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「宇宙戦艦ヤマト復活篇」の音

 アニメーション映画「宇宙戦艦ヤマト復活篇」を観ました。

 かつて小学生の頃、「宇宙戦艦ヤマト」の本放映及び再放映、そして劇場公開作品を観た人間として、この作品の公開を過ぎ越すことはできませんでした。

 物語そのものは、主人公古代進(こだい・すすむ)が、復元されたヤマトを駆って3億人の移民船団を目的地に到達させるまでのスリルは良かったのですが、相変わらず全体的に齟齬が著しく(「宇宙戦艦ヤマト」にこれを言っても仕方ないか…)、かつて“いい人”だった古代進が家庭を顧みない男になっているのは新鮮なものの、他の登場人物が今まで以上に浪花節的で生々しさが無く、楽しめませんでした。

 しかしながら「宇宙戦艦ヤマト復活篇」は、歴代「宇宙戦艦ヤマト」同様、音楽や音響の空間として、またデザインや美術の画廊として、様々思うところの湧いてくる作品でした。

 このブログでは旧作をも併せる形で、音楽や音に関する事柄を「宇宙戦艦ヤマト復活篇」の音、そして視覚上の事柄を「宇宙戦艦ヤマト復活篇」の形として記したいと思います。

 「宇宙戦艦ヤマト復活篇」の音は、BGMとヤマトの特徴的な効果音を混在させる形で記したいと思います。本来、音の無い宇宙空間に鳴り響く砲声や航行音等の効果音は、ノイズ音楽なるカテゴリーが存在する今日に於いて、音楽の一種として考えていいのではないかと思ったからです。

 私が音楽や音を特に意識して聴くようになったのは「宇宙戦艦ヤマト」テレビシリーズ第1作からです。今日に至るまでインストゥルメンタルの音楽を嗜好することや、音を脳裡でカタカナの擬音に置き換えたり、文章で書き表す癖がついたのは、文字通りヤマトの影響によるものなのですが、その後、シンセサイザーを知ることによって、それらをひとくくりに捉えるようになりました。脳裡でカタカナの擬音に置き換えたり、文章で書き表す等の鍛錬のおかげで、音の径時変化を具体的にシナリオ化できるようになり、数多のパラメーターを有するデジタルシンセを自らの意のままに使えるようになりました。

 BGMに関して、宮川泰(みやがわ・ひろし)さんがこの世にいない事の影響は、今更ながらあまりにも甚大だと思いました。ヤマトの音楽は、登場する人物やメカや現象等に対して、各々メロディが作られることが多く、さらにそのメロディを宮川さんが用途に応じて変幻自在に編曲し、情景描写や心理描写に深味を加えていました。しかしながら今回は既製の曲でBGMが構成されていて、何だか民放の旅番組みたいな、至極適当な選曲が為された感があります。

 ただ、冒頭の宇宙空間のシーンで、川島和子さんのスキャットが聴こえてきたときは、やはり感動しました。漆黒の闇と煌めく光芒の充満する空間を、こんな簡素なメロディで表現できている曲を他に知りません。またこの曲は私の世代の一部にとって、ある種、郷愁を帯びた曲でもあります。ヤマトを観ていた時代の空気感をも想い起こさせてくれます。小学生の時に耳にして以来今日に至るまで、夜空を見上げた時に最も頻繁に私の脳裡に鳴り響く音楽は、冨田勲さんでも喜多郎さんでも姫神の「星が降る」(アルバム「まほろば」より)でもなく、川島和子さんの歴史的なスキャットによるこの「無限に広がる大宇宙」です。

 SUS軍の巨大要塞の登場シーンに、エドバルド・グリーグのピアノ協奏曲が使われていたのですが、この曲、私の中ではかなり以前にコントのBGMに頻繁に使われていたことが染み付いていて、冒頭のあのピアノのフレーズを聴いただけで吹き出しそうになりました。吉本新喜劇のオープニング「Somebody Stole My Gal」、手品で使われる「オリーブの首飾り」(ポール・モーリア)、成人男性向けの劇場や加藤茶さんのコントで使われる「タブー」(マルガリータ・レクオーナ)同様、本来とは違う形で私の脳裡に組み込まれてしまった曲なのと、このあたりからストーリーの崩壊具合が加速することとも相まって、妙に印象に残ったシーンでした。

 「宇宙戦艦ヤマト復活篇」で特に印象に残った効果音は、地球の第1次移民船団を奇襲攻撃する為にSUSの艦隊がワープアウトして来る時のミステリアスな音でした。まだ映画が公開中であり、詳しくは書けないのですが、SUSはこの映画に登場する地球その他の星の人類とは異なった存在であり、この効果音は、単にメカの音ではなく、SUSに対する印象を他の星々の人類とは違う感じを与える効果も加味できているような気がします。

 ただ、全体的に一つ一つの音の作りに旧作のような手間が感じられませんでした。例えば「宇宙戦艦ヤマト復活篇」のヤマトの主砲の砲声は、「バスーン!」という単純なものでした。しかしながら旧作は砲門が光ってから射撃が終わるまでの砲声の径時変化が複雑で、砲声という一つの音を作る為の手間がうかがえるものでした。また砲塔が目標へ向けられる時の動作音が、そもそも「宇宙戦艦ヤマト復活篇」では入っていないのですが、初期のヤマトには実際の機械のものと思われる鈍い音が付けられていて、生々しさがありました。また旧作では砲身の上下角を固定する、「ギキュキュキュッ」という音が添えられていました。

 効果音の迫力に関して、やはり柏原満(かしわばら・みつる)さんの手による旧作に軍配を上げざるを得ません。ジョージ・ルーカス監督の「スターウォーズ」が公開された時、効果音はハリウッドより日本のアニメーションの方が優れていると、子供心に感じたものです。

 「宇宙戦艦ヤマト復活篇」でも、一部旧作群で柏原満さんの手によって作られた効果音が使われていました。きしむような音と機関音とノイズで構成されたヤマトの航行音、ヤマト艦内の環境ノイズ、波動砲のエネルギーの充填音がそれです。「宇宙戦艦ヤマト復活篇」のエンディングタイトルロールに、“協力”という形で柏原満さんのお名前がありました。

 「宇宙戦艦ヤマト」以前の異星人の宇宙船の音、例えば「ウルトラセブン」等は、おそらくハモンド等の電気オルガンを使ったであろう「キーン」という金属的な音だったのですが、ガミラスや彗星帝国の宇宙艦の航行音は、オートレースのバイクや競艇のエンジン音のピッチを下げたような音で、存在感を与えていました。

 「宇宙戦艦ヤマト復活篇」には全く無いのですが、旧作にはガミラスや彗星帝国などの基地や政庁の中に、絶えず独特の環境ノイズが流れていました。例えばガミラスの場合、「ドゥーン、ドゥーン、…」という音と水泡のような音が多重録音されたものが流れていました。こういった音、今ならノイズ音楽のカテゴリーに入るのではないでしょうか。

 「宇宙戦艦ヤマト」の頃、効果音に使われたシンセサイザーはminimoog(ミニモーグ)、松田昭彦さんによる「銀河鉄道999」「1000年女王」「機動戦士ガンダム」等の効果音のシンセはARP 2600(電氣蕎麦さん参照)だそうです。

 ちなみに「宇宙戦艦ヤマト」の放映が始まった昭和49(1974)年、冨田勲さんのアルバム「月の光」が日本より先にアメリカで「SNOWFLAKES ARE DANCING(雪は踊っている)」としてリリースされ、またアナログシンセサイザーmini KORG 700S(喜多郎mini KORG 700Sリード参照)及び800DV、Roland SH-3が発売されました。

 ガミラス軍の冥王星基地から、超大型ミサイル(旅館によくあるエアホッケーのスマッシャーのような姿をしている)が発射されるシーンの音楽(「宇宙戦艦ヤマト」BGM集の「サスペンスB」)に、救急車のサイレンのような音が入っているのですが、おそらくこれもminimoogで作ったと思われます。

 「宇宙戦艦ヤマト2」の初回始端カット(白色彗星が飛来してあのパイプオルガンの音楽が流れ出す前)と、最終回の終端のカット等で流れた“宇宙の音”は、これも今なら音楽として位置づけられるのではないでしょうか。“宇宙の音”は絶対に存在しない音であり、作り手の感性に依拠した抽象的な音なのですが、そのことが結果的に音楽的な仕上がりになってしまうのだと思います。

 そういえば私が高校生の時に観た映画「海に降る雪」の主人公は、テレビ番組の効果音を作る人なのですが、“地球が回転する音”を求められて苦悩する場面がありました。映画の最後にその“地球が回転する音”が鳴ったのですが、どんな音だったか完全に忘れてしまいました。ちなみに劇中、主人公が使っていたのはアナログシンセサイザーKORG MS-20でした。

 「宇宙戦艦ヤマト復活篇」のエンドタイトルには、たしか「宇宙戦艦ヤマト復活篇第一部完」と出ました。次作の効果音は柏原満さんを起用していただきたいと思います。私が次作を観るかどうかはわからないのですが…。


平成22(2010)年1月15日追記。

 本文中、異星人の基地や政庁内の環境ノイズに関して、「宇宙戦艦ヤマト復活篇」には全く無いとしたのですが、その後、ご覧になった方から、SUSの巨大要塞の司令部のような部屋に、環境ノイズが流れていたとのご指摘がありました。


平成23(2011年)11月9日追記。

 まず訂正を。

 文中で

砲塔が目標へ向けられる時の動作音が、そもそも「宇宙戦艦ヤマト復活篇」では入っていない

としたのですが、入っていました。以下の動画投稿サイトの映像にあります。

http://www.youtube.com/watch?v=uvFM-GFhp7E&feature=related

 また、ヤマトの主砲の射撃音の新旧を比較した投稿を見つけました。

http://www.youtube.com/watch?v=IddppU8p2qs

 それと、既に廃盤になっているようなのですが、平成8(1996)年3月、コロムビアレコードから出たサウンドファンタジアシリーズの「宇宙戦艦ヤマト」に、音楽と併せて柏原満さんの手による効果音が収められています。Amazonさんで試聴する事もできました。

 本文中の

砲門が光ってから射撃が終わるまでの砲声
砲塔が目標へ向けられる時の動作音
砲身の上下角を固定する「ギキュキュキュッ」という音

が「11.主砲」として、また、

ヤマト艦内の環境ノイズ

が「21.第一艦橋」、

波動砲のエネルギーの充填音

が「10.波動砲」、

ガミラスの政庁や基地内の「ドゥーン、ドゥーン、…」という音と水泡のような音が多重録音されたもの

が「32.ガミラス基地」、

宇宙の音

が「01.オープニング」として収められています。

 「11.主砲」はNHK「ダーウィンが来た!」で、カンムリブダイが脱糞する効果音として使われていました。


劇場用アニメーション映画「宇宙戦艦ヤマト復活篇」
http://yamato2009.jp/index.html


平成24(2012)年1月10日追記。

 「宇宙戦艦ヤマト復活篇ディレクターズカット」が、DVD/ブルーレイで発売されます。また東京と大阪の劇場レイトショー公開されます。ストーリーや映像等の再構成に加え、当ブログとして特筆すべきは、柏原満さんの手によるあの効果音が復活するという事です。

 以下で予告編が公開されています。

http://yamatocrew.jp/crew/dc/pv02


 「宇宙戦艦ヤマト復活篇ディレクターズカット」が発売されます「宇宙戦艦ヤマト復活篇ディレクターズカット」の音「宇宙戦艦ヤマト復活篇ディレクターズカット」の形に続きます。


平成25(2013)年2月13日追記。

 「Sound Fantasia 宇宙戦艦ヤマト」(2枚組)が、平成26(2014)年3月「ETERNAL EDITION YAMATO SOUND ALMANAC」の一つとして再発されます。


ETERNAL EDITION YAMATO SOUND ALMANAC
http://columbia.jp/yamato/

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by manewyemong | 2009-12-26 09:28 | 漫画映画 | Comments(0)

「あのシンセサイザー奏者が出しているあのシンセサイザー音はあのシンセサイザーで出してんのか!いっちょあのシンセサイザー買いにいくか!」よりも、「価値あるものを買うのではなく自分で価値を作れる人間は強い」(岡崎武志「女子の古本屋」より)でありたいと思います。


by manewyemong