day」というイベントを盛んに打っていました。

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 MIDI端子、フットスイッチ(ポルタメント、ダンパー)、エクスプレッションペダル(モジュレーション、ボリューム)、オーディオ出力(モノラル)の端子類。

 YAMAHA DX7が登場した昭和58(1983)年を境に、レコードや公演で使われるシンセサイザーの音色に、奏者やマニピュレータ各々の名刺といえるようなものは減っていきました。シンセサイザーの音色は選んで使うものと、皆が割り切るようになっていったからです。所謂シンセサイザー奏者は、作・編曲家、キーボーディスト、MIDIシーケンサーのキーパンチャーへと、徐々に散開していった感があります。

 少し寂しい気がしなくもなかったのですが、それでもその事でプロの音楽家達のシンセサイザーによる成果物が陳腐化したとまでは思いませんでした。

 電気ピアノやビブラフォンを模したプリセット音は、一時期テレビラジオからあふれるように聞えてきたので好きになれなかったのですが、それ以外にいくつかプリセット音やオリジナルに作られたと思われるケースに触れたいと思います。

 昭和58年12月に喜多郎さんが出したアルバム「飛雲」に、既にDX7のプリセット音が多用されています。例えば、「ロシアへの想い」「絵巻(パノラマ)」に使われたWATER GDN(ウォーターガーデン)は、その後、ヤマハのシンセサイザーの総合カタログでその解説がCG付きで載りました。

 またフルートのプリセット音は、このアルバムのほとんどのナンバーで使われました。この音も総合カタログで採り上げられた事がありました。キャリアが二つあるアルゴリズムを使い、一つはフルートの「フー…」という部分、もう片方は「ブフッ」というノイズを作るのに使われたとありました。

 NHK特集「シルクロード」第2部、イラクのユーフラテス川の空撮映像に流れた喜多郎さんによるBGM、DX7のプリセット音のマリンバの低域によるオスティナートに始まって、WATER GDN、KORG 800DVディレイオートベンドのかかったブラストーンリードRoland VP-330のヒューマンボイスが絡んでいくという構成なのですが、マリンバはプリセットのままであるにもかかわらず、民族楽器的な感じがして感動しました。残念ながらこの曲、タイトルは不明でレコード/CD化はされていません。

 難波弘之さんの「オペラの怪人」(「ブルジョアジーの秘かな愉しみ」より)に、他の人だったらサンプラーの所謂オーケストラヒットを使うような個所で、DX7でオリジナルに作った「ジャッ!ジャッ!ジャジャッ!…」という音が鳴っていました。私はこのアイディアが素晴らしいなと思いました。曲の中で負っている役割は同じなのに、片やケイト・ブッシュさんやアートオブノイズはお値段1200万円也のフェアライトCMI、片や世界を席巻していたとはいえ高校生がバイトで買えるモデルでやっている…。当時、セオリーに足をすくわれないようにしたいものだと、高校生ながら改めて思ったものでした。

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 ここで既存の記事に関する訂正を。ノイズの効用やYAMAHA DX7ソノシートをつぶやくで、KAZAN-BAKUHATSUとした音色は、実際の製品ではST.HELENSとなっています。DX7登場数年前に大噴火したアメリカの活火山、セントヘレンズ山にちなんだ名称だと思います。

 結局私が最初に手にしたデジタルシンセはDX7ではなく、ワークステーション機KORG M1でした。オシレータ→フィルター→アンプというモーグシンセ以来の考え方が、デジタルへ継承された形のシンセエンジンであり、私は同社のワークステーション機を、半ば奴隷的に思い通りに使いながら、今日に至るまで楽しんでいます。

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 ただ、先に採り上げたYAMAHA SY77であれ今回のDX7であれ、現時点で私にはどうしていいか急には手が付けられない、使い道が明確には思い浮かばないシンセに対する興味が湧いて来ています。

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 YAMAHA DX7登場からさほど時を経ずに出た「ヤマハDX7パーフェクト活用法」(リットーミュージック刊)の中で、著者の福田裕彦さんがこんなコラムを書いています。

自分が全能者だと思い込めるようなソフトウェアが続々と出て来るに違いない現在、逆に「コントロール不可能なもの」に対する憧れが、ぐしゃぐしゃと頭の中で渦を巻き始めているのである。

はたしてデジタルは、そういったパラメーターをもすべて包含し得る方法論なのか、もしそうであれば、この数年間は、音楽に限らずすべての分野における過渡期として、西暦2000年に43才になる僕が、「美しい時代」としてふり返れるものになるのだが…。



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by manewyemong | 2012-08-24 17:01 | シンセワールド | Comments(0)

「あのシンセサイザー奏者が出しているあのシンセサイザー音はあのシンセサイザーで出してんのか!いっちょあのシンセサイザー買いにいくか!」よりも、「価値あるものを買うのではなく自分で価値を作れる人間は強い」(岡崎武志「女子の古本屋」より)でありたいと思います。


by manewyemong