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KORG KROME-61試奏記(1)

 KORG KROMEが出ますで触れたワークステーション廉価機の新製品、KORG KROME-61を試奏してきました。発売前日ですが、大阪市内では既に展示機が設置されていました。

 私が試奏させていただいた楽器店は、KRONOS 61が段違い平行で、そしてM50-61が対面に展示されていたので、3機を弾き比べる形で試奏する事ができました。ただし、KROME-61はスピーカーではなくヘッドホン使用です。

 このKORG KROME-61試奏記(1)では、奏者やマニピュレータとの接点を、そして次のKORG KROME-61試奏記(2)では、シンセサイザーエンジン部分や、その他ワークステーション機としての諸機能を採り上げたいと思います。

 KORG OASYS、M3M50が、奇想のデザイン意思によるワークステーション機だとしたら、KROMEはKRONOSに続いて、堅実な設計が為されたモデルだと思います。それでいて眺めて退屈な感じがしません。

 筐体のデザインはM3、M50とちがって、つなぎ目が目立たず、ネジが見えず、出っ張りが無く、全体的に丸く仕上げられています。底面積の方がフロントパネル側よりもせまく、リアパネル側は上へ行くにつれ、若干前へとせり出すようになっています。また、デタッチャブル構造のM3や、フロントパネルに傾斜がかかったM50と違い、筐体の厚味は薄くなっています。カラーリングはBKカラーではない落ち着いた黒系統です。

 「KROME」のロゴデザインも、KRONOS、ひいてはM1からTRITONシリーズまで連綿と続いてきた、奇をてらっていないものです。私は「M3」「M50」はだめでした。

 KROMEのマン/マシンインターフェイスの出来は、たった数ヶ月先行しただけのフラグシップ機KRONOS Xをも凌駕しています。後に記すタッチビューの大幅な進化の理由が、単にKROMEがKRONOSより後から開発が始まったからなのか、あるいはたまたま液晶画面の技術の向上とタイミングが合ったからのかは分かりません。いずれにしても、それは技術力に下支えされた事が前提のお話です。

 しかしながら、その他の各操作子の形状、音色設定やシーケンサーの打ち込み作業時の手指の動線に配慮したフロントパネル上での位置の変更、付加、省略による操作性の向上は、技術力ではなく、設計者のセンスがものをいっていると思います。私がKROMEで最も気に入ったのはこの部分です。

 これまでタッチビューの左側にあったバリュースライダーはありません。音色設定操作子は画面の右側に集められています。TRITON LeTR、あるいは他社製ワークステーション機同様、役目がダイヤルとかち合っているバリュースライダーを廃し、DEC(decrement)/INC(increment)ボタンをタッチビューの右側、ダイヤル/テンキーの側に配して音色設定操作子群を集約し、手指が画面をふさがないような動線を実現しています。

 但し、オルタネートモジュレーションソースの中に、ValueSld(バリュースライダー)はあります。他機からのMIDIを介してのコントロール時に使います。

 ボリューム、四つのアサイナブルノブ、アルペジエータのテンポ用の全てが同じデザインのつまみ群は、形状が一考されていて、単なる円柱ではなく、目印の方へ細くなっていく、いわば涙滴形を柱状化したデザインです。視認せずとも、触れたりつまんだりしただけで、つまみが今どの方向へ向いているのかが、奏者やマニピュレータに判るようになっています。

 また、つまみのこの形状は、回す速さのムラを押さえたり、逆に表現意図に則って緩急を付けたりしやすいと思います。小さなつまみの場合、単なる円柱型だとこういった操作はしづらいのではないでしょうか。ノイズの効用で触れた、風の吹き様をLFOではなく手で表現する場合、操作子の形状や感触は気になる所だと思います。

 ボタンの形状や感触、剛性とも、フラグシップ機KRONOSよりも良いと思いました。KROME-61に触れた後だと、KRONOS 61のボタンの形状が少し無機質に過ぎる感がありました。

 スライダーの所でも書きましたが、DEC/INCボタンの位置が、タッチビューの左側から右側、そしてダイヤルの上へと移っています。些細な事なのかもしれませんが、手指の移動が短くなる事に貢献していると思います。

 KROMEにはそれまで無かったマスター/トータルエフェクトのオン/オフや設定を書き込む為の、実体を持った専用のボタンが用意されています。作った音色のライト(WRITE)に関して、タッチビュー以前は画面下のカーソルボタンが割り振られ、タッチビュー採用後は画面内で行うようになっていました。KROMEでは専用のライトボタンでも、そしてこれまで同様タッチビューの右上のメニューコマンドでも行えます。

 マスター/トータルエフェクトのボタンがオンかオフかの状態は、音色プログラムが変わっても維持されます。仮にオフ(消灯)状態であれば、プログラム上で設定されているマスター/トータルエフェクトは反映されずに発声します。

 ライトボタンについて欲をいうならば、カラーリングに関して、かつてのコルグのプログラマブルアナログシンセKORG Polysix、POLY-61、POLY-800、そしてアナログモデリングシンセMS2000シリーズのライトボタンに共通するあの赤を踏襲していただきたかった。

 コンビネーション/プログラム/内蔵シーケンサーのモード選択ボタンは、TRITONシリーズまでは、タッチビュー左側のバリュースライダーやDEC/INCボタンのさらに左に、グローバル/外部記憶メディアモードと一緒に置かれていました。OASYS、M3、M50、KRONOSでタッチビューの右側に来たのですが、KROMEではさらに音色設定操作子群とバンクボタンの間に来ています。

 複数のプログラムをコンビネーションでレイヤーして一つの音を作る場合、コンビネーションと複数のプログラムの間を頻繁に行き来するのですが、KROMEのこの位置の場合、タッチビューの左側にある事はもちろん、音色設定操作子の上にあるよりも、手指の動線が短くて済みます。また、煩雑に触れる事が少ないグローバル/メディアボタンをTRITONの位置に戻す事によって、音色設定操作子のスペースに余裕が生まれています。

 KORG KROMEの最大の特徴は、数ヶ月先行しただけでほとんどタイムラグの無い、しかもフラグシップ機であるKRONOS Xをも凌駕する、タッチビューの性能ではないでしょうか。廉価機ながらタッチビューはカラー表示になりました。とにかく反応がよく、TRINITYやTRITONのそれとは隔世の感ありです。

 しかし、KROMEのタッチビューの真価は、バリュー入力の手段のバリエーションです。既存のモデルだと目的とするパラメーターを入力する時、いずれもフロントパネル上の実体のあるDEC/INCボタンやダイヤル、テンキー等を使ったのですが、KROMEのタッチビューは、パラメーターに2回繰り返して触れる(ダブルクリック)とテンキーが、そして長く触れ続けるといずれも左右に動くホイールやスライダーが出現します。これらを総称してエディットパッドといいます。このエディットパッドを出現させるのに、ちょっとしたコツが要りましたが、すぐに馴染みました。

 この画面上に現れるテンキーは、パラメーターの入力(ダイレクト)以外に、計算機(カルキュレート)にもなります。

 かつてコルグが発行していたサウンドメイクアップの1980年代半ば、たしかMIDIシーケンサーKORG SQD-1の頃の楽典系の記事に、譜面の小節全てに番号をふるように、という記述がありました。その時期の同誌の連載記事を参考にして、自分なりの多重録音やMIDIシーケンサーの打ち込みの進め方を固めた私は、その後、2台のKAWAI Q-80EXやYAMAHA QY300を使うようになっても、かつて3級まで習ったそろばんを用いて小節番号をふっていました。

 私の場合、この電卓はそういった事に使うかもしれません。ただ、小節番号をふる計算に使う場合、途中経過が見えるそろばんの方が私は良いのですけどね。他に、確定申告の時期にKROMEを弾きつつ諸計算を、といった使い方も考え…?!。

 タッチビュー上に現れるバリュースライダーは触れて引きずるように、そしてホイールは左右に押し回すイメージで操作します。ともに操作感は悪くありませんでした。

 また、KROMEのタッチビューは、EGの折れ線グラフに触れて引っ張る事で、レベルやタイムを感覚的にエディットする事ができます。

 ただ、私はそのシンセサイザーに慣れて来ると、テンキーとDEC/INCボタンだけで音色を作るようになるので、これらの機能を使う機会はあまり無いような気がします。エディットパッドがタッチビュー上に出て来ないように、グローバルモードで設定する事もできます。

 ジョイスティックはM3タイプが継承されていて、白くライトアップされています。KORG TRINITY以来、私が重宝している二つのアサイナブルボタンも健在です。

 KROME-61/73の鍵盤は、当初コルグのサイトの仕様のページではM3/KRONOS 61と同じナチュラルタッチセミウェイテッド鍵盤となっていたのですが、後にナチュラルタッチ鍵盤と改められました。FEATURESページでは今も「セミウェイテッドのナチュラルタッチ鍵盤」となっています。

 ペダル端子は、ダンパー、フットスイッチ、エクスプレッションと、独立して備えています。

 廉価機のオーディオアウトプットは、コルグの場合TRITON Le/TRまではステレオ1系統+モノラル2系統だったのですが、M50からはステレオ1系統で、KROMEもそれを継承しています。せめてKROME-88だけでもステレオ2系統にしていただきたかった。理由は同じくステレオ1系統のRoland JUNO-STAGE試奏記に書いています。

 USBはタイプBのみ、外部記憶メディアはSDカードです。USBを介してパソコンをエディタ/ライブラリアンにできるのですが、添付されたCD-ROMからではなく、コルグのサイトからダウンロードするようになっています。

 KROMEのマン/マシンインターフェイスは、KRONOS Xの次に来るコルグワークステーションのフラグシップ機のそれが、さらに進んだものになるであろう事を予感させられます。あるいは平成23(2011)年の正月、コルグのサイトに
KRONOS
PREPARE TO BE AMAZED
COMING NAMM 2011
と告知された(コルグのトップページに“KRONOS”なる告知が…参照)おりに私が夢想した、フロントパネルのほとんどの部分がマルチタッチのタッチビュー化されて、操作子がアイコンになっているモデルが実現するかもしれません。

 その一方で、KROMEにマスター/トータルエフェクトのオン/オフ、書き込みといった作業の為の実体を持った専用のボタンを設けた、あるいはコンペアボタンを残したという事から、今後も操作子全てをタッチビューに負わせづらいむきに配慮していくとも考えられます。

 KROMEの優れたマン/マシンインターフェイスは、操作上の利便性を高め、発想の喚起を促す事はできるかもしれません。しかしながら、音色作りの広範さや奥行きの深化(しんか)は、また別の次元の話です。

 KORG KROME-61試奏記(2)では、その辺の事に触れたいと思います。

 KORG KROME-61試奏記(2)KORG KROME-73試奏記micro KORG GD及びKORG KROME-61のカラーバリエーション機が出ますKORG KROME PT、MS-20 mini WMが出ますへ続きます。


KORG KROME

by manewyemong | 2012-09-22 18:31 | シンセワールド | Comments(0)