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「小春日和」(マキシシングル「未来の瞳」より)

 姫神・星吉昭さんが作った縄文語詞を姫神ヴォイスが唄っているナンバーです。歌詞およびその現代語訳は公にされていません。童歌(わらべうた)のような趣きの曲です。

 小春日和(こはるびより)というのは国語辞典によると、

陰暦十月のころ(のような)よく晴れた暖かいひより

の事だそうです。

 この小春日和の頃、秋田県の内陸部では“雪迎え(ゆきむかえ)”と呼ばれる現象が見られるそうです。これは英語でいうところの“ゴッサマー(gossamer)”で、蜘蛛が幾条もの糸を出し、浮力がつくとそのまま飛んでいく姿が1度に数多く見られる現象をいいます。

 子蜘蛛が1匹飛んでいく姿は私の部屋ですら見えるのですが、ゴッサマーは蜘蛛の成虫が数多飛翔することのようです。冬を前にして蜘蛛たちが広範囲に散っていく事で、種の生存を維持していく事を企図しているのではないかと考えられています。

 雪迎えが飛ぶとまもなく里にも雪が降るといい、彼の地では冬支度や農作業の目安にするそうです。

 江戸時代に書かれた「梅翁随筆」に、大坂(大阪)にゴッサマーと思われるものが発生した記述があります。寛政11(1799)年10月14日は小春日和だったのですが、その昼頃、淀川から天王寺にかけてひっきりなしに飛び始め、14時には無くなりました。翌日は多少風がある事以外は同じような天気だったのですが、少しも飛ばなかったそうです。

 「梅翁随筆」の筆者はこの飛行物体の正体に首をひねったそうですが、秋田の人が見ればそれは雪迎え、つまり飛翔する蜘蛛の糸だと分かったのではないでしょうか。その年の夏、あるいはその後訪れた冬の大坂の気候がどうであったか分かれば、因果関係が分かるかもしれません。

 また「ロミオとジュリエット」の第2幕第6場に、

おお、あの軽やかな足どり、堅い石に道は少しもすり減りはしまい!恋する者には浮気な夏の風にゆられるゴッサマーさえ格好な揺り籠。いたずらな喜びはそれほど軽いのだ

という台詞があります。シェークスピアは劇中、ゴッサマーを浮気心の象徴として使っています。

 私はゴッサマーを、実物はもちろん映像ですら見た事は無いのですが、姫神の「小春日和」を聴くと、小春日和の日、おびただしい数の銀色の蜘蛛の糸が、あるとも無いともない風に乗ってどこへともなく飛んでいく光景を想像します。

 そしてその雪迎えを見ながら降雪を予感する東北地方の人々の心情にも、思いを馳せてみたくなります。


平成25(2013)年1月20日訂正。

 文中、

秋田の人が見ればそれは雪迎え、つまり飛翔する蜘蛛の糸だと分かったのではないでしょうか

としたのですが、雪迎えの正体が蜘蛛である事が知られるようになったのは、昭和14(1939)年だそうです。


参考文献

「半井小絵のお天気彩時記」(半井小絵著、かんき出版刊)
 「冬の章 小春日和と空飛ぶクモの糸」を参考にしました。

「東西不思議物語」(澁澤龍彦著、河出文庫刊)
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/4309400337
 「天から降るゴッサマーのこと」を参考にしました。


平成26(2014)年4月24日追記。

 科学誌「Newton」昭和58(1983)年12月号に、「人里に雪を迎える初冬のクモたち」と題して、雪迎えとゴッサマーについて書かれています。おしりの糸を風になびかせて、葉先からから飛び立とうとしているカイゾクコモリグモの写真が載っていました。

by manewyemong | 2006-11-26 00:19 | 音楽 | Comments(0)