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喜多郎miniKORG 700Sリード

 喜多郎さんの「プロメシュームの想い」「未来への讃歌」(「1000女王」オリジナルサントラ盤より)「母なる大河」「グレートピラミッド」(「ANCIENT」)「旅路」(「An Ancient Journey」)等、極めて多くの曲で艶やかなリード音がメロディを奏でています。

 時に優しく、時に物悲しく、あるいは侘しくも聴こえるこのサウンドを鳴らしているのは、コルグのアナログモノフォニックシンセサイザーminiKORG 700Sという機種です。

 miniKORG 700Sは、国産初の量産型シンセサイザーminiKORG700にVCOを増装して2VCOにし、リングモジュレータを加えたモデルです。主に輸出目的で製造されたようです。

 喜多郎さんのリード音はVCOを一つしか使わず、またリングモジュレータも使っていないので、miniKORG 700でも同じ音が出ます。

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 喜多郎さんが今日まで使っている理由なのかもしれませんが、このシンセの聴感上の特徴は、アナログシンセとは思えないほど音像がはっきりしていて、なおかつ低雑音であるという事です。

 一昨年の10月、miniKORG 700の実機を触らせていただく機会を得ましたが、何だか古色蒼然としたこのシンセから、むしろある意味デジタル的な音が出てくる事に驚かされました。実際1970年代後期から1980年代初頭のアナログシンセ終焉期の機種(各部位にローコスト指向が働いている?)よりも、現在のデジタルシンセサイザーの方がはるかに上手く真似できます。

 以下、デジタルシンセで再現するヒントを列挙していきます。

 喜多郎さんのminiKORG 700Sのリード音は、オシレータ波形を三角波にしているのですが、miniKORG 700及び700Sはこの三角波がかなりゆがんでいて、聴感上全く三角波には聴こえません。この事がこのシンセの出音の個性の一つにもなっています。オシレータ波形としては三角波となっていますが、聴感的にはパルス波と思われます。

 オシレータ波形に関してコルグのTRINITY(KORG TRINITY plus試奏記1KORG TRINITY plus試奏記2参照)/TRITONシリーズやKARMAOASYSTRM3M50の場合Pulse-33%が使えます。また、コルグのWAVESTATIONシリーズにも名称は違いますが同じ波形が入っています。Pulse-33%はサンプリングではなく、倍音加算合成方式で作ったものをオシレータへ焼き込んだDWGS波形と思われます。

 Roland Fantom XFantom GJUNO-GJUNO-STAGEのオシレータには、その名もズバリ700 triangleという波形が入っています。これはminiKORG 700をサンプリングしたものと思われます。

 ローランドのPCMシンセにはパルスウィズ33%という名称ではないのですが、オプション波形としてオーバーハイムのシンセから採ったと思われるOB Pulse 3、YAMAHA CSからのCS Pulse 1がパルスウィズ33%として使えます。

 アナログモデリングシンセでもパルス波でシミュレーションできます。 KORG MS2000シリーズmicro KORGRADIASR3microKORG XLの場合、オシレータ1のみを使い、コントロール1(ここでパルス波の幅を設定する)を42にし、コントロール2(ここで波形をLFO変調する)を0にします。

 Roland V-Synth及びXT、GTのアナログモデリング部は、パルス波の幅の設定に関するパラメーターが実に豊富です。パルスウィズを-21、パルス幅の周期/経時変調は不要なのでパルスウィズLFO及び同ENVデプスを0にしてください。またオシレータ波形を三角波にしてパルスウィズに関するパラメーターを同じ設定にしても似るのですが、大雑把に触った限りではパルス波よりかなり暗い音になります。

 参考までにパルス波の幅に関して、アナログモノフォニックシンセサイザーRoland SH-101等の取扱説明書に、

幅の比によって倍音構成が大きく変化する、上部の幅が全体のn分の1の時n倍音系列が欠落するという性質があり、33%の場合、3、6、9倍音が抜ける。

という意味の記述があります。

 FM音源シンセサイザーYAMAHA DX7の場合、プリセット音Female Voiceをエディットすると似た音になりました。23年近く前の話であり、どうやって作ったかを完全に失念したのですが、DX7発表時期のキーボードマガジンの付録ソノシート「DX7 SOUND SENSATION 脅威の“音”の世界」(演奏は井上鑑さん。恐らく歴史上DX7を使用した初のレコード)のA面1曲目、B面2、8曲目に使われていたFemale Voiceを聴いただけでピンと来ました。

 喜多郎miniKORG 700Sリードのもう一つの特徴であるオートベンド(ピッチEG)の設定のポイントは、押鍵した音程より低い音程からピッチがスタートするということです。スタートレベルをマイナス値、そしてアタックレベルを0に設定します。つまり、音程がスタートレベルで設定した値から押鍵した音程まで上がって来るまでの時間がアタックタイムです。サスティンレベルも当然ながら0です。サスティンレベルが押鍵した音程でなければならないからです。ちなみに先に挙げたコルグのワークステーション機にはピッチEGのサスティンレベルが無く、0固定です。

 KORG MS2000シリーズやmicro KORG、RADIAS、R3、microKORG XL、Roland V-Synthシリーズの場合、EGにマイナス値はありません。スタートレベルはプラスでもマイナスでもなく0固定、つまりピッチEGの場合、押鍵した音程から始まります。こういったピッチEGの場合、オシレータへのかかり具合を設定するパラメーター(コルグのアナログモデリング機の場合、バーチャルパッチ EG→ピッチ)の値をリバース(マイナス)方向に下げます。この値が低いほどピッチベンドの始まりの音程が深い(低い)ことになります。そして、アタックではなくディケイタイムがオートベンドの時間設定のパラメーターになります。ピッチEGのアタックタイムは0にします。これは押鍵したピッチからEGデプスで設定したマイナス音程までの実行課程が、今回のオートベンドの場合邪魔だからです。そしてディケイタイムでEGデプスで設定したマイナス音程から押鍵した音程になるまでの時間を設定します。もちろんサスティンレベルは0です。

 以前、喜多郎さんのたしか大阪城ホール柿(こけら)落としのライブビデオを見たおり、右手の人差し指から小指を使って鍵盤演奏しながら、親指を使ってオートベンドかポルタメントのスイッチ操作をしていた記憶があります。miniKORG 700/700Sは操作パネルがフロントではなく鍵盤の下にあるのでこういう操作ができるわけですが、出音以外にこの独特の形状も、喜多郎さんがminiKORG 700Sを使い続ける理由かも知れません。

 右手人差し指から小指を使って鍵盤演奏しながら親指を使って操作〜は無理ですが、コルグのワークステーション機やRoland V-Synth GT、Fantom G、JUNO-STAGEの場合、ジョイスティック/ベンダーレバーのすぐ近くにアサイナブルスイッチがあるので、左手操作でジョイスティック/ベンダーレバーによるビブラートをかけつつ、オートベンドを頻繁にオンオフすることができます。また、ピッチEGのオシレータへのかかり具合を設定するEGデプスを、鍵盤のベロシティでコントロールするように設定しておくと、オートベンドに変化を持たせる事ができます。もちろん、アサイナブルノブ(あるいはスライダー)にEGデプスやアタックタイム等をアサインしておくと、演奏中に手操作で変化を持たせる事ができます。

 フィルターやアンプの設定に関して、鳴り始めから終わりまで劇的な変化の無い音色ですから設定は容易です。しかしながらせっかくデジタルシンセを使うので、ベロシティでEGの各タイム/レベルをコントロールして鍵盤演奏に情感を加味するのもいいと思います。EGのリリースタイムに関して、タッチノイズが入らないぎりぎりまで短くする方が歯切れの良い音になります。

 鍵盤演奏に関して、スタッカートとレガートをタイトに弾き分けることを心がけてください。これも喜多郎miniKORG 700Sリードの特徴の一つなのですが、スタッカート/レガートによるリトリガーする/しないの鳴らし分けを、録音時はもちろん1980〜1990年代の公演での喜多郎さんは恐ろしくきっちりとこなしていました。ポリフォニックシンセでこれを行う場合、モノあるいはソロモードがあり、トリガーモードにシングルがある事が必需です。KORG Polysixのようなユニゾンモードではだめです。

 それとこれも大阪城ホール公演のビデオで見たのですが、「炎の舞」 のイントロのminiKORG 700Sの演奏で、フレーズを繰り返し鍵盤演奏しながらフットボリュームの操作で徐々に音量を下げていく事で、あたかも反響しながら音が消えていくように表現していました。これは通常ならエフェクターのディレイで行うことです。喜多郎さんの驚異的なフットボリューム操作の滑らかさを見せつけられました。喜多郎miniKORG 700Sリードに関して、シンセサイザーそのもの以外に特徴があるとすれば、フットボリュームによる音量の緩急ある操作ではないかと思います。ベロシティやアフタータッチのあるデジタルシンセでも、やはりフットボリュームは用意すべきだと思います。

 ちなみに喜多郎さんが好きなフットボリュームは、goodrich(グッドリッチ)やERNIE BALL(アーニーボール)のものだそうです。


平成21(2009)年7月11日追記。

 本日まとまった時間implant4さんで、miniKORG 700を試奏する機会を得ました。エフェクターはスプリングリバーブ、スピーカーはモノラルという環境でですが、結論だけを記しますと、今日この音色を出すにあたって、実機を使う事の意義を微塵も感じませんでした。

 以下、そのおり撮影した画像です。

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令和2年(2020年)6月28日追記。



令和3年(2021年)1月18日追記。

 同日、コルグはminiKORG 700、miniKORG 700Sの復刻機、miniKORG 700FSを発表しました。


令和3(2021)年7月29日追記。

 ソフトシンセサイザーKORG Collection miniKORG 700S for Mac/Winが発表されました。