Roland JD-800試奏記

 Roland JP-8000と同じ日時にimplant4さんで、デジタルシンセサイザーRoland JD-800を試奏させていただきました。

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 デジタルアクセスコントロールタイプのシンセ、KORG POLY-61やYAMAHA DX7が登場する前、シンセサイザーの音色を作り出すパラメーター群は、各々フロントパネル上に露出したスライダーやつまみ、ボタン等が充てられていました。

 この頃、“音を探す”という言葉があったのを、ご記憶の方がいると思います。音を探すとは、作業を始める段階で特に脳裏に作りたい音色のイメージがあるわけではなく、適当につまみをひねったりスライダーを上げ下げしたりして、“ピンと来る”ポイントを探しながら音色を完成させていくというやり方の事だと、私は解釈しています。

 もっとも、KORG KRONOSの発売日及び価格でも書きましたが、私はこれをまぐれ当たり系、もしくはガラガラポン系と呼んでいます。いずれにしても、私が絶対に採らない方法です。

 もちろん、奏者やマニピュレータ自身がそれをよしとし、結果に満足しているのであれば、それは音色作りの方法の一つのあり方だとは思います。

 ところで、ローランドは音色作りのデジタルアクセスコントロールへの完全な移行を、日本で最後まで渋ったメーカーではないでしょうか。

 Roland JX-3Pや、一応デジタルアクセスコントロールタイプのMKS-80 SUPER JUPITER、JX-8P、JX-10、αJUNO-1/2、そして同社初のデジタルシンセサイザーD-50等には、ローランドが“プログラマー”と呼ぶオプションが用意されました。各機のパラメーターに対応したスライダーやつまみがコンパクトにまとめられ、専用の端子を介して接続して使用しました。

 D-50に続くD-70には、たしかオプションプログラマーは用意されなかったので、ローランドも完全にデジタルアクセスコントロールへ移行したかと思いました。しかしながら、バブル期のまっただ中に突如現れたJD-800は、オプションプログラマーではなく、フロントパネルをスライダーやつまみ、ボタン類で埋め尽くすという、アナログシンセサイザーに立ち返ったようなルックスを持っていました。

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 一にも二にもこのルックスが、Roland JD-800の設計思想そのものではないでしょうか。つまり、先ほど記した“音を探す”形での人も含め、オーナーのことごとくに音色を作らせる…、当時、Roland JD-800のこの姿に、固有の音を持たないという事がシンセサイザーという楽器の特徴なのだということを、ローランドが未だ忘れていないと解釈しました。

 同じ型番シリーズのJD-990、続くJV/XPシリーズはデジタルアクセスコントロール方式になったのですが、アナログモデリングシンセサイザーnord leadの登場に影響を受けた感はあれ、JP-8000/8080、SH-32SH-201GAIA SH-01は、デジタルシンセとしての源流を、このJD-800にまで遡る事ができるのではないでしょうか。

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 リアパネル側。

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 「Roland」のロゴ。

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 各種端子及びオプションの音色カードのドライブ。

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 鍵盤。感触はしっかりしていました。1990年代の一部ローランドシンセの鍵盤に関して、おもりとの接着剤が年を経ると、夏期の暑熱時に溶け出すトラブルを仄聞するのですが、JD-800の鍵盤がそれに該当するのか否か聞き忘れました。それにしてもこの個体はきれいな鍵盤でした。

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 ベンダーレバー。モジュレーションはオン/オフのみ。

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 モードやエディット時のトーンの選択ボタンなどのブロック。奏者やマニピュレータが左手を伸ばす角度を考えてか、右上がりの形でレイアウトされています。

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 四つのトーンのバランスやLFO1/2の操作子。LFOはディレイタイムだけでなくフェイドタイムも設定できます。

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 ピッチENV。スタートレベルがあります。各レベルのパラメーターは+/−を設定できます。

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 オシレータ。操作子としては1トーン分なのですが、他のローランドデジタルシンセ同様、4つ全てや個別の設定ができます。波形は下の、つまり鍵盤近くの画面に表示されます。

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 タイムバリアントフィルター。ENVは簡便な形ではなく全要素がスライダーとして露出しています。スタートレベルは他のローランドシンセ同様0固定です。

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 タイムバリアントアンプ。ENVはスタートレベル、リリースレベルが0固定です。

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 画面。デジタルアクセスコントロールによるエディットや、パラメーターの視認も可能です。

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 JD-800のボタンの感触は、とにかく脆弱感が全く無く、安心して押す事ができます。

 ボタンの剛性は他に類を見ないものであり、またスライダーはフロントパネル面に直角に挿されているのではなく、フロント面に平行、つまりスライダーが上下する溝の中の右か左に取り付けられています。溝の底に切れ込みが無いのはそれが理由です。ほとほと丁寧な作りです。

 筐体や操作子の作りの丁寧さ、マン/マシンインターフェイスの豪華さをもってか、

「JD-800は百万切らなくていいんですよ」

と言ったキーボーディストの方がいました。

 100万円はともかく、当時私もその丁寧な作り故、JD-800が30万円辺りをうろうろしていていいシンセだとは思いませんでした。こういう事は少なくとも自分の事情、つまり、買える買えないといった事とは別の次元で考えるべきだと思います。

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 サウンド&レコーディングマガジン平成23(2011)年10月号。小室哲哉さんと中田ヤスタカさんの対談記事中、

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「JD-800のプリセット音の53番“Ac.Piano 1”を自分の音だと思わせたくて使いまくった」


といった意味の、一演奏家というよりは多分にプロデューサー的なお言葉がありました。そしてその意図は、数多の曲を大ヒットさせたのと同様、完全に成就しました。

 結果、多くの
「あのシンセサイザー奏者が出しているあのシンセサイザー音はあのシンセサイザーで出してんのか!いっちょあのシンセサイザー買いにいくか!」(店頭で喜多郎mini KORG 700Sリードを作る方法SH-201の場合より)
な人々の、あえて上品な言葉で表現すれば“消費意欲”の中で、JD-800はむしろ製造終了後、輝きを帯びていく事になります。

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 Roland JD-800の、本当に国産デジタルシンセサイザー史上まれに見るほど丁寧に作られたスライダーやボタン類といった音色設定の操作子に、その人達がどの程度触れたかは知りませんが…。

 ところで、ちょうど10年前の平成13(2001)年、このRoland JD-800のデッドストックなるものを目にしたのですが、あれ、何だったのでしょうね。

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by manewyemong | 2011-10-10 15:41 | シンセワールド | Comments(0)