Roland SH-1試奏記
既にチェックが終わっていて、いずれimplant4さんの中古機の在庫リストにアップされると思います。
今回の試奏させていただいたRoland SH-1は、とてもこれが1970年代後半発売のシンセサイザーとは思えないほどの美品です。筐体に錆が無く、大きな傷も見当たりません。元のオーナーさんが非常に大事に使われた事が推察できます。
短命だった事に加えて、おそらくオーナーさん達が手放さないためか、SH-1の中古機を見る機会は同年代同価格帯のローランドを含む他の国産シンセサイザーより多いとはいえず、中古機が出るとすぐに消えて無くなってしまい、私は今日までじっくり試奏する機会を得る事ができませんでした。
音色設定操作子の合理的なレイアウトといったRoland SHシリーズの魅力に加え、VCOは一つながらサブオシレータがある、片方は簡便なものながらENVが二つある事がSH-1の特長だと思います。この点をもって、私はRoland SHシリーズ中、このSH-1を最も愛しています。
ちなみに昭和57年(1982年)元日夜、フジテレビ系で放映されたかくし芸大会で、ザ・ドリフターズの加藤茶さん、仲本工事さん、志村けんさんが、シンセサイザーで喜多郎さんの「絲綢之路」を演奏したのですが、加藤茶さんのブースに2台のSH-1が設置されていました。
加藤茶さんはもっぱらRoland JUPITER-8によるオスティナートの演奏に専念していて、2台のSH-1は志村けんさんのブースのデジタルシーケンサーRoland MC-4の打ち込みパート(シンセベース、オスティナート)を発声していたと思われます。
昭和57(1982)年に音楽之友社から刊行された古山俊一さんの「シンセサイザーここがポイント」では、モノフォニックシンセ、複合キーボードを含むポリフォニックシンセ、そしてシステムシンセという形で、内外各社シンセサイザー現行機を紹介していたのですが、モノフォニックシンセのコーナーの最後に、製造は終わったものの良いシンセとして、miniKORG 700S、800DV、Roland SH-5とともに、このSH-1が挙げられていました。
キーボードマガジン1984年7月号の古今東西のシンセサイザーの特集記事の中でも、このRoland SH-1が採り上げられていたのですが、執筆した方は、SH-1でティンバレス風の音色を作ったりしているとの事でした。ちなみにこの頃、シンセサイザーの中古機にプレミア価格がつくような事は無く、「ビンテージシンセ」等という言葉もありませんでした。
全く錆びや消耗の類が見られず、あるいは元のオーナーさんが部材の交換をされたのかもしれません。新品同様というか、とにかくピカピカでした。
「SNTHESIZER」の字体は、1980年代初頭のフジテレビ系「オレたちひょうきん族」でYMOの偽者が出演したおり、彼等が演奏(のふりを)した「POLAND」なるメーカーのシンセサイザー(のような姿をした箱)のリアパネルに描かれたロゴと同じです。
ピッチベンドのレンジが広い。レンジを最大値にして、例えば「ド」を押鍵してベンダーレバーを右/左に倒し切ると、1オクターブ上ないし下の「ド」を超えて「ファ#」になります。
32鍵。Roland SHシリーズの32鍵機として、SH-09、そしてSH-101が続きます。
この個体に関して、鍵盤に黄ばみが無く、あるいは元のオーナーさんによって、プラスチックの黄変を解消する処置が施されたのかもしれません。チャタリングも無く、コンディションに問題はありません。
この時代のシンセサイザーの鍵盤全般にいえるのですが、設計時に静粛性を目指した形跡はありません。かなり「カタカタ」いいます。
つまみのトップだけでなく、目盛との接点近くの縁(へり)の部分にも印が入れられています。私のような音色設定に関して神経質な人間にとって、これは大変ありがたい事です。
PSE騒動の頃、オン/オフが無いつまみのみのシンセの中古機に、つまみを0にしてもポルタメントがかかる個体を幾つか見ました。しかしながら、今回のSH-1のこの個体は、左に振り切った状態できちんとポルタメントをカットできていました。
波形はサイン波、矩形波、ランダムで、正逆鋸歯状波はありません。
ディレイタイムは押鍵してから変調がかかり始めるまでの時間なのですが、アナログなのでディレイタイム実行終了と同時にビブラート(VCO)やグロウル効果(VCF)のデプスの設定値が反映されるのではなく、若干なりとも0から設定値までの時間、つまりフェイドインタイムに類する現象が発生します。
ピッチが安定、というか、とにかくきっちりしていました。
波形は鋸歯状波、矩形波、非対称矩形波(パルス波)。
パルスウィズはマニュアル及びソースがLFOとENV-1のPWM(パルスウィズモジュレーション)があります。パルス波のパルスウィズを下げ切ると、矩形波を選んだ場合と聴感的に全く同じ矩形波になりました。
VCOは一つですが、LFO変調のPWM設定時の場合はにじんだ感じ、そして、ENV変調のPWMは弦を撥ねる感じが、各々上手く出ます。
オートベンド(ピッチENV)は、押鍵したピッチより高い方へベンドする設定のみで、リバース曲線はありません。デプスとはピッチENVのアタックレベルとサスティンレベルの共用値、タイムは押鍵してからピッチが設定したデプスへ達するまでの時間です。
サブオシレータは、1オクターブ下及び2オクターブ下の矩形波、2オクターブ下のパルス波。これは同い年のRoland SH-09をはじめ、その後のSH-2、SH-101、MC-202、AMDEK改めRoland DG CMU-810に継承されます。
ノイズジェネレータはホワイト、ピンクを切り替える事ができます。
VCO、サブオシレータ、ノイズジェネレータ、外部入力のレベルを、各々オーディオミキサーで設定します。
ローパスフィルターとハイパスフィルターがあります。
ハイパスフィルターのカットオフフリケンシーは、例えばRoland JUNO-60、JUNO-106のような4段階設定ではなく、0から最大値を連続的に変化させる事ができます。
ENV-1は基本的にVCFと接続されています。VCAは、VCFとEMV-1を共用するか、簡便なENV-2かを選びます。
ENVのアタックタイムやディケイタイムをVCF/VCAで分ける事ができるのは、金管系や撥弦系の音色で威力を発揮します。今回、喜多郎prophet-5ホルンのシミュレーションをしてみたのですが、VCOの波形が鋸歯状波であれPWMであれ、けっこう雰囲気が出ました。
ENV-1のトリガーモードは、マルチ(キーボードゲート+トリガー)、シングル(キーボードゲート)、LFOです。
VCFは自己発振する事ができます。キーボードフォローを最大値にすると、きちんとした平均律になりました。
ENV-1をVCFと共用するかENV-2を充てるかを選択できます。
ホールドレベルは、通常0固定のVCA ENVのアタックレベルを設定する事ができます。つまり、ARP ODYSSEYのVCAゲイン、YAMAHA CS-15のVCAイニシャルレベルと同じです。
ENV-2はアタックタイムとリリースタイムのみ。ディケイタイムは無く、故にアタックレベルとサスティンレベルで最大値を共有しています。
アナログモデリングシンセサイザーRoland AIRA SYSTEM-1、SYSTEM-1m、SYSTEM-8用に、PLUG-OUT SH-1をとも思ったのですが、SH-101 PLUG-OUT、SH-2 PLUG-OUTが、ともにフィルターとアンプでENVを個別に持っている事が判明したので、今はその必要は感じません。
いっその事、このアナログシンセサイザーRoland SH-1そのものを復刻するというのはいかがでしょうか。
by manewyemong
| 2017-05-09 11:46
| シンセワールド
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