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KORG 707試奏記

 implant4さんで、デジタルシンセサイザーKORG 707を試奏させていただきました。既にチェック作業等を終えられていて、まもなくimplant4さんのサイトの在庫リストに加わる個体だと思います。

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 707は前年に出たコルグ初の完全デジタルシンセサイザーKORG DS-8に続き、昭和62(1987)年のたしか秋頃登場しました。

 KORG 707は基本的にDS-8と同じシンセサイザーエンジンで、DS-8が備えていた内蔵デジタルディレイはありません。しかしながら、何よりもルックスたるや、DS-8、否、それまでのシンセサイザーとはかなり異なった容姿を持っていました。

 また、黒、白、青、ピンク(ショッキングピンクというべきか)と、四色のカラーバリエーションがありました。KORG 707以前、Roland SH-101やYAMAHA CS01にもカラーバリエーションはあったのですが、レギュラーカラー以外は限定的な生産でした。それに対して707は、カタログでも4色がほぼ平等な扱われ方でした。特に白いモデルは目にまばゆかった記憶があります。

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 KORG POLY-800、POLY-800II同様、立奏するショルダーキーボードとしての使い方も考えられていて、電池、そしてストラップが付けられるようになっていました。

 価格は99,800円と、POLY-800、POLY-800IIと同じでした。そしてこれら同様、707の実際の店頭価格はもう少し安かった記憶があります。

 さらに昭和63(1988)年秋、店頭価格が半額の49,800円になったのですが、その時点で私が知る楽器店さんでは白いモデルは無くなっていて、黒、青、ピンクのみの扱いになっていました。また、この49,800円は本体だけではなく、ソフトケースや立奏用のストラップ、そして音色カード2枚が付いての価格だったと思います。

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 私はこの707の、今回試奏させていただいたものと同じ黒いモデルを所有していた事があり、M1と併せて使っていました。両機を接続するおり、はじめてMIDIというものを使いました。その時に用いたコルグのMIDIケーブルは今も手許にあります。

 KORG DS-8と707のシンセサイザーエンジンについて、当時コルグは、単にデジタル音源とだけアナウンスしていたのですが、音を聴けば分かるとおりFM音源であり、ヤマハのチップを使っていました。たしか、後にコルグさん自身によって、雑誌の記事でこの事が明かされています。

 ただ、YAMAHA DXシリーズのような複雑なマニピュレーションができるものではなく、オシレータ/フィルター(コルグはこれをティンバーと呼びました)/アンプという要素、つまりモーグシンセ以来のアナログシンセの考え方で音色を作る事ができるようになっていました。

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 筐体も操作子も、およそ尖った、あるいは角張った部分が無く、曲線のみで構成されています。

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 KORG T3 EX試奏記の所でも書いたのですが、筐体や操作子の丸み等、当時流行っていた電話機の姿に似ていると思いました。たしか雑誌記事でも、KORG 707が電話機に似ているという記述を読んだ記憶があります。

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 鍵盤は49あり、ベロシティ、そしてアフタータッチが使えます。49鍵機では珍しいと思います。707はKORG TR 61/76と並んで、新発売時から店頭価格が10万円を切っているモデルでアフタータッチが使える、大変希有なシンセサイザーです。

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 いつものように裏から見てみると、ヤマハ製FS鍵盤のように中央に背骨、あるいは仕切りが走っています。感触や静粛性等はヤマハ製LC鍵盤に似ています。LC鍵盤かもしれません。

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 外部記憶ドライブ。

 メディアは専用のカードで、オプションとして音色プログラムを収めたものがありました。当時、自分で音色を作る事ができない人は、お金を払って買っていました。

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 リアパネル。一見単純な形状と思われる707が、意外に複雑な姿である事が分かります。

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 フロントパネル全景。

 丸いボタンと、同じく丸みを帯びたスライダーという操作子構成。

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 ホイール二つ、ベンドホイールの効果を逆転させる時にオンするホイールリバースボタン、ポルタメントボタン。

 ホイールリバースボタンのランプは本来通りの赤色なのですが、ポルタメントボタンは若干柿色がかっています。あるいは、以前のオーナーさんが換装されたのかもしれません。

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 KORG POLY-61、POLY-800等同社アナログシンセサイザーとは違い、ピッチベンドは1オクターブ上まで設定できます。

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 ボリューム、そしてパフォーマンスエディタと呼ばれるスライダー類。

 これらのスライダー、21年後のKORG M50に似たものが継承されています。M50のものは筐体から突出しているのですが、707のは筐体に埋まっています。奏者/マニピュレータ側から見て斜めに伸びているのは、後年のRoland JD-800に似ています。

 右端のアンプEG用のスライダーは、音色エディットモード時、右横のDEC/INCボタンとともに音色設定の操作子にもなります。

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 液晶画面とテンキー。

 電源投入時、犬のアイコンが出て来ます。また、私は最近インターネットを介して知ったのですが、ある方法を用いて起動すると、天気予報が出て来ます。その方法は「KORG 707」でネット検索すると見つけられると思います。昨今の起動時間の長いワークステーション機にも、こんな遊び心があっても良いような…。

 テンキーは音色選択の他、エディットモード時にはパラメーターの指定に使うのですが、バリューの入力には使えません。

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 音色設定操作子。

 エディットモード時の各パラメーターページは1~2ページで構成されているのですが、その移動はページ内のパラメーター指定と同じくカーソルボタンで行います。

 ランプが黄緑色になっているのですが、これもおそらく以前のオーナー様が換装されたのだと思います。

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 707にはパラメーター表のステッカーが添付されていて、オーナーが望めばフロントパネルに貼り付けて使えます。

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 「PERFORMING SYNTHESIZER」のロゴ。この個所のデザインは、KORG M1やTシリーズ、01/Wシリーズに継承されています。

 707及びKORG DS-8は、シンセサイザーエンジン部分に関して、先に記したようにFM音源でありながら、オシレータ/ティンバー/アンプという考えで音色作りができます。

 オシレータはアナログやPCMのような単に波形を選ぶのではなく、パラメーターの簡単な組み合わせで音色の基本の波形を作るようになっています。マニピュレーション中、FM音源を感じる部分があるとしたら、本当にここだけだと思います。後はオシレータ/フィルター/アンプのシンセと違いはありません。

 二つのオシレータを使ったクロスモジュレーションもあります。

 コルグのワークステーション機のオシレータのシンセサイザー波形の二つのカテゴリーの内、シングルウェーブはDWGSなのですが、シンセウェーブの方はシンセサイザーの音をサンプリングしたものです。この中にはFM音源のものと思われる波形がいくつかあるのですが、あるいはDS-8か707から採ったものかもしれません。

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 フィルターに当たる部分をティンバー(timbre:音色、音質の意。ブリティッシュイングリッシュっぽい綴りです)というのですが、構成や使い方は通常のフィルターと似ています。ティンバー部内のティンバーというパラメーターは、フィルターでいうカットオフフリケンシーにあたります。レゾナンスに相当するパラメーターは無く、EGデプス、キーボードトラック、そして次のページのEGへと続きます。

 キーボードトラックに関して、後にコルグのシンセは、他社機から突出して細やかな作り込みができる(変化の山や谷を設定できる)ようになるのですが、707はアナログシンセや他社機同様、傾斜を設定できるだけです。

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 ティンバー及びアンプ部のEGはADSRで、KORG POLY-800、POLY-800II、DW-6000/DW-8000等のADBSSR方式からは、退化しています。

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 ただしピッチEGは、スタートレベル、アタックタイム、アタックレベル、ディケイタイム、リリースタイム、リリースレベルを設定できます。KRONOSに至るコルグの現行機同様、サスティンレベルはありません。0固定です。各レベルは+/-も設定できます。

 EGがADSRであるという理由で、私は日本のシンセサイザーメーカーが、ひと通りデジタルシンセを出した時点でデジタルシンセを買うという予定を、一旦先に延ばしました。もっとも翌昭和63(1988)年春、あのワークステーション機KORG M1が登場して飛びついたのですが…。

 KORG 707のこの丸みを帯びた筐体デザインやボタンは、翌年登場して大ヒットしたKORG M1、Symphony、P3、T2、T3、Prophecy、M50、そして発売される事は無かったのですが、M1登場時にアナウンスされたデスクトップサンプラーS1とMIDIシーケンサーQ1に継承されました。その意味ではコルグのシンセサイザーの記念碑的なモデルだと思います。

 また、音色作りが簡便なFM音源シンセという意味でも、707は毛色の変わった存在だったと思います。ワークステーション機KORG KRONOSの九つのシンセエンジンの一つ、MOD-7は、FM音源の要素をも内包した音源だと思うのですが、今後、特に廉価機のエンジンの一つとして、この707のような簡便なFM音源というのはいかがでしょうか。

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 ところで、なぜコルグさんのサイトに707の記事が無いのでしょうね。


令和3(2021)年7月7日追記。

KORG 707の取扱説明書が公開されています。
https://www.korg.com/jp/support/download/product/1/311/

by manewyemong | 2012-04-06 13:26 | シンセワールド | Comments(0)