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「平泉-空-」(アルバム「北天幻想」より)

 平成7(1995)年7月、岩手県平泉町の毛越寺(もうつうじ)浄土庭園で催された姫神法楽会(ほうらくえ)の翌日夕刻、私は中尊寺境内の東の物見(ひがしのものみ)で、ベンチに座って眼下の光景を眺めていました。空の茜色が山野を染め、ヒグラシが唄っていました。

 そこへ、おそらく地元の方と思われるガイドさんが、20人ほどの団体客を伴って来られました。境内の讃衡蔵(さんこうぞう)や金色堂等を巡った帰途だと思います。


「今、眼下には田んぼが広がっていますが、かつては役所やお寺、邸宅が建ち並んでいました…」

と始まったガイドさんのお話は、まさに名調子でした。博識であることはもちろん、言葉の端々に平泉町に対する愛情と、かつての奥州藤原氏の百年の歴史に対する哀惜が込められていました。

 ガイドさんの結びの言葉が終わると、聞き入っていた団体客はもとより、いわばガイドさんのお話を盗み聞きしていた私も思わず拍手をしていました。

 前夜の法楽会は名目上仏事とはいえ、“音と光の一大〜”といった、バブル期に自治体が乱発した地方博のオープニング/エンディングセレモニーのようなものでしかなく、平泉の地で行うことの意義を感じないものでした。

 しかしながらこのガイドさんの語りに、“つわものどもが夢の後”に生き続けた人々の想いが感じられました。ブラウン管や小説の行間から垣間見るのではなく、ここに来ることによって味わえた感動でした。

 この日以来「平泉-空-」(アルバム「北天幻想」より)は私にとって、中尊寺の東の物見で見た鮮やかな茜色の空と、そこで味わったちょっとした感動を思い返す誘い水のような音楽になりました。

by manewyemong | 2006-03-31 19:54 | 音楽 | Comments(0)