Roland JD-XA試奏記
JD-XAの中古機に関して、発売からしばらく経って頒布されたフロントパネルのオーバーレイシートが被せられていないものが多いのですが、今回試奏させていただいた個体にはありました。早晩impalnt4さんのウェブサイトの在庫リストに載るはずです。
NAMM 2015の第1報のおり、このシンセサイザーにアナログとデジタルの2つのシンセサイザーが載っている事と、BKカラーの筐体上を、赤くライトアップされた操作子群が覆っているという、ある種異様な姿に驚かされました。
オールデジタルのシンセがソフトウェアにのみ込まれそうな中で、エンジン部分や操作にアナログシンセの要素を取り込む、あるいは完全にアナログシンセに立ち返るという試みは既にあったのですが、ローランドは他とは少し異なる形でその流れに乗った感があります。
SEQUENTIAL prophet-6やDave Smith INSTRUMENTS OB-6と同じ49鍵。SEQUENTIAL prophet-6が出ますで書きましたが、フィルターやアンプのキーボードフォローが傾斜しか設定できないアナログ/アナログモデリングシンセの鍵盤数は、この辺りが限度ではないでしょうか。これ以上になると、コルグのワークステーション機のキーボードトラックみたいに山や谷を設定できるのでなければ、高い方か低い方で使えない部分が出てきてしまうと思います。
ベロシティ及びアフタータッチがあります。日本のメーカーのアフタータッチを載せたシンセサイザーで、JD-XAは今、最も安価なモデルです。
今回もアフタータッチを試すのを忘れてしまいました。基本的に私がアフタータッチを使わないからだと思います。したがってJD-XAのアフタータッチがオン/オフのみなのか、押鍵の深度によって効果をコントロールできるのかわかりません。
20世紀、ローランドのMIDIマスターキーボードRoland A-80、90、70で、ベンダーレバーとホイールの両方が載っていたのですが、JD-XAで久方ぶりに復活しました。
ピッチベンドやモジュレーションだけでなく、プログラムエディットのアサインやトーンエディットでのマトリックスコントロールで、様々なディスティネーションを充てる事ができます。
例えば、喜多郎miniKORG 700Sリードのシミュレーションに関して、ホイール1にピッチENVのデプスを充てる事により、オートベンドのモーメンタリースイッチとして使う事ができます。本来マニュアルピッチベンドの操作子たるホイールを、オートベンドに使うわけです。ただ、今回の試奏で実際に試したわけではないので、この方法が成功するか確信は持てないのですけど…。
ローランドの伝統的なベンダーレバー、オクターブダウン/アップ、キートランスポーズ、アルペジエータのオン/オフ、そしてポルタメントタイムの設定子とオン/オフボタン。
私はポルタメントのオン/オフはフットスイッチで行う事が多いのですが、それでも関連する操作子がベンダーレバーのそばに集約されている事は大変ありがたい。
アナログシンセトーンのポルタメントのカーブは非リニア変化です。もちろんレガートの時だけかけるモードもあります。
ピッチベンドレンジは、ダウン/アップ個別に設定できます。ローランドのアナログシンセでこれができるのは、本機とRoland JD-Xiだけです。私はこうでないと姫神風ピッチベンドができません。
JD-XAのアナログシンセトーンは、4台のモノフォニックシンセをキーアサイナーを使って4声ポリフォニックシンセにしているわけですが、これ、例えばSEQUENTIAL CIRCUITS prophet-5が5台の、KORG PolysixやRoland JUPITER-6が6台の、prophet-T8が8台のモノフォニックシンセが載っている事と共通しています。ただ、JD-XAは4台各々個別の音色を設定できて、ポリにしたり、ユニゾンにしたり、発声させるものとさせないものを切り替えるといった事ができます。
喜多郎miniKORG 700Sリードのシミュレーション時、オートベンドの有る無し2つの音色を作り、この4つのアナログトーンセレクトボタンの内の2つを、オートベンドのオン/オフのトグルスイッチのように使うようにしてみました。ただ、JD-XAに載っている4台のアナログモノシンセに個体差があるが故に、セレクトボタンを2つオンにして2つの音色を同時にエディットする形では、これらに差異が出る事がわかりました。オシレータの所で記します。
画像を上手く撮る事ができなかったので省略しますが、パートセレクトボタン群の下にマスターボリュームつまみ、その右に音色名やパラメーターを表示するディスプレイ、パラメーターを選択するカーソルボタン、パラメーターを1づつ増減できるマイナス(ディクリメント)/プラス(インクリメント)ボタンがあります。
フロントパネル上の操作子が動かされるとその現在値が表示され、次の操作があるまで持続されます。
スライダーやつまみだけでなく、ディクリメント/インクリメントボタンで設定値を仕上げる事ができるのは、神経質な私にとって大変ありがたい事です。
2つのLFOで一つの操作子群を共有していて、設定する側のLFOをセレクトボタンで選びます。
ディスティネーション側の変調の深度もここで設定するのですが、PWM(パルスウィズモジュレーション)に関しては、パルスウィズディスティネーションでオシレータを選択すると、オシレータ側のPWMスライダーでデプスを設定できるようになります。パルスウィズディスティネーションはデジタルアクセスコントロールでのみの設定です。
ここにフェイドタイムだけでなく、ディレイタイムもあればと思っています。ちなみにRoland JD-Xiの場合、ビブラートディレイというパラメーターがあります。
アナログポリシンセのLFOをつぶやくで、かつてポリフォニックアナログシンセのLFOが発声数分積まれていない可能性を記しましたが、JD-XAのアナログシンセトーンは、完全なモノフォニックシンセを4台積んでいて、これを4声のポリシンセとして使う場合、各声に独立してLFOが存在します。
ピッチは、例えばオシレータ1に対して2をディチューンするというのではなく、コース、ファインとも各々に独立して存在しています。アナログシンセながら、演奏中にピッチがおかしくなるという心配が無さそうな安定度でした。
波形は一般的な鋸歯状波、矩形波、パルス波、三角波、サイン波です。
昨今のアナログシンセの中には、アナログモデリングシンセのように波形を変調できるモデルが出てきているのですが、JD-XAはパルス波だけです。
JD-XAの矩形波は、私が知っている矩形波とは大きく趣きが異なっています。むしろパルス波を選択してパルスウィズを10あたりにすると、私がよく使ってきた矩形波になりました。姫神がRoland SH-2で出す笛風の音は、こちらの波形の方がはるかに似ます。パルスウィズを0にすると矩形波選択時と同じ矩形波になります。私がJD-XAのアナログシンセトーンの矩形波を使う事はありません。
パルスウィズもPWM(パルスウィズモジュレーション)も2つのオシレータで独立して設定できます。PWMのソースはLFOだけです。
オシレータのサイン波はフィルターを自己発振させたものとは異なる、温かみのあるものです。歌の伴奏のイントロや間奏のリード音でよく使われるあの音です。
恒例の喜多郎miniKORG 700Sリードのシミュレーションのヒントは、パルスウィズ37から53あたりで探す、です。その理由は、パートセレクトボタン群の所で記しましたが、JD-XAに載っている4台のアナログモノシンセには個体差があり、例えば仮にパルスウィズを「42」と設定しても、はっきり聴感的に感知できる4通りの異なる音色になります。
JD-XAのSuperNATURALシンセトーンには、文字通りminiKORG 700、700Sの三角波から採ったと思われる三角波Bがあり、こちらを使う事をお勧めします。しかしながらこの場合、ポルタメントのカーブはリニア変化になります。
PCMシンセRoland JUNO-DSのオシレータには三角波Bと同じものが、700トライアングルとして入っています。ワークステーション機FA06、07、08のオシレータには無く、Axialでも提供されていません。
話をJD-XAに戻します。
Roland JP-8000以来継承され続けている簡便なENV。オートベンドのソースとしては充分なのですが、ここにディレイタイムが加わってくれればと思っています。
オシレータミキサーが2つのレベルの割合ではなく、各々のレベルを設定できるという事、言い換えればオシレータを使わないという設定も可能だという事です。
3種のローパスフィルターとハイパス、バンドパスフィルターが使えます。カットオフフリケンシーのつまみのトップは赤く塗られています。
オシレータミキサーでオシレータを無効化できる事からも分かるのですが、フィルターは自己発振します。
私がRoland SH-101を所有していた頃、カットオフとレゾナンスを微妙に操作して、VCFが自己発振したりしなかったりするポイントを使って水滴や焚火のような音を作っていたのですが、JD-XAのフィルターの自己発振するしないの分水嶺ははっきりしていました。ただ、LFOの波形をサンプル&ホールドにしたところ、なかなかいい水滴の音を作る事ができました。
キーボードフォローはマイナス値も設定できます。変化の傾斜を右肩上がり/下がりにできるという事です。
ベロシティでのフィルターENVのかかり具合の設定は、デジタルアクセスコントロールで行います。
またキーボードフォローを微調整するキーボードファインも同じくデジタルアクセスコントロールです。フィルターを自己発振させた音色で音階を弾く場合、重要になってくると思います。
トーンのレベル、音量の径時変化用のENVの操作子群。
ベロシティで音量をコントロールできるのですが、その設定はデジタルアクセスコントロールです。
トータル/マスターエフェクターのトータルコントロールやオン/オフ、言い換えればボタン操作で効果のカットイン/アウトができます。
特に空間系はいつもながらローランドらしい内蔵エフェクター離れした質感だと思います。
このRoland JD-XAを試奏した日、別の楽器店さんで、ARTURIA MATRIXBRUTE、そして、既に製造終了がアナウンスされたmoog SUB 37 tribute editionに、ほんの少しですが触れる事ができました。
両機とも、ただのアナログシンセサイザーです。しかしながら、マニピュレーションの広大かつ緻密な可能性や、平易な操作感を実現しています。そして、価格もかつてのようなものではなく、手が届きそうな所まで下りてきています。
JD-XAはクロスオーバーなシンセなのだそうですが、アナログシンセトーンとSuperNATURALシンセトーンの抱き合わせは、 fusion(フュージョン:融合)というより、confusion(コンフュージョン:混乱)を招いているような気がします。
日本のシンセサイザーメーカーからも、ただのアナログシンセサイザー、しかし、音色の径時変化のシナリオを緻密に組む者、要するに私のような人間が、思わず乗りたくなるようなモデルが出てくれればと思います。
Roland JD-XA
by manewyemong
| 2017-10-27 12:28
| シンセワールド
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