「月のほのほ」(アルバム「姫神」より)
宮沢賢治に「月のほのほをかたむけて」という詩があるのですが、その詩と姫神せんせいしょんの「月のほのほ」とは、私の中で特に結びつきませんでした。
私はアルバム「姫神」で、
としました。
「舞鳥」では「江戸名所図屏風(えどめいしょずびょうぶ)」という屏風絵を、そして「七時雨」では葛飾北斎の「富嶽三十六景」の「駿洲江尻(すんしゅうえじり)」という浮世絵を挙げたのですが、「月のほのほ」に関しては、歌川(安藤)広重(うたがわ/あんどう・ひろしげ)が描いた夜空に白金色の満月が浮かぶ浮世絵、「東都名所」の「吉原仲之町夜桜」、「名所江戸百景」の「月の岬」「猿わか町よるの景」といった作品を想起しました。
「吉原仲之町夜桜」「月の岬」「猿わか町よるの景」と並べると、この順番で月が高く昇っていくのですが、「月のほのほ」も曲が進むに従って月が高く昇っていくような感じがします。
前半部分のオートベンドやポルタメントのかかったリード(2種)、撥弦風のシンセ音、ステレオ音場の両端に配された二つのオスティナートといったパートは、いずれも「吉原仲之町夜桜」に描かれた夜の廓やそこへ入っていく人々を、アコースティックギターのストラミングは月光に映える夜桜の並木を、そして冷涼な感じの笛の音は広重の得意な白金色の満月を思い浮かべました。
お座敷小唄や「猫じゃ猫じゃ」といった俗曲のように聴こえる間奏部分が、私には何だか艶っぽく感じられます。広重の「月の岬」に描かれた、障子に隠れた女の影と僅かに見える男(もしかしたら女かもしれませんけど…)の着物の端、それまで2人が寄り添って箸をつけていたであろう酒肴の散らかり、品川沖に浮かぶ舟、夜間飛行する鳥のV字編隊、そしてこれら全てを見つめ、絵の中の2人の“これから”を見つめる中空の月…。「月の岬」のキャラクター達を、「月のほのほ」の間奏部分のそれぞれのパートが演じ描いているように思えました。
お座敷小唄のようなフレーズの「シュッ」という音の混じった笛は、通常姫神せんせいしょんが笛に使っていたRoland SH-2やKORG Polysix(笛、さまざま2参照)ではなく、VCF、VCAが個々にEGを持ったアナログシンセサイザーで作ったと思われます。
「月のほのほ」の後半はリズムパートが加わり、前半の各パートが頻繁に入れ替わったり絡んだりしながら、次第に高揚していきます。この後半部分は広重の「猿わか町よるの景」と結びつきました。
「猿わか町よるの景」は三座(市村座、中村座、森田座)のある猿若町の夜を描いたものですが、櫓(やぐら)のある三座はいずれも灯りが点いていないので、恐らく三座とも休館日だったと思われます。芝居見物に来てアテが外れてしまったであろう人々(人々の歩く向きが廓へ向かう「吉原仲之町夜桜」と違い同一方向ではない事から想像しました)、小屋が休館でも営業している芝居茶屋から漏れる灯り、そしてそれら猿若町の一瞬を照らす高く昇った月の光。
「月のほのほ」後半の高揚感は「猿わか町よるの景」と同様、天空の月と下界のコントラストをよりはっきり描いているように思われます。
私が挙げた広重の三枚の浮世絵は、いずれも廓、海の見えるお座敷、芝居小屋といった、非日常的空間と月を組み合わせた作品ですが、「月のほのほ」も、普段とは違った場所や事件に遭遇している人間の気持ちや、それを照らす月明かり(月のほのほ)が、一段の幽玄な音楽としてまとめられているような気がしました。
電気が無かった時代、夜に最も明るく輝く存在は月でした。姫神せんせいしょんの「月のほのほ」に、イルミネーションに邪魔されなかった時代の月と、その下で繰り広げられる数多(あまた)の人間模様を想起しました。
ちなみに「星はめぐり」(アルバム「姫神風土記」より)の中で採り上げたゴッホの「夜のカフェテラス」は、「猿わか町よるの景」に強い影響を受けた作品です。「月のほのほ」は、広重、ゴッホ、姫神という、月夜や星空を描く事に長けたアーティスト達が、私の中で交差した作品です。
ANDO HIROSHIGE FAMOUS PLACES OF THE EASTERN CAPITAL
(東都名所)
http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/views_edo/edo_kikakudo_sanoki_1833_43/edo_kikakudo_sanoki_1833_43.htm
英文です。
Cherry Blossoms Yoshiwara(吉原仲之町夜桜)
http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/views_edo/edo_kikakudo_sanoki_1833_43/images/cherry_blossoms_yoshiwara.jpg
ANDO HIROSHIGE ONE HUNDRED FAMOUS VIEWS OF EDO
(江戸名所百景)
http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/100_views_edo/100_views_edo.htm
Moon Promentory(月の岬)
http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/100_views_edo/images/100_views_edo_082.jpg
Night View of Saruwakacho(猿わか町よるの景)
http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/100_views_edo/images/100_views_edo_090.jpg
「ゴッホ・夜のカフェテラス」(「名画デスクトップ壁紙美術館」より)
http://stephan.mods.jp/kabegami/kako/2CafeTerrace.html
フィンセント・ファン・ゴッホ「夜のカフェテラス」
(テレビ東京「美の巨人たち」より)
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/picture/f_050709.htm
私はアルバム「姫神」で、
このアルバムを聴いた当時、私は浮世絵や屏風絵に関心があり、学校の図書室でそれらに関する蔵書を見ていました。そのせいか各曲から得たイメージが、日本画及びその画法による色彩に関するものが多い
「舞鳥」では「江戸名所図屏風(えどめいしょずびょうぶ)」という屏風絵を、そして「七時雨」では葛飾北斎の「富嶽三十六景」の「駿洲江尻(すんしゅうえじり)」という浮世絵を挙げたのですが、「月のほのほ」に関しては、歌川(安藤)広重(うたがわ/あんどう・ひろしげ)が描いた夜空に白金色の満月が浮かぶ浮世絵、「東都名所」の「吉原仲之町夜桜」、「名所江戸百景」の「月の岬」「猿わか町よるの景」といった作品を想起しました。
「吉原仲之町夜桜」「月の岬」「猿わか町よるの景」と並べると、この順番で月が高く昇っていくのですが、「月のほのほ」も曲が進むに従って月が高く昇っていくような感じがします。
前半部分のオートベンドやポルタメントのかかったリード(2種)、撥弦風のシンセ音、ステレオ音場の両端に配された二つのオスティナートといったパートは、いずれも「吉原仲之町夜桜」に描かれた夜の廓やそこへ入っていく人々を、アコースティックギターのストラミングは月光に映える夜桜の並木を、そして冷涼な感じの笛の音は広重の得意な白金色の満月を思い浮かべました。
お座敷小唄や「猫じゃ猫じゃ」といった俗曲のように聴こえる間奏部分が、私には何だか艶っぽく感じられます。広重の「月の岬」に描かれた、障子に隠れた女の影と僅かに見える男(もしかしたら女かもしれませんけど…)の着物の端、それまで2人が寄り添って箸をつけていたであろう酒肴の散らかり、品川沖に浮かぶ舟、夜間飛行する鳥のV字編隊、そしてこれら全てを見つめ、絵の中の2人の“これから”を見つめる中空の月…。「月の岬」のキャラクター達を、「月のほのほ」の間奏部分のそれぞれのパートが演じ描いているように思えました。
お座敷小唄のようなフレーズの「シュッ」という音の混じった笛は、通常姫神せんせいしょんが笛に使っていたRoland SH-2やKORG Polysix(笛、さまざま2参照)ではなく、VCF、VCAが個々にEGを持ったアナログシンセサイザーで作ったと思われます。
「月のほのほ」の後半はリズムパートが加わり、前半の各パートが頻繁に入れ替わったり絡んだりしながら、次第に高揚していきます。この後半部分は広重の「猿わか町よるの景」と結びつきました。
「猿わか町よるの景」は三座(市村座、中村座、森田座)のある猿若町の夜を描いたものですが、櫓(やぐら)のある三座はいずれも灯りが点いていないので、恐らく三座とも休館日だったと思われます。芝居見物に来てアテが外れてしまったであろう人々(人々の歩く向きが廓へ向かう「吉原仲之町夜桜」と違い同一方向ではない事から想像しました)、小屋が休館でも営業している芝居茶屋から漏れる灯り、そしてそれら猿若町の一瞬を照らす高く昇った月の光。
「月のほのほ」後半の高揚感は「猿わか町よるの景」と同様、天空の月と下界のコントラストをよりはっきり描いているように思われます。
私が挙げた広重の三枚の浮世絵は、いずれも廓、海の見えるお座敷、芝居小屋といった、非日常的空間と月を組み合わせた作品ですが、「月のほのほ」も、普段とは違った場所や事件に遭遇している人間の気持ちや、それを照らす月明かり(月のほのほ)が、一段の幽玄な音楽としてまとめられているような気がしました。
電気が無かった時代、夜に最も明るく輝く存在は月でした。姫神せんせいしょんの「月のほのほ」に、イルミネーションに邪魔されなかった時代の月と、その下で繰り広げられる数多(あまた)の人間模様を想起しました。
ちなみに「星はめぐり」(アルバム「姫神風土記」より)の中で採り上げたゴッホの「夜のカフェテラス」は、「猿わか町よるの景」に強い影響を受けた作品です。「月のほのほ」は、広重、ゴッホ、姫神という、月夜や星空を描く事に長けたアーティスト達が、私の中で交差した作品です。
ANDO HIROSHIGE FAMOUS PLACES OF THE EASTERN CAPITAL
(東都名所)
http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/views_edo/edo_kikakudo_sanoki_1833_43/edo_kikakudo_sanoki_1833_43.htm
英文です。
Cherry Blossoms Yoshiwara(吉原仲之町夜桜)
http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/views_edo/edo_kikakudo_sanoki_1833_43/images/cherry_blossoms_yoshiwara.jpg
ANDO HIROSHIGE ONE HUNDRED FAMOUS VIEWS OF EDO
(江戸名所百景)
http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/100_views_edo/100_views_edo.htm
Moon Promentory(月の岬)
http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/100_views_edo/images/100_views_edo_082.jpg
Night View of Saruwakacho(猿わか町よるの景)
http://www.hiroshige.org.uk/hiroshige/100_views_edo/images/100_views_edo_090.jpg
「ゴッホ・夜のカフェテラス」(「名画デスクトップ壁紙美術館」より)
http://stephan.mods.jp/kabegami/kako/2CafeTerrace.html
フィンセント・ファン・ゴッホ「夜のカフェテラス」
(テレビ東京「美の巨人たち」より)
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/picture/f_050709.htm
by manewyemong
| 2006-12-18 14:30
| 音楽
|
Comments(0)