令和6(2024)年3月26日、メルマガ「ローランドの楽屋にて」読者限定イベントで、ローランド・ミュージアムを見学したおりに見たデジタルシンセ群を採り上げた記事です。

Roland D-50。
YAMAHA DX7が理解できなかった私にとって、アナログシンセのようなオシレータ/フィルター/アンプとセクションがあり、各々独立してタイム/レベル型ENVで変化を設定でき、ベロシティが使えるD-50は、私のデジタルシンセ時代の真の幕開けでした。
初めて楽器店で試奏した時、エディットしながら何度も「これは分かるぞ」と心の中で呟きました。私がそろそろ二十歳に達する時期の事でした。
D-50発売時に楽器店に置かれたカタログが通常よりもかなり大きく、正直これにもそそられました。私の初のプログラマブルシンセ、そしてデジタルシンセはD-50しかないと思い、早速貯金を始めました。
しかしその後、マルチティンバーのPCMシンセ、MIDIシーケンサー、マルチエフェクトを、1台のシンセに載せたミュージックワークステーション機KORG M1が出てきて、その貯金はM1の導入に充てました。
ただその翌年平成元(1989)年に買ったRoland D-10は、私の肝になる部分の音色をM1よりも多く担ってくれました。
このシンセはこんな音が出る
の方へ行った気がします。とにかくあっちからもこっちからもD-50のファクトリープリセット音が聴こえてきました。
例えばアメリカのドラマ「Xファイル」のオープニング音楽のメロディの口笛は、 D-50発表時に月刊誌の付録として頒布された
ソノシート「D-50 SPECIAL」で既に使われていました。「Xファイル」本編放映後の短編映像「Xファイルズファン」に音楽のマーク・スノウさんが出演したおり、D-50であのメロディを奏でました。もちろんあの口笛の音色でです。
これもD-05が発表されましたで書いたのですが、以前大阪・日本橋(にっぽんばし)のパソコン量販店のDTMコーナーで、客の男性が中古のD-50の鍵盤を弾きながら
「V-Synth XTのD-50音源とはやっぱちゃうね~」
と連れの女性に言っているのを見かけました。実際はD-50とMIDIでつながったV-Synth XTに内蔵されたVC-1(D-50シミュレータ)の音でした。「やっぱちゃうね~」と言わしめた感性の正体って何なのでしょうね。

Roland PG-1000。
D-50のオプションですが、ある楽器店の店頭で中古の価格が横にあったD-50本体よりも高かったのを見た事があります。

Roland A-80。
MIDI登場以降、ローランドは早い時期からそれそのものには音源が積まれていないMIDIキーボードコントローラーを出していました。昭和59(1984)年に出た88鍵機MKB-1000は鍵盤が木でできていました。A-80は鍵盤機構が油圧式(オイルダンパー)でした。
コントローラーに関して、ローランドの現行機の比較的上位機には同社伝統のベンダーレバーだけでなく、内外の数多のメーカーが採っているホイールも併せて備えているのですが、おそらくA-80がはしりではないでしょうか。
また自社では扱っていないはずのブレスコントローラーの端子を持っていました。ブレスコントローラー端子は後継機A-90、シンセ鍵盤のA-70まで続きました。
ローランドのブレスコントローラーも、YAMAHA VCシリーズのようなおしゃぶり型やヘッドセット型のものと思っていたのですが、平成28(2016)年、Aerophone AE-10として登場しました。不思議な姿をした単体機でした。

Roland MC-500 mkII。
シンセ、MIDIシーケンサー、マルチエフェクトを1台のシンセに載せたミュージックワークステーション機をコルグやヤマハが投入し始めた頃、ローランドはJV-1000を出しつつも、それとは異なる方向をも見ていたような気がします。つまり、1台に収めるのではなく、むしろ鍵盤コントローラー、MIDIシーケンサー、シンセサイザーの独立を維持する。古くはMKB-1000、MC-500、SUPER JUPITER MKS-80、そしてA-80の頃はMC-500 mkII、
JV-1080という形。
集約せず各々の性能をより高める…という企図だったのかもしれません。結局ローランドもXPシリーズ等ワークステーション機を投入していく事になります。
しかしながらパソコンやタブレット、はてはスマートフォンまでが、MIDIシーケンサーだけでなくMTRやシンセそのものにまでなる今、いつのまにかワークステーションと銘打たれたモデルが各社のラインナップから消えていました。
実体を持つ単体機としてのシンセサイザーは、文字通りただのシンセサイザーに戻りつつあるのではないでしょうか。
私が昨年10月手にしたRoland GAIA 2には、同じアナログモデリングシンセの上級機JUPITER-Xのような多数のシンセエンジンは無く、アナログモデリングシンセGAIA-2エンジンとモデルエクスパンションSH-101、有償のモデルエクスパンションJUPITER-8、JUNO-106くらいです。生々しいピアノやヴァイオリンの音は出ません。また、シーン、ゾーンという概念もありません。
FANTOMのようなワークステーション機の残り香が漂うような何でもできる事を義務付けられたモデルはともかく、それ以外は見ただけでどのようなパラメーターがあるのか判る仕様のシンセに帰っていく気がします。
次のシンセはそのはるか遠い先鞭だったのかもしれません。
TR-808、TR-909同様、JD-800も製造が終わって後、評価が上がったモデルだったと思います。こういう事ってローランドさん的にはどうなのでしょうね。

ただ、遠い後継機ともいうべきRoland Boutique JD-08は、発売以来長く入荷待ち状態が続きました。

Roland XP-50。
このシンセからローランドのベンダーレバーの形状が変わり、モジュレーションを単なるオン/オフではなく効果の深度を変えていけるようになりました。
私はJV/XPシリーズ用のウェイブエクスパンションボードの波形が好きなのですが、ありがたいことにZEN-Coreに至るまで継承されています。オプションボードだった頃はもちろん有償なのですが、FA、JUNO-DS、FANTOM用はAxialから、FANTOM-0用はローランドクラウドから無償でダウンロードできます。
JV/XPシリーズが現行機だった頃、このウェイブエクスパンションボードの音色の音声を収めたCD付き小冊子が、楽器店で配布されていた事があります。スタジオでのサンプリング風景やエンジニアの方のインタビューまで載っていました。
令和元(2019)年11月30日のメルマガ「ローランドの楽屋にて」の大阪オフ会での、ローランドの社員さんとの個人的な会話のおり、この頃のサンプリングの現場の事をうかがいました。詳細は略しますがサンプリングに重要なのは、機材の性能もなのですが、やはり携わる人の対象楽器への理解度やどう録るかに関する発想力なのだと思いました。
東祥高さんの公演で使われた2台のXP-50は、中身が別のシンセの基盤に換装され、フロントパネルの操作子群も本来とは異なる意味を持たされていました。
custom minimoog同様、あるいはこの改造もローランドのエンジニアが行ったのかもしれません。
東さんの追悼公演のおり、演奏される事は無かったのですが、音を出せる状態で舞台に設置されていました。
しかしながらアナログモデリングシンセnord lead登場以降、再び仕様とその姿の相互関係が、見ただけではっきりと判るモデルが登場してくる事になります。日本ではやはりローランドからでした。デジタルアクセスコントロールタイプへの完全な移行をためらうかのように、製品のオプションにPGシリーズをリリースし続け、やがてJD-800という怪物まで出したローランドでした。
JP-8000にも多くのファンがいると聞きます。現行機時代からなのか、例によって販売が終わってからなのかは知りませんが…。
姫神の「火祭りの夜」の間奏の音色は、JP-8000のファクトリープリセット(パフォーマンスモード)GR-300 Soloです。
平成22(2010)年4月24日に発売され最近まで販売されていました。明確なアナウンスは無いのですが、あるいは既に製造を終えているのかもしれません。いずれにしても息の長いシンセだと思います。
このシンセも仕様とその姿の相互関係が明確なモデルではないでしょうか。
3つのトーン(SuperNATURALシンセトーンでのパーシャル)の発声させるものさせないもの、エディット時のカレントトーンをパネル上のボタンで選べるようになっています。
当時のアナログモデリングシンセ単体機では珍しくピッチベンドレンジをダウン/アップ個別に設定できました。
ポルタメントの設定の仕方が独特でした。ポルタメントボタンを押しながら1〜8ボタンの上を指を滑らせるようにして設定する、ポルタメントボタンを押しながら、オクターブボタンを押して一づつ増減させる、エフェクトのコントロール1かLFOのフェイドタイムスライダーを動かす、という方法でした。ポルタメントのカーブはリニア変化です。
オシレータにPCM波形が無い事を除いてパラメーター構成が、SuperNATURALシンセトーンと似ています。おそらくその原型なのではないでしょうか。
一時期同社の多くの製品に採られたDビームコントローラーが載っています。
3月26日のローランド浜松研究所でのシンポジウムで、時折壇上の方からの指示で、段下のローランドのエンジニアが、短くですが製品を鳴らす局面がありました。その中で何の製品だったか忘れたのですが、一瞬Dビームコントローラーを使った方がいて、それが良かった。その製品の開発者だったと記憶しています。
Dビームコントローラー復活、いかがでしょうか。さらにいうと、Dビームコントローラーを、効果の深度の制御だけでなく、ポルタメントのオン/オフ等に使うトグルスイッチのようにもなってくれたらなと思います。

Roland FANTOM-6。
新しいZEN-Coreという音源が発表され、その1号機として61鍵機FANTOM-6、76鍵機FANTOM-7、ハンマーアクション88鍵機FANTOM-8が発売されました。
私はZEN-Coreを、アナログモデリングがベースだがPCMシンセなみの膨大なパラメーター群と、膨大なPCM波形を持った新音源と理解しました。
その後、FANTOM-6を試奏したおり、ENV等パラメーターの設定値が大きく、つまりきめが細かくなっている事、ベロシティでのENVのアタックタイムのコントロールが、気のせいかきちんと設定すれば私の意図を既存機以上に汲んでくれる事等を感じたのですが、それ以外はXV-5080からJUNO-DSまで連綿と続いてきた同社PCMシンセと特段の変化は感じませんでした。
すると同年11月15日に公開されたZEN-Coreシステム1.10で、ポルタメントのカーブがリニア変化以外に2つの非リニア変化が加えられていました。
本来ならこのシステム更新に感謝してすぐにもFANTOM-6を買いに走るべきなのですが、既に
JUNO-DS61Bを予約していた事と、何よりこのような高級機は腕におぼえのあるプロの演奏家の為のものと考えられる故に実行しませんでした。
その15日後、メルマガ「ローランドの楽屋にて」の大阪オフ会のおり、ローランドの方々に深く感謝したのはいうまでもありません。この時、私が「ポルタメント…」と口にした時、ローランドの方から「カーブですよね」と返されました。
ここで、私がそのシンセのポルタメントのカーブが、リニア変化か非リニア変化かを調べる方法を記します。持続音系の音色を作り、発声をモノフォニックモードにし、レガート先でリトリガーさせない為にトリガーモードをシングルにします。ポルタメントタイムを間延びした長さに取り、1オクターブ上へレガートします。リニア変化だと一定のペースで音程が上がっていくのですが、アナログシンセ的な非リニア変化の場合、最初は元気なのですがだんだんペースが落ちていきます。これがポルタメントを有機的に感じさせるわけです。ZEN-Coreの場合、これとは逆のカーブも用意されています。
喜多郎さんが
miniKORG 700S、
800DVで、この1オクターブ上へレガートする時に間延びしたポルタメントをかける、というのをされるのですが、これをカーブがリニア変化のポルタメントのシンセでまねるとしっくりこないのです。

Roland JUPITER-X。
姿はJUPITER-8に似ているのですが、複数のシンセエンジンを載せています。その理由に関して、きっかけになったエピソードも含め、このシンセの開発者であるローランドの前社長が明かしておられるのを、同社のウェブサイトやメルマガ「ローランドの楽屋にて」で読みました。その企図はなるほどと思いました。
しかしながら、MC-500 mkIIの所で書いた事とも関わるのですが、私がこのシンセを手にした場合、JUPITER-Xエンジン、JUPITER-8エンジンしか使わないと思います。この姿はやはりこれらのエンジン以外のマニピュレーションは難しい。
ローランドは一度自社のビンテージ機を、エンジンはACB、つまりデジタルながら、音色や姿、操作感を徹頭徹尾オリジナル機に寄せて復刻するというのはいかがでしょうか。D-50の所で触れた「やっぱちゃうね〜」な人間ですらぐうの音も出ないような復刻機。私は
SH-1か
JUPITER-6で見てみたい。

ベンダーレバー付近にさまざまな役目を割り振り可能なスライダー2本、ボタン3つが集約されています。演奏という目的ではJUPITER-8同様、ここが最も気に入っています。
このJUPITER-X 50th Anniversary Modelに触れていると、ローランドの方から親しくお声をかけていただきました。JUPITER-Xを開発した方、つまりローランド社前社長の方でした。
多分私の人生で2度とこういう機会は無いと思います。JUPITER-X、ひいてはZEN-Coreに関する事をお尋ねする上で世界でこれ以上考えられない方だと思うのですが、口をついて出てきたのはこの一言「JUPITER-X 50th Anniversary Modelの量産化・商品化の予定はありませんか」でした。お答えは「世界に4台です」でした。

Roland JUPITER-Xm。
価格、大きさ、画面やプロエディット用の操作子が中央にある、そして、昨年のGAIA 2導入以降の私の37鍵機指向から鑑みて、私の現実的な選択肢はJUPITER-XではなくJUPITER-Xmです。
ローランドはコントローラーのホイールに関して世界で最も縁遠かったメーカーのはずなのですが、
Roland JD-Xi以降、私は同社のホイールが世界で最も使いやすいと思っています。

Roland Aerophone AEシリーズ。
ローランド浜松研究所でのミュージアムやシンポジウムの見学の後、浜松市街地に戻って、濱松たんと本店さんでオフ会になったのですが、そこでAerophone開発者の方が、AEシリーズ上級機と思われるモデルで演奏を披露してくれました。素晴らしい演奏でした。そしてこの演奏で、ある事を発見しました。今回の日帰り旅行の最大の収穫かもしれません。
演奏に使ったのはパンパイプ系の音色だったのですが、パンパイプというアコースティック楽器は音程毎に音源が独立して存在する、アナログポリフォニックシンセでいえばpolymoogやKORG PS-3000シリーズのような完全独立発振方式です。もちろん発声のトリガーである人間の口(息)は1つしかないのでモノフォニック楽器に聴こえます。音程間、言い換えれば音源間に連携はありません。
それに対してサックスやフルート、尺八、リコーダー等は、1本の管に開けたいくつかの孔(あな)を、指やカバードキイで開けたり閉じたりして音程をとります。異なる音程間の連携も可能です。トリガーモードがシングルのモノフォニックシンセと似ています。
今回のAerophone開発者の方の演奏は、音色はリアルなパンパイプなのに、指孔があるサックスやフルートみたいな発声だったのがユニークでした。
ポリフォニックシンセの場合、これと逆の事が起こります。サックスやフルートが、変な表現ですが“オルガンで吹いている”ように聴こえる。ソロモードにしシングルトリガーにする事で一応解決はできます。
やはり、シンセサイザーエンジンだけが音色を決めるのではなく、演奏の機構の部分は大きいなと。
ただ、パンパイプやハーモニカの演奏で、時に目的外の音程も巻き添えに鳴らしてしまうというふるまいが、有機的な効果を生む事があるのですが、将来これを電子吹奏楽器でできるようになれば面白いと思います。
また、サックスや現代フルートのようなカバードキイではなく、トラベルソ(ルネサンスフルート)や尺八等のように指孔の塞ぎ方、あるいは開けた指孔と指の距離で、様々なコントロールができる電子吹奏楽器が出てくる事にも期待したいと思います。
AEシリーズ上級機にアルメニアの吹奏楽器ドゥドゥクの音色が入っています。ローランドの社員に、ドゥドゥクを入れようという発想をされる方がいた事がとても嬉しい。ちなみにサンプラーRoland S-50、S-10の頃からローランドは民族楽器のサンプルが充実していました。

いずれにしてもAerophone AEに興味を持ちました。まずはこのAerophone mini AE-01からでしょうか。否、がんばってドゥドゥクが入っている上級機で始めるべきか…。


Roland GO:KEYS 3、GO:KEYS 5。
浜松駅からバスでローランド浜松研究所へ向かう車中、ローランドの方から今日発表される新製品が既にミュージアムに設置されている、本日17時までこの製品に関する情報を外に漏らさないでほしい、そして最後にぽろりと、この新製品がZEN-Core搭載機だと教えてくれました。
その後の参加者の自己紹介のおり、私はこの新製品がZEN-Coreを搭載したJUNO-DSの後継機だと高らかに予言したのですが、盛大に外しました。
ユーザーに公開されているパラメーターはわずかなのでプロエディットはできないのですが、音色はZEN-Coreそのものです。
ホイールは1つだけですが、奏者から見てニュートラル位置より奥はピッチベンド、手前はモジュレーションといった異なった用途をいくつか設定する事ができます。
ほとんどシームレスに近い滑らかなこの姿を見て、A-80、サンプラーS-50、W-30の頃のローランド製品を思い出しました。
今回のメルマガ「ローランドの楽屋にて」読者限定イベント、送迎バスでJR浜松駅を出発してから、私が若干早く居酒屋濱松たんと本店さんをおいとまするまで7時間あまり。短くも密度の濃い時間でした。
ローランド浜松研究所が立つ浜名湖畔以外、特に観光地的な所を通ったわけでもないのですが、私は彼の地の風景を気に入りました。峻険ではないのですが、所々、谷というか切れ込みがあってそこに緑が残っていたりしました。たしか徳川家康が武田信玄に敗れた三方原(みかたがはら)に近かったと思います。いずれ泊まりがけで浜松を旅したいなと思いました。
濱松たんとさんでは、有名な中央にもやしが置かれた浜松独特のあの盛り付けの餃子を楽しみました。すこぶる美味でした。ちなみに濱松たんと本店さんのスピーカーはローランド製でした。
当日は雨だったのですが、プラカードを持って駅で案内してくださった方、雨に濡れながらバスの外で待っていてくれた方々をはじめ、全てのローランドの皆様、たいへんお世話になりました。ありがとうございました。ラーメンRが描かれた楽器が、今以上に世界を席巻してくれたら良いなと思っています。
Roland
メルマガ「ローランドの楽屋にて」
今回のブログ記事は私がメルマガ「ローランドの楽屋にて」に登録していたが故に書けました。
遠州男唄 濱松たんと