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Roland RS-09試奏記


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 implant4さんでオルガン/ストリングスキーボード、Roland RS-09を試奏させていただきました。

 RS-09にはボタンの形状やロゴの色が異なる前期型/後期型とあるのですが、implant4さんには平成30(2018)年8月18日現在、両方の在庫がありました。今回試奏させていただいたのは前期型です。

 アナログポリフォニックシンセが一般化する以前、複合キーボードと呼ばれる製品が各社から出ていました。

 複合キーボードとは、キーアサイナー方式以前の独立発信方式のアナログポリシンセ、ストリングス、オルガン等の音源を、1台のキーボードに搭載したものです。

 内外のメーカーの主なモデルを挙げると、KORG DELTA(アナログポリシンセ/ブラス/ストリングス)、TRIDENT(アナログポリシンセ/ブラス/ストリングス)、moog OPUS 3(ストリングス/オルガン/ブラス)、YAMAHA SKシリーズ(アナログモノ/ポリシンセ/ストリングス/オルガン)等です。

 ローランドの場合、ストリングスキーボードRoland RS-505(ストリングス/ポリシンセ)、ボコーダーVP-330 Vocoder Plus(ボコーダー/ヒューマンボイス/ストリングス)がこれに当たります。
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 Organ/Strings RS-09は、同社Saturn SA-09(オルガン/ピアノ)とならんで、1979年の発売当初から店頭価格が10万円を切った複合キーボードでした。これらとアナログモノフォニックシンセSH-09とを併せて、ローランドの型番09シリーズは、10万円以下でも本格的な性能を持つラインナップでした。

 シンセサイザーに興味を持って初めて楽器店へ行った時、小学6年生だった私にとって比較的現実的な価格であり、操作が分かりやすそうなRoland SH-2、SH-09、そしてこのRS-09に触れた事を覚えています。

 同価格帯のシンセサイザーがいずれもモノフォニックである中で、RS-09の鍵盤「ソドミ」を押すと、本当に「ザー」という合奏音が「ソドミ」で出てきて感動しました。

 冨田勲さんのアルバム「ダフニスとクロエ」に、ストリングスキーボードRoland RS-202がクレジットされていた事も、RS-09に興味を持った理由の一つです。ちなみに冨田勲さんのRS-202は、次作「大峡谷」からはRoland SYSTEM-100M(2VCOモジュール112が18台組まれている)にとって替わられました。

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 RS-09は、独立発振方式によるポリフォニックでも、polymoog、KORG PS-3300等のような、シンセサイザー1式を鍵盤数分搭載しているのではなく、KORG DELTAのようなオシレータにあたる部分のみ鍵盤数分搭載し、以降を1系統に簡略化した、いわゆるパラフォニックとよばれる方式と思われます。

 トリガーは先着優先。アナログポリシンセのLFOをつぶやくで、後着優先のキーアサイナー方式のアナログポリシンセに、発声数分ではなく1系統のLFO故に、押鍵を加える度に発声中の音全てのLFOにリトリガーがかかってしまう事を記しましたが、独立発信方式で先着優先のRS-09では、逆に最初の押鍵のLFOやENVの径時変化の状態を、その離鍵が無い限り継承し続けてしまいます。ともに、ポリフォニックはともかく、ホモフォニック演奏には問題無いと思います。


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 RS-09には前期型と後期型があります。

 内部の事は分からないのですが、視認できる範囲で記すと、

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ボタンの形状が異なり、前期型が傾斜の向きでオン/オフを設定する、
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後期型はRoland JUPITER-8(画像は2016楽器フェアで展示された冨田勲さんの遺品)や、
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TR-808等と共通の形状で、オンでランプが点灯する、
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フロントパネル上の「Organ/Strings 09」「ORGAN」「STRINGS」のロゴの色が、前期型は白、
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後期型はオレンジ、といったところです。

 前期型と後期型でボタンの形状が異なるのは、VP-330でも同じです。
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 フロントパネルを見ていきます。
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 トーンはスライダーを上げるほど音色が明るくなります。アナログシンセサイザーのVCFのカットオフフリケンシーと異なり、下げ切っても音が聴こえなくなる事はありません。

 ビブラートは、オルガンとストリングスのビブラートのレイトとデプス、押鍵から設定したデプスに至るまでのフェイドインタイムを設定します。

 “ディレイタイム”となっていますが、試奏した結果、この時代の多くのアナログシンセがそうであるように、押鍵から効果がかかり始めるまでの時間ではなく、押鍵時から効果が設定値に達するまでの時間、つまりフェイドインタイムのようでした。

 Roland JP-8000からAIRA SYSTEM-8に至るローランドのアナログモデリングシンセのLFOに、ディレイタイムが無くフェイドインタイムだけなのは、この事を継承しているのかもしれません。私としては、アナログモデリングシンセはデジタルシンセなのだから、ディレイタイム/フェイドインタイムを個別に設定したいのですけどね。

 トリガーが先着優先のため、押鍵中、別の鍵盤を押鍵してもリトリガーがかかりません。


 トランスポーズは手前に倒すと1オクターブ下がります。
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 オルガンセクション。

 オルガンセクションを使用する場合、オルガンボタンを手前側に傾けます。

 4つのフィートスライダーで音色を作ります。どうも私にはドローバーオルガンよりもアナログシンセ臭のする音のように感じました。否定的な意味ではありません。ピアノやオルガンが好きではない私には、むしろ使える感じがします。

 トーンI、トーンIIは、前者はこもった音、後者はブライトな感じだったのですが、後期モデルの場合、ここがトグルスイッチではなく2つのボタンになっていて、両方をオンにすると トーンI/トーンIIを併せて発声することができました。前期モデルはトグルスイッチなのですが、 トーンI/トーンIIを同時に鳴らせるか否かチェックするのを忘れてしまいました。

 オルガンセクションにアンサンブルエフェクトをかけるか否かのトグルスイッチがあります。
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 ストリングスセクション。

 オクターブ違いの2つのストリングスのボタンがあり、両方を併せて発声させる事ができます。オルガンボタン同様、手前側に傾けるとオンになるのですが、右横のアンサンブルエフェクトのオン/オフのトグルスイッチは逆に手前に倒すとオフになります。

 ストリングスセクションにのみENVのアタックタイムがあります。

 トリガーが先着優先のため、ビブラート同様、押鍵中、別の鍵盤を押鍵してもリトリガーがかかりません。
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 オルガンとストリングスの両方に、リリースタイムを設定する事ができます。

 アンサンブルモードのトグルスイッチで、アンサンブルエフェクトの効果の大(I)/小(II)を設定します。

 チューニングつまみはいわゆるファインチューンで、これをひねってピッチベンドをしようとしてもレンジが狭すぎました。もちろん元々あくまでチューニングのための操作子です。
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 鍵盤。

 Roland SH-1SH-2といった、同時期の同社シンセと同じものと思われます。

 この個体の鍵盤に関して、発売40年近く経つにもかかわらず、状態はすこぶる良いと思います。
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 リアパネル側。
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 「RRoland」のロゴ。
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 端子群。

 音声出力はアンサンブルエフェクトを活かすためにステレオ出力です。

 RS-09が現行機だった頃、楽器店で設置されていた環境はスピーカー1つのモノラルだったのですが、今回試奏にあたって、implant4さんがステレオで鳴らせるようにしてくれました。RS-09の内蔵アンサンブルの効果を、製造が終わって数十年越しに確かめることができました。

 RS-09は簡素な構成であり、奏者やマニピュレータの音に対する発想力を汲んでくれるといった性質の電子楽器ではありませんが、やはりアナログらしい圧(お)してくる感じが音にありました。フットボリュームとリバーブ等の空間系エフェクターは必需だと思います。

 アマチュア向けのポリシンセが無い時代に、まがりなりにも和音が出せたRS-09やSA-09は、ほんの短い期間、時代の隙間を埋める役割を果たしたのではないでしょうか。短い期間ながら、特にアマチュアの作品のクオリティを上げる事に寄与した気がします。

 複合キーボードは、安価なキーアサイナー方式のアナログポリシンセ(Roland JUNO-6等)、さらにそのプログラマブル化(KORG Polysix、Roland JUNO-60等)、そしてデジタルシンセの一般化で廃れました。

 YAMAHA DX7が店頭に並んだ頃、まだRS-09やSA-09等の複合キーボードは同じフロアに置かれていた記憶があるのですが、その後、いつの間にか我々の前から消えていきました。

 しかしながら、Roland V-Comboシリーズ、nord stage/electroシリーズは、現代の複合キーボードといえるかもしれません。

by manewyemong | 2018-08-19 07:44 | シンセワールド | Comments(0)