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女声ハミングのようなリード音

 せんせいしょんのアルバム「桃源郷」(アルバム「桃源郷」123参照)に収録されている「みみずく」の裏メロ及び「ウスユキ草」「夏まつり」のメロディで使われている、「ウー」「ゥワー」と聴こえる女声ハミングかテルミンのようなリード音について記します。言うまでもないことですが、この音色がここで記す方法で実際に作られたか否かはわかりません。あくまで私のやり方です。

 アルバム「北天幻想」の口笛をエディットする形で話を進めていきたいと思います。

 「北天幻想」の口笛では特にポリフォニック/モノフォニックについて記しませんでしたが、今回の「ウスユキ草」等のリード音はモノフォニックで、なおかつレガートの時にリトリガーがかからないように設定します。例えばコルグのワークステーション機の場合、ボイスアサインモードをモノにし、レガートプライオリティ・ラストにチェックを入れます。

 「北天幻想」の口笛と違い、「ウスユキ草」等のリード音にはピッチEGによるオートベンドはありません。EGデプスをゼロにするなどしてピッチにEGがかからないようにしてください。

 「北天幻想」の口笛はオシレータを一つしか使いませんでしたが、「ウスユキ草」等のリード音は二つ使います。コルグのワークステーション機の場合はダブルモードに、そしてローランドはトーンを二つ、ヤマハはエレメントを二つ使います。理由は1オクターブインターバルの空いた二つのサイン波を使うからです。

 1オクターブインターバルの空いた二つのサイン波の音量バランスは、今回採り上げている「ウスユキ草」等のリード音の印象を決定づける重要な要素です。低い方のオシレータの音量を規準にして、1オクターブ上のオシレータの音量のブレンド具合を調整して好みのポイントを見つけてください。ワークステーション機を使う場合、オシレータからフィルター、アンプ、EG、LFO等を二つ設定することになりますが、フィルターとアンプ部のキーボードトラック(キーボードフォロー)を一考して、二つの音源の音量バランスが鍵盤の位置によって微妙に変わるように設定するのもいいかもしれません。私はそうしました。

 ポルタメントはレガートの時のみかかるように設定してください。もちろんフットスイッチを使ってオン/オフする方法も使えますが、今回の「ウスユキ草」等のリード音は、スタッカート/レガートによるリトリガーする/しないがタイトに弾き分けられていて、そのことがフレーズ演奏にマニュアル感を与えています。どうせスタッカート/レガートを弾き分けるからついでにポルタメントも、と思います。また今回の音色の場合、私はタイム設定よりもレイト設定の方が好みです。

 ビブラートはディレイタイムはもちろん、フェイドインタイムも丁寧に設定して、唐突感が出ないようにします。デプスに関してもくどくならないように設定すべきでしょう。

 ベロシティはフィルターの開きや音量だけでなく、EGの各タイム/レベルのコントロールにも使うと、より「ウー」「ゥワー」という女声ハミングっぽい歌唱感?が出ます。特に「ウスユキ草」でのこの音のパートは、曲の進行に沿って緩急が変化していくのですが、ベロシティによる音色のコントロールは効果的だと思います。ただ、これも増長して大仰にやりすぎると、くどくなってしまいます。

 アルバム「桃源郷」のレコーディングでシンセサイザー/ドラム佐藤将展さんがお使いか否かはわかりませんが、私はこの音色の音量コントロールに関してフットボリュームを使いたいと思います。

 現行機のプリセット音の中には、少しエディットすると今回採り上げた「ウスユキ草」等のリード音に似て来るものがあります。アナログモデリングシンセKORG R3(KORG R3 THE NAMM SHOW 2007KORG R3試奏記12参照)のカテゴリー“VINTAGE LEAD”の3番“700sLead”、ワークステーション機Roland Fantom G(Roland Fantom G試奏記参照)のカテゴリー“Soft Lead”内にある“996 Sinetific”がそれです。SinetificはFantom Gの前モデルFantom Xにも入っていました。

 これらのリード系プリセット音は、オシレータ波形がサイン波であることと1オクターブ差異のある二つのオシレータを使っていることが、いずれも今回採り上げたリード音と共通していて、何より聴感的に似ています。

 まずKORG R3の700sLeadはポルタメントがかかりっぱなしになっているので、レガートの時のみかかるように変えます。またオシレータ1とオシレータ2(1オクターブ上)の音量バランスをミキサー部で変えます。オシレータ1は最大値になっていますので、それはそのままにオシレータ2の音量を変えてください。

 発声はモノフォニックでなおかつレガートの時リトリガーしないように既になっているはずです。

 ビブラートは、モジュレーションホイールによるマニュアル操作を前提にした設定になっていますが、これもコルグのアナログモデリングシンセの特長の一つであるモッドシーケンス機能を使って、ディレイフェイドインビブラートをシンセにまかせてしまうのもいいかもしれません。

 Fantom GのSinetificはTMTページのベロシティレンジロワーが、トーン1は1、トーン2(1オクターブ上)は100いくつかになっていますが、これを1にそろえてください。そしてTVAのトーンレベルで音量バランスを変えます。たしかトーン1側が最大値になっていたはずです。トーン2の方のレベルを変えて今回のリード音に近い値を見つけてください。

 発声はモノフォニックにはなっているのですが、レガートの時、たしかリトリガーしないようにはなっていなかったと思います。またポルタメントもかかりっぱなしの状態のはずです。Solo/Portaページで変えてみてください。ポルタメントはタイム設定になっていますが、先に記したとおり私はレイトにして使うと思います。

 ビブラートは700sLead同様Sinetificも、ベンダーレバーの操作を前提にした設定になっているのですが、これも0になっているLFOのディレイタイムやフェイドタイム、ピッチのデプス等に数値を入れてシンセ側からビブラートをかけさせるのもいいかもしれません。アフタータッチはピッチベンドが設定されているのですが、これをビブラートに変えて使うという手段もあります。これらの方法でビブラートをかけることで、余った手が別のことに使えます。

 「ウスユキ草」でも書きましたが、今回作ってみた音はシンセサイザー黎明期から1980年代初頭にかけて、様々なジャンルの音楽で耳にしました。今日でも唄入りの曲のイントロや間奏で聴くことがあります。

 昭和57(1982)年夏に公開された富野喜幸監督のアニメーション映画「イデオン<発動編>」は映像もストーリーもあまりにも衝撃的だったのですが、すぎやまこういちさんによるオーケストラや混成四部合唱、そしてシンセを使った音楽も壮大なものでした。この映画は最後に全ての登場人物が死に絶え、殺し合って死滅した二つの星の全人類の魂がある星の海に降り注いで終わるのですが、主人公の魂が目覚めるシーン等で、オーケストラと「ンーンーンンー…」という男声ハミングに乗る形で、ポルタメントはかかっていないものの今回作った音と似たシンセ音が、哀調を帯びたメロディを奏でました。LPレコードしか持っていないので記憶が曖昧なのですけど…。

 また冨田勲さんが編曲演奏した、クロード・ドビュッシー作曲「亜麻色の髪の乙女」(アルバム「月の光」より)、ホアキン・ロドリーゴ作曲「アランフェス協奏曲」第2楽章(アルバム「宇宙幻想」)、ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲「アヴェ・マリア」(アルバム「バッハ・ファンタジー」)等のメロディ音が、今回作ってみた「ウスユキ草」等のリード音と少し似ていますが、システムシンセサイザーmoog III p(モーグ・スリー・ポータブル) を使った冨田さんのそれは、流石に音変化がより複雑です。

 アルバム「バッハ・ファンタジー」の冨田さん自身によるライナーノーツには、
この乙女のハミングはちょっとむずかしいぞ。でも、やり方は教えない。工夫しなさい。(平成8年からみて)22年前のシンセでもできたんだから。それからすると、今のシンセは何百倍も便利になっている筈ですぞ。
と書いてありました。挑戦してみてはいかがでしょうか。ヒントはグライド(ポルタメント)です。
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by manewyemong | 2008-04-27 20:57 | シンセサウンドメイクアップ | Comments(0)

「あのシンセサイザー奏者が出しているあのシンセサイザー音はあのシンセサイザーで出してんのか!いっちょあのシンセサイザー買いにいくか!」よりも、「価値あるものを買うのではなく自分で価値を作れる人間は強い」(岡崎武志「女子の古本屋」より)でありたいと思います。


by manewyemong