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Roland JUNO-6試奏記

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 implant4さんで、Roland JUNO-6を試奏させていただきました。既に同店サイトの在庫リストにアップされている個体です。

 JUNO-6のフロントパネルには、シンセサイザーエンジンに関する所には赤、シンセに対して外から作用するセクションともいうべき、アルペジエータやコーラスエフェクトの所には青いラインが引かれていて、JUNO-6に興趣を添えているのですが、この個体に関して赤のラインに若干の剥離が見られます。

 しかしながらそれ以外は傷らしい傷も無く、後で触れるLFOトリガーボタンその他の白いボタンに黄ばみが無く、鍵盤や演奏操作子、スライダー、ボタン類に疲労が無く、美品であり操作感もすこぶる良い個体だと思います。

 アナログ6声ポリフォニックシンセサイザーRoland JUNO-6は、昭和57(1982)年の早い時期に店頭に並んだ記憶があります。

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 その前年、昭和56(1981)年10月16~18日まで科学技術館で催された’81楽器フェアに、プロトタイプと思われる参考出品機がお目見えしています。基本的なフォルムや仕様は同じ様なのですが、カラーリングと「JUNO-6」のロゴデザインが違います。量産機におけるカラーリングやロゴデザインの変更は、至極賢明な判断だと思います。

 JUNO-6は、国産機として初めて20万円を切ったキーアサイナー方式のポリフォニックシンセだと思います。同価格帯のKORG DELTAは、全鍵発声の独立発振方式ながら49鍵分のオシレータと1系統のみのVCF、VCAを持った限定的なポリシンセでした。

 続くプログラマブル機JUNO-60は、56音色を記憶する事と音色番号を2桁のLEDで表示しました。当時、SEQUENTIAL CIRCUITS prophet-5やRoland JUPITER-8くらいしか、音色番号を表示するアナログシンセはありませんでした。楽器の表面に数字が表示されるというのが、何だかすごく未来的な感じがしました。もっとも、時を経ずしてデジタルアクセスコントロールタイプのKORG POLY-61、そしてYAMAHA DX7が登場するのですが…。また、JUNO-60はMIDI以前のローランド独自の規格DCBを備えていました。

 昭和59(1984)年の年明け、JUNOシリーズ初のMIDI対応機JUNO-106が登場します。ボコーダーの音声入力ソースのカセットテープをつぶやくで触れたキーボードマガジン昭和59年7月号には発売数ヶ月のJUNO-106の記事もあったのですが、その最後はJUNO-106が後々名機として記憶されるであろうという意味の予言で締めくくられました。そしてそれが完全に的中した事はご存知のとおりです。

 2000ステップを記憶するDCBデジタルシーケンサーRoland JSQ-60は、JUNO-60の、そして6100ステップを記憶するMIDIデジタルシーケンサーRoland MSQ-100は、JUNO-106の筐体のカラーリングを継承していました。

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 私は昭和61(1986)年のたしか春頃にJUNO-6中古機を手に入れ、昭和63年、発売直後のワークステーション機KORG M1購入の為に下取りに出しました。

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 フロントパネル。

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 ギターのカポタストの様に移調するキートランスポーズとホールドボタン。

 キートランスポーズボタンを押しながら目的の調の鍵盤を押すとランプが点灯して移調します。

 ホールドボタンは、アルペジエータ使用時は、ラッチボタンになります。

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 アルペジエータ。

 SH-101と違い、レイトはLFOから独立しています。

 Roland JUPITER-4やJUPITER-8のようなランダムモードは無く、フライングジュピターには使えません。

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 LFO。

 レイトとディレイタイムだけで波形選択はできません。

 トリガーモードを押鍵(オート)にするか、ベンダーレバーそばのLFOトリガーボタン押す行為(マニュアル)か選ばなければなりません。Roland JUPITER-8、JUPITER-6の場合、トリガーボタン専用のLFO2がありました。また、後のRoland SH-101やJUNO-106等の、ベンダーレバーを前に押す形で行うモジュレーションのオン/オフは、押鍵のトリガーと併せて使う事ができました。

 アナログポリシンセの常としてLFOは6ボイス分、つまりポリフォニックではなく、一つだけのモノフォニック(アナログポリシンセのLFOをつぶやく参照)で、押鍵時のトリガーは先着優先です。例えば「ド」「レ」「ミ」「ファ」…と押鍵を加えていっても、最初の「ド」の押鍵時にのみトリガーがかかります。

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 DCO(デジタルコントロールドオシレータ)。

 1ボイスあたり一つで、ディチューンはできません。

 波形は矩形波を含むパルス波と鋸歯状波で、併用する事ができるのですが、SH-101のソースミキサーの様に各々のレベルを設定する事はできません。1オクターブ下の矩形波を加えるサブオシレータとホワイトノイズジェネレータは、レベルを設定できます。

 パルス波に関して、マニュアルのPW(パルスウィズ)と、LFOかENVをモジュレーションのソースに選ぶPWM(パルスウィズモジュレーション)があります。パルス幅を下げきると矩形波になります。

 かつてMS-20、そして先般発売されたMS-20 miniの開発に関わったコルグの古参社員の方々がインタビュー動画で、これらのシンセの矩形波のデューティー比は完全な50:50にはなっていない、としていらしたのですが、当時、ほとんどのアナログシンセはそうだったのではないでしょうか。

 あの頃、私は矩形波には二つあるという事を認識していて、それらに名前を付けていました。一つは、当時のほとんどのアナログシンセサイザーの“黄ばんだ(白い)矩形波”。もう一つは、SEQUENTIAL CIRCUITS prophet-5の“青味がかった清澄な(白い)矩形波”。後者の青味がかった矩形波は、おそらくデューティー比がより完全な50:50に近い矩形波ではないでしょうか。

 私が二つの矩形波を意識したきっかけは、昭和55(1980)年5月に出た喜多郎さんのNHK特集「シルクロード」オリジナルサントラ盤「絲綢之路」でした。タイトル曲「絲綢之路」はminiKORG 700Sの黄ばんだ矩形波によるクラリネット風のリード音(KingKORG試奏記2参照)、そして、同アルバムの「飛天」は、prophet-5の青味がかった矩形波によるリコーダー風の音が、メロディを奏でました。

 また、姫神せんせいしょんが、Roland SH-2KORG Polysixで出している笛の音(笛、さまざま1笛、さまざま2参照)は、いずれも黄ばんだ矩形波と認識していました。

 黄ばんだ矩形波が嫌いというわけではないのですが、あの頃、prophet-5の青味がかった清澄な、ある意味デジタル的な矩形波に憧憬をおぼえたものです。

 JUNO-6のDCOの矩形波は、初めて私の手が届きそうな所へ来た、青味がかった清澄な矩形波でした。SH-101がこれに続き、私が初めて手にしたシンセとなります。

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 ハイパスフィルター及びVCF(ローパスフィルター)。

 ハイパスフィルターはENVによる径時変化を加える事はできません。JUNO-6のプログラマブル機JUNO-60は、たしかハイパスフィルターが、0、1、2、3と四段階での設定しかできなかった記憶があります。

 ローパスフィルターのENVデプスは、ポラリティスイッチによって正逆を選択する事ができます。

 レゾナンスを上げて自己発振させる事ができるのですが、キーボードフォローを最大値にしても、完全な平均率にはなりません。

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 ENV。

 VCF、VCA、DCOのPWMで共用しています。

 ADSR各パラメーターが、たいへん素直に変化してくれます。あの頃、JUNO-6で最も気に入ったのがこの点でした。

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 コーラスエフェクト。

 IとIIは併用する事ができます。

 今回、試奏の為にJUNO-6を設置するにあたって、implant4さんがステレオで音を出せる様にしてくださったのですが、それ故、有名なJUNOコーラスを、久方ぶりに堪能する事ができました。かつて所有していた頃によく鳴らした、コーラスIのみを使ったストリングアンサンブル風の音で、しばし“あの頃”に浸らせていただきました。

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 演奏操作子群。

 ピッチのスライダーを最大値にした場合のベンダーレバーのピッチの変化は、例えば「ド」を押鍵して右へ倒しきった場合、「ソ」あたりの音程になります。1オクターブ上へは行きません。したがって、喜多郎さんがKORG 800DVで出しているブラストーンリードの記事で触れた、オートベンドの真似はできません。

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 LFOトリガーボタンは、LFOのトリガーモードが押鍵(AUTO)になっている時は、無効です。中古機のこのボタンに関して、黄ばんでいるものをよく見かけるのですが、この個体はそれがありませんでした。implant4さんが白くしたのか、買い取り時からこうだったのかをお聞きし忘れました。

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 鍵盤。

 JUPITER-6と同じ感触の様な気がしました。同時期の他のアナログシンセほどにはうるさくありませんでした。

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 リアパネル側。

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 「JUNO-6」「POLYPHONIC SYNTHESIZER JU-6」のロゴ。

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 接続端子群。

 モーメンタリータイプのフットスイッチRoland DP-2を使ってホールドのオン/オフを、フットボリュームRoland FV-200等を使ってVCFのカットオフフリケンシーを操作する事ができます。

 内蔵コーラスを活かす為に、音声出力は当時まだ珍しかったステレオです。同じくコーラス系のエフェクトを内蔵したKORG Polysixはモノラルでした。

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 あの頃、前年に登場したJUPITER-8やこのJUNO-6のルックスに、それまでのどこかくすんだ感のあるデザインとカラーリングを持った国産シンセに比して、垢抜け始めたという印象を持ちました。

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 また、見た目の印象が垢抜けて見える事とも関わりがあるのかもしれませんが、フロントパネルの操作子群が、決して縦に並ばず横一列で存在し、スライダーはもちろん、トグルスイッチも上下に動くという事で統一されたJUNO-6の操作感に、それまでに無い洗練された感じを受けたものです。

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 今年はKORG MS-20がMS-20 miniとして復活し、また、平成26(2014)年の年明け早々、Oberheim 2 voiceが、Tom Oberheim TWO VOICE PRO SYNTHESIZERとして世に出るそうです。

 かつてのアナログシンセの復元モデルが現れる中で、もし仮にアナログRoland JUNOが来るとしたら、私はJUNO-60やJUNO-106ではなく、プログラマブル機能もMIDIも無いJUNO-6であってほしいと思います。

by manewyemong | 2013-11-22 11:30 | シンセワールド | Comments(0)