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KORG R3試奏記(2)

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 KORG R3試奏記(1)ではルックスやマン/マシンインターフェイスに関する事柄を記しましたが、ここではKORG R3のパラメーターに関して、私が興味をひかれた部分や、他のアナログモデリングシンセサイザーやワークステーション機との相違点を中心に触れてみたいと思います。

 UNISONというページがあるのですが、1音あたり2〜4のボイスを重ねることができ、それらをディチューンしたり、各ボイスのステレオ音場での位置を均等に広げたりすることができます。RADIASの場合2〜6ボイスを重ねることができます。

 PITCH-Aというページにはアナログチューンというパラメーターがあり、押さえられた和声の各ノートのチューニングをずらして音程の不安定感を演出します。発売2ヶ月以上前のV-Synth GTを店頭で触らせていただいた(Roland V-Synth GT試奏記参照)時、ローランドの関係者の方が説明をしてくださった中にこれと同じ機能がありました。アナログポリシンセで和声を鳴らした時のあの感じを出せていました。

 PITCH-Bページのベンドホイールのレンジに関して、ワークステーション機の場合、ジョイスティック/ベンダーレバーを右左に倒す、つまりホイールでいえば、押した時と手前に引いた時の変化の幅を個別に設定できるのですが、R3は残念ながら他のアナログモデリング機同様押す/引くの絶対値しか設定できません。しかしながら効果の方向を逆に設定することはできます。モジュレーションホイールは、バーチャルパッチを介さずともLFO2と接続されています。

 OSC1ページはオシレータ1の波形に関する設定パラメーターが、四つの操作子にアサインされています。鋸歯状波、矩形波を含むパルス(非対称矩形)波、三角波、サイン波はもちろん備わっています。いずれも操作子3(コントロール1)で波形に変化を加え、操作子4(コントロール2)でLFOからの信号による変調をかけることができます。

 フォルマントは人声を作るのに使えます。ノイズはオシレータミキサーにあるものとは別にノイズを作ることができ、操作子3で数値を上げていくとフィルターの自己発振のようにサイン波が加わり音程感が出てきます。冨田勲さんがシステムシンセサイザーmoog III p(モーグスリーポータブル)で作り、後々多用した口笛の音に似た感じがします。他に64種のDWGS波形や外部音声の入力モードもあります。

 MIXERというページではオシレータ1/2/ホワイトノイズのレベルを各々調整します。Roland JP-8000/8080やSH-201の場合、オシレータ1/2のバランスはとれても各々のボリュームを調整することはできません。MIXERには他に押鍵時アタックにパルス波を加えるパンチレベルというパラメーターがあります。

 アンプ部と関連していると思われるDRIVE/WSというページには、ウェーブシェイプやドライブといったパラメーターがあります。音に歪み等を加えてインパクトを与えるのだそうです。MS2000シリーズmicro KORGでは単にオーバードライブのオン/オフだけでした。

 コルグのワークステーション機01/Wのオシレータに、ウェーブシェイピング機能というものがあり、様々なモードが用意されていたのですが、鋸歯状波以外の波形にかけると、いずれも単にオーバードライブをかけたような音にしかなりませんでした。RADIASやR3のウェーブシェイプとの関係は分かりません。

 EGは三つあり、そのうちEG1にはフィルターが、EG2にはアンプが接続されています。しかしながらEG1はEG1Int、つまりフィルターへのかかり具合のデプスを決めるパラメーターを0にすることによって事実上接続を切ることもできます。バーチャルパッチを介して、フィルターとアンプをEG2にひとまとめにして、残りのEG1、3を別のディスティネーションに割り振るといったこともできます。

 EGそのもののパラメーターはオーソドックスなADSRタイプです。RADIASのEGのディケイタイムやリリースタイムにはその弧の形を五つのパターンから選べるパラメーターがあるのですが、R3では省略されています。

 またEG VELO INTというページには、ベロシティ(鍵盤を弾く強さ:鍵盤が押し下げられる速さ)によって、各EGのかかり具合を変化させるパラメーターがあります。日本のメーカーのアナログモデリングシンセで、ベロシティがEGにも作用するモデルは、現行機中だとRADIASやR3くらいしか思い浮かびません。本体のエディットではEG VELO INTに三つが配されているのですが、パソコンのエディタ上では各EGに付随する形でならんでいます。

 LFOは二つ。これまでのコルグのアナログモデリング機同様、ディレイタイムやフェイドタイムに関するパラメーターはありません。手操作ではなく回路上でそれらに関する設定を行う場合、モッドシーケンス機能を使うことになります。

 ローランドのJP-8000/8080やSH-201には、フェイドインタイムに関するパラメーターはあるのですが、なぜかディレイタイムを設定することはできません。Roland SH-201試奏記でディレイタイムもフェイドインタイムも無いとしたのですが、実際はLFOボタンを押しながらRATEつまみを回すという想像を絶する方法で設定します。説明書無しでこの方法を見つけるのは難しいと思います。

 MS2000シリーズやmicro KORGでは四つだったバーチャルパッチが六つに増え、各々一つのページに変調のソース、ディスティネーション、インテンシティが操作子に割り当てられます。ソース及びディスティネーションは、MS2000シリーズやmicro KORGとほとんど同じです。

 私がKORG MS2000登場時、最も興味を持ったのがモッドシーケンス機能なのですが、R3にはMS2000シリーズやRADIASの3系統とくらべると少ないのですが1系統装備されました。機能はこれまでのものと変わりなく、16ステップに様々なパラメーターを充てて変化させたり、操作子の動きそのものをリアルタイム入力できます。16コマのバリュー変化のアニメーションを作るといった考えで使うことができ、コマとコマの間を滑らか(スムース)にも飛ばしたり(ステップ)もできます。

 内蔵エフェクターは30種類あり、インサーション2系統(1ティンバーあたり)、マスター1系統が同時に使えます。エフェクターにはインサーション/マスター両方で使えるものと、インサーションのみ、あるいはマスターのみで使えるものとがあります。インサーション及びマスターともにステレオ入出力です。コルグのワークステーション機TRITONシリーズは5系統のインサーションはステレオ入出力でしたが、2系統のマスターはモノラル入力ステレオ出力でした。

 R3はアナログモデリングシンセサイザーであると同時にボコーダーでもあるのですが、私にボコーダーに関する知識が無い故に、店頭展示機で音を作ってみるということができませんでした。ただ、R3のボコーダーはRoland VP-550と違ってパラメーターをエディットできるので、私が指向している姫神せんせいしょんの「赤い櫛」(アルバム「遠野」より)での姫神・星吉昭さんによる「シャー、シャッシャー…」のようなボコーダー音は作ることができそうな気がします。

 KORG R3はTHE NAMM SHOW 2007で発表された中で、私が最も関心を持ったモデルなのですが、実際に触れてみて期待に違わないことを実感しました。EGがADSRタイプのシンセサイザーに対して、私が出費できるのはこの価格帯が限度なのですが、仕様も見た目も使い勝手も申し分の無いものでした。パラメーター選びに関して何段階にも降りていく必要が無く、ページダイヤルを回すだけで四つづつパラメーターを視認し操作することができます。

 私は目線や手指を頻繁に移動させるより、目的のパラメーターをたぐり寄せる形で視認や操作をしたいのですが、R3は私が知るアナログモデリングシンセの中で、最もその条件に合致したモデルだと思います。

 21世紀に入ってから廉価機にしか興味が湧かないとこれまで何度か書き、そしてRoland V-Synth GTやKORG M3でそれを撤回できるかなと思ったのですが、その後、M3のボタンの脆弱感(店頭展示機の中には既に著しく歪みが出ているものがあり、経年劣化どころか経“日”劣化といった感がある)や、V-Synth GTのテンキーがパラメーターのバリュー入力には使えないこと等を知るにつけ、完成度という点でKORG R3の方に軍配を上げたいなと思います。

by manewyemong | 2007-06-14 20:15 | シンセワールド | Comments(0)