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追悼 東祥高に捧ぐ 篠笛の響きコンサートを聴きました

 平成25(2013)年2月9日、クレオ大阪西で催された「追悼 東祥高に捧ぐ 篠笛の響きコンサート」を聴いてきました。この公演に関して1月7日の記事で告知させていただきました。

 公演は2部構成でした。冒頭に東さんの息子さん祥太郎(しょうたろう)さんのご挨拶があり、そして全員で東さんへの黙祷を捧げました。

 第一部は、東祥高さんが遺したシンセサイザーによる伴奏に、井上真美/Azumaユニットの篠笛奏者井上真美(いのうえ・まみ)さんの演奏が乗る形でした。

 舞台下手(客席から見て左側)に井上さんが篠笛とともに立ち、上手(右手側)に東さんが公演で弾いていた2台のワークステーション機Roland XP-50が設置されていました。実際に演奏される事はありませんでしたが、電源コードやステレオコネクションコードまで挿し込まれていました。

 この2台のRoland XP-50は、見た目は何の変哲も無いのですが、中身を別のシンセ3台分に入れ替えられ、それに伴いフロントパネルの操作子群も本来とは全く違う用途になっています。おそらく東さんご本人と改造に携わった方にしか操作できないのではないでしょうか。

 曲の演奏中、舞台上のスクリーンに、霧に煙るかつての奈良県大宇陀町(平成18年、奈良県宇陀市になりました)の山野やかぎろひ(かぎろい)の光景、昭和58(1983)年以前、つまりアナログシンセ時代のニュートンスタジオと作業中の東さんの姿等が投影されました。

 私は前の方の絶好の席に座る事が出来たので、井上さんの篠笛をスピーカーからの音だけでなく、原音を耳にする事が出来ました。篠笛の「ポーッ」「ピュイーッ」だけでなく、うなるような「ブブフフススッ」という効果(たしかグロウル効果という専門用語があります)のニュアンスを、至極繊細に体感できました。

 録音されたものとはいえ、東さんのシンセサイザーパートも音が良く、時に2台のRoland XP-50にスポットライトが当たる事と相まって、何だか東さんが舞台上で弾いているのではないかと、ふと空想してしまいました。

 私が第一部で特に感動したのは、「阿騎野」(井上真美/Azumaユニットのアルバム「花くれなひに」より)です。原曲は東祥高さんが一人多重録音で作ったアルバム「阿騎野」のタイトル曲なのですが、篠笛が一振り加わるだけで、これほど趣きが変わるのかと感動しました。それでいて原曲の持つ壮大さや静謐感、宇陀市でも大宇陀町でもないかつての名、阿騎野に込めた彼の地への讃歌という主題から外れるものになっていないと感じました。

 第二部は、冒頭に東さんとおつきあいの長い朝日放送の方(お名前を失念しました)によるニュートンスタジオ黎明期のお話、その後、井上さんの篠笛、大倉流鼓奏者清水晧祐(しみず・こうすけ)さんの鼓、東さんのシンセの伴奏という形で公演は続きました。

 朝日放送さんから東さんへの最初の依頼は、朝日放送(ラジオ)の“大阪湾をきれいにしようというキャンペーン”のBGMだったそうですが、話に行き違いが生じたのか、作品を依頼した1970年代当時の、今よりも汚れていた大阪湾の情景を描いたものが上がってきたそうです。その後、ディスカッションを重ねてキャンペーンに沿ったものが完成したのはいうまでもありません。

 昭和56(1981)年から同放送局で東さんが「シンセワールド」のDJを担当するのは、あるいはこういったご縁からだったのかもしれません。ちなみに朝日放送(テレビ)の天気予報のBGMは、今も東さんの手によるものが使われています。「ポピポパピポピーポピポパー、ポピポパピポピーポピポパー…」と聴こえる曲です。

 第二部は井上さんが舞台上手に立ち、Roland XP-50が中央に設置され、鼓を手にした清水さんが下手に座りました。

 今度も私の席は、清水さんの鼓の音や「ヨー、ホー」の声を、スピーカーだけでなく原音を聴くことができました。また、鼓を打つ手指をよく観察する事ができました。手のひらで漫然と叩くのではなく、人差し指、中指、薬指を使っていたり、リム(縁:へり)の部分に親指で振動を送る(ように見えた)といった、鼓を弾くという行為を目にする事ができました。私なりに咀嚼して、いずれパーカッションシンセサイザーKORG WAVEDRUMの演奏に活かしたいと思います。

 スクリーンには井上真美/Azumaユニットの公演での東さんの姿や、公演前にこのユニットについて語る東さんの映像と肉声が流れました。

 公演の終盤、清水さんが1度舞台から退出されたのですが、衣装を紋付袴からカジュアルな服に替えて登場され、おもむろにギターをお持ちになりました。そして清水さんが作った曲「天国の鐘」を、井上さんとともに披露されました。東さんのシンセパートは無く、井上さんの篠笛と清水さんのギターだけです。しかしながらこの曲に、私は最も東さんを感じました。

 私は平成22(2010)年12月、東さんと4回酒席を交えたという顛末を、追悼 東祥高さんに書いたのですが、お二人が奏でるこの「天国の鐘」に、ニュートンスタジオの入っている建物の1階のあの店で酒を楽しんでいる東さんの様子を、はっきりと感じました。今回の公演で私が最も感動したのは、東さんが参加していない、しかし最も東さんの面影を感じる事が出来た、この「天国の鐘」です。

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 会場で配布されたリーフレット。アナログシンセ時代の東さんのお姿が載っています。

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 「追悼 東祥高に捧ぐ 篠笛の響きコンサート」のレパートリーです。

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 前売券購入者に贈られた東祥高さんのアルバム「Beyond the Ages 〜時を超えて〜」(世界文化遺産)。ジャケットのポスターデザインは池田満寿夫さん(平成9:1997年没)。

 東さんはご自分のアーカイブが残る事を良しとされなかったようです。しかしながら、私は「人のいやがる事をすすんでしなさい」という言葉を、時に世間とは違う解釈をする事にしています。

 私は日本コロムビアやプライベートミュージック、NECアベニュー等から出された東さんの数多の一人多重録音作品の再発を望むものであり、東さんの作品等について今後もこのブログに記していきたいと思っています。

 そして、その事は既に実現し始めています。アナログシンセサイザー時代のアルバム「ファー・フロム・エイシア」「エイシアン・ウィンド」「ムーンライト・オブ・エイシア/東祥高の世界」の3枚が、来る平成25(2013)年4月17日、日本コロムビアからCDとして再発されます。私はLPしか持ってなく、またアナログプレイヤーを平成3(1991)年末に手放してしまったので、足掛け22年ぶりに耳にする事ができます。

 昨今、シンセサイザーの使われ方が、至極簡単に、楽に、そして適当な方向へ偏り過ぎている感じがして仕方がありません。そういう趣向指向の人の事を悪いといっているのではなく、本来固有の音を持たないというこの楽器の可能性は、深く広大だと言いたいわけです。

 そして、東祥高さんというシンセサイザー奏者は、楽に、簡単に、そして適当な方向、とは違う、深く緻密な思慮を以てこの楽器とつきあった人ではなかったかと思えます。私が東さんの作品の再発を望んでいるのは、そういう理由からです。

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by manewyemong | 2013-02-09 19:46 | 音楽 | Comments(0)

「あのシンセサイザー奏者が出しているあのシンセサイザー音はあのシンセサイザーで出してんのか!いっちょあのシンセサイザー買いにいくか!」よりも、「価値あるものを買うのではなく自分で価値を作れる人間は強い」(岡崎武志「女子の古本屋」より)でありたいと思います。


by manewyemong