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笛、さまざま(1)

 姫神せんせいしょんデビューから姫神・星吉昭さんの晩年にいたるまで、そのサウンドの中核を為してきたのは、バリエーション豊かな笛風の音だと思います。鋭い能管風や竜笛、インドのバーンスリー、小学校のリコーダー風などさまざまです。

 これらは大雑把に、笛1本のソロ、複数本によるアンサンブルに分けられると思います。姫神せんせいしょんの頃、これらの音を担ったシンセサイザーは、Roland SH-2及びKORG Polysix等です。前者は独奏音、後者はアンサンブル音で使っているようです。

 「白い川」のメロディは、独奏の笛が妖しい美しさを秘めた旋律を吹き鳴らす印象的なナンバーです。SH-2がメロディを担当しています。オシレータの波形は矩形波(くけいは)です。SH-2はフィルターとアンプのENVが共通なのですが、デジタルシンセを使うからにはやはり設定を一考したいものです。息を強く吹き込んだ時、弱く吹き込んだ時、タッキング…。管楽器演奏には、表情豊かな演奏法が数多(あまた)あります。アナログシンセが逆立ちしても勝てないくらい豊富なパラメーターがたくさんあるので、それらを駆使して音に豊かな表情を与えるべきです。

 公演中、星さんのSH-2の演奏を見ている時に気付いたのですが、星さんは右手で鍵盤演奏をしながら左手でさかんにスライダーを動かして音色を調整しています。左手は大抵の場合、ベンダーレバーやホイールを操作するのにお使いなのですが、SH-2のときは左手をリアルタイムに音色変化を行うことにも使っていらっしゃいます。

 これを現在のデジタルシンセでやってみましょう。現在のワークステーションタイプのデジタルシンセには、パネルの左手にノブかスライダーが四つほど並んでいます。これらにユーザーが任意に機能をアサインできる機種が増えてきています。フィルターのカットオフやEGのアタックタイム等をこれらのノブで演奏中に調整できるように設定しておくと、ライブ演奏のおり、より感情のこもった演奏ができるでしょう。もちろん鍵盤のベロシティでもカットオフやアタックの強弱(速い遅い)などのコントロールはできますが、ノブでやると、より派手に、大胆に、大仰に効かせる(聴かせる)事ができます。

 SH-2の演奏時、星さんが左手で行っている音色操作のうち、現在のデジタルシンセでは全く不要な行為があります。SH-101登場以前のRoland SHシリーズに関して、手操作でビブラートやグロウル効果をかけるためのコントローラーはありませんでした。また、Roland JUPITER-8、JUPITER-6、 JUNO-6、JUNO-60はベンダーレバー付近にある白いスイッチを押す、SH-101やJUNO-106以降はベンダーレバーを前に押すことでかけたのですが、これらはビブラートやグロウル効果のオン/オフはできても、コルグのシンセのジョイスティックや内外の多くのメーカーが採用しているホイールのように、効果をだんだん深くしていく事ができませんでした。この事は、吹奏、擦絃楽器等のシミュレーションにおいて致命的です。

 そこで星さんは、VCOのMODのスライダーをコントローラーのようにして操作していました。ちょうど今日のヤマハのシンセの右側のホイールでやることを、音色設定のスライダーでやっていたわけです。ベンダーレバーの形状に大幅な改良が加えられたRoland XP-50以降、変調効果をだんだん深くしていく操作ができるようになりました。

 姫神・星吉昭さんの演奏する笛風のシンセ音は、「奥の細道」から遺作「風の伝説」に至るまで吹奏感にあふれています。その理由は、フットボリュームの操作とピッチベンドにあると思います。今回はふれる事ができませんでしたが、姫神の吹奏及び撥絃楽器風シンセ音の重要なファクターの一つであるピッチベンドについては、いずれ述べたいと思います。

 KORG polysixによる笛、さまざま(2)Roland SH-2 PLUG-OUTが出ますに続きます。


訂正。

 本文中、
Roland JUPITER-8、同6、 JUNO-6、同60はベンダーレバー付近にある白いスイッチを押す、SH-101やJUNO-106以降はベンダーレバーを前に押すことでかけたのですが、これらはビブラートやグロウル効果のオン/オフはできても、コルグのシンセのジョイスティックや内外の多くのメーカーが採用しているホイールのように、効果をだんだん深くしていく事ができませんでした。
としたのですが、JUPITER-8及びJUPITER-6のモジュレーションボタンは、ライズタイム(LFO MOD RISE TIME)、つまりボタンが押されてからモジュレーションデプス設定値に至るまでの時間を設定する事ができました。