「東日流笛」の東日流笛 YAMAHA VL1

 平成5(1993)年、ヤマハがこれまでとは全く違うメカニズムの音源を持ったシンセサイザーを発表しました。VL1です。

 このシンセの音源は、これまでのオシレータに記憶された波形を加工する方式とは全く違う、物理モデルをベースにしたVA(バーチャルアコースティック)音源です。楽器の発音のメカニズムそのものをシミュレーションする音源です。YAMAHA VL1は吹奏楽器や擦弦楽器をシミュレーションするタイプ、S/VA(Self oscillating Virtual Acoustic)音源を内蔵しています。

 楽器店でこのシンセを試奏した時、これを姫神・星吉昭さんが弾いたら、絶対にいい演奏になるだろうと思いました。翌年の夏に発表されたアルバム「東日流(つがる)」で的中しました。

 他に、弦を撥ねる、あるいは何かを打つといったことをシミュレ−ションするタイプのF/VA(Free oscillating Virtual Acoustic )音源を備えた、YAMAHA VP1という機種もありました。お値段¥2,700,000也。VL1、VP1とも既に製造は終了しています。

 平成6(1994)年7月の十三湖公演の翌々日、岩手県盛岡市を歩いたのですが、市内の某楽器店(アルバム「奥の細道」にクレジットされている)に立ち寄ったおり、姫神の田瀬湖畔スタジオにVL1だけでなく、VP1があることをお聞きしました。NHK「にっぽん点描」のテーマ曲(このナンバーの変奏曲が、アルバム「風の縄文」の「見上げれば、花びら」です)の冒頭の効果音は恐らくVP1です。

 アルバム「東日流」の3曲目「東日流笛(つがるぶえ)」を、私は姫神屈指の佳曲だと思っているのですが、メロディの笛の音は、VL1のBAMBOO(SHAKUだったかも)というプリセット音です。ほとんどエディットしていないと思われます。BAMBOOはその後、モジュールタイプのYAMAHA VL70-m、ワークステーション機EX5/EX5R、オプションのVA音源プラグインボードPLG150-VLのプリセットにも収録されています。どうしてもあのプリセット音と寸分違わぬサウンドが欲しいということであれば、状態の悪いVL1の中古を買うよりそちらを利用されることをお薦めします。聴感上、全く差異はありません。以前、VL1とPLG150-VLを装着したYAMAHA CS6xを並べて演奏してみたことがあります。

 無理を承知ではあるのですが、このBAMBOOを、今やどこのご家庭にもある?ワークステーションタイプのシンセサイザーで挑戦してみましょう。演奏には両手両足を使います。

 オシレータの波形は、パンパイプ系か、ハードフルート系(ブレスノイズの成分をやや過剰気味に含んだのもの)を選びます。音程の不安定感を加味したい場合は、LFOやピッチEGの設定も一考してください。

 音色変化や音量変化は、普通はフィルターやアンプ部分のEGで行いますが、少しでもS/VA音源の特性に近づける為、フィルターの変化をエクスプレッションペダルで、そして音量変化をアナログのボリュームペダルで行います。EGのサスティンレベルは、フィルター、アンプとも最大値にしておきます。ここで、エクスプレッションペダル及びボリュームペダルで行うことは、管楽器を演奏する場合、奏者が口でやっていることです。ペダル操作の苦手な方は、最近のシンセによく見かける、アサイナブル・ノブに同様の機能を割り振っても良いかと思います。しかし、できれば、手は鍵盤とコントローラーに触れていたいものです。

 フィルターやアンプのEGのアタック部分の設定は、ベロシティなども考慮して緻密に行ってください。管楽器の音をシミュレーションする上での息の吹き込みの始め方の加減による音変化を、鍵盤を弾く強さ(鍵盤が押し下げられる速さ)で行う為です。

 小学校の音楽の授業で、たて笛(リコーダー)を吹いた時の事を思い出してください。音色の変化のコントロールは、楽器側のメカニズムではなく、演奏する側の吹き込み方で行ったはずです。これが木琴やピアノ、お琴といった、打つ/撥ねる系の楽器だと、音が鳴り始めると同時に音色・音量の変化のコントロールは基本的に演奏者を離れ、楽器側の発音メカニズムに任されるわけです。アコースティック楽器の音作りをする上でこういったことを念頭に置くと、脳裏に描いた音を具現化する上で便利だと思います。

 岩手県玉山村(来る1月10日、盛岡市と合併)の姫神ホールのこけら落とし公演で、星さんがVL1を使った無伴奏の演奏を披露してくれました。「姫神笛」というタイトルでした。姫神の公演では珍しい即興の要素に加え、VL1の特性を駆使しての奏者の気持ちの抑揚を伝えてくるような演奏でした。この頃はVL1に付属しているヘッドセットタイプのブレスコントローラー、BC3を使っていらしたのですが、後年、使わなくなりました。


YAMAHA VL1
http://jp.yamaha.com/products/
music-production/synthesizers/vl1_version1/?mode=model


YAMAHA VP1
http://jp.yamaha.com/product_archive/
music-production/vp1/?mode=model


YAMAHA VL70-m
http://jp.yamaha.com/products/
music-production/tone-generators/vl70-m/


YAMAHA EX5
http://jp.yamaha.com/products/
music-production/synthesizers/ex5/?mode=model


YAMAHA EX5R
http://jp.yamaha.com/products/
music-production/tone-generators/ex5r/?mode=model


YAMAHA PLG150-VL
http://jp.yamaha.com/product_archive/
music-production/plg150-vl/?mode=model


YAMAHA BC3
http://jp.yamaha.com/products/
music-production/accessories/breathcontrollers/bc3/?mode=model

[PR]