ギリヤーク尼ヶ崎さんの舞踊

 NHK総合が昭和60(1985)年4月から3年間放映した紀行番組「ぐるっと海道三万キロ」の昭和60年12月16日放映分「国境の民・海の民~オホーツク夢の旅~」で、顔を白塗りにして丸めたムシロを小わきに抱えた異様な風体の人物が、坂道を独特の歩き方で登って来たり、夜の波打ち際で激しい踊りをするといった舞踊の映像が挿入されていたことがあります。

 この人物は、ギリヤーク尼ヶ崎さんという創作舞踊家(自称・大道芸人)です。人間の喜怒哀楽の情念を、全身を使った鬼気迫る踊りで表現していらっしゃいます。

 本名を尼ヶ崎勝見(あまがさき・かつみ)さんといい、昭和5(1930)年北海道函館市のお生まれです。芸名は、容貌がギリヤーク(樺太の先住民族ニブヒの別呼称)族に似ていることから来ているそうです。

 伊丹十三監督の映画「マルサの女」に“宝くじの男”役で出演されていました。「マルサ〜」でのあの扮装はギリヤークさんの普段着です。あの出で立ちで阪神電車尼崎駅前の広場に来られました。

 ギリヤークさんが「ぐるっと海道〜」に出演した回は、たしか、アイヌやウィルタ、ニブヒといった北海道や樺太、千島列島の先住民族の特集だったと記憶しています。彼等は松前藩や明治政府の屯田兵よりずっと早く、先に挙げた土地を“開拓”して生活していたわけですが、日本の版図の北侵の中、多くのものを奪われ、虐げられてきました。アイヌ族は、自分達からあらゆるものを奪ったヤマト族を“シャモ(隣人)”と呼びました。彼等の心持ちの崇高さや優しさ故に歴史の中で結果的に敗積していくというプロセスは、姫神が描き続けている古代陸奥・出羽の蝦夷(エミシ)の姿、そのままです。

 この回では番組中の何ヶ所かで、突如ギリヤークさんの舞踊の映像が挿入されていました。姫神の「草原情歌」(アルバム「まほろば」より)や「夕凪の譜」(アルバム「海道」より))がBGMで鳴っていたような記憶があります。ギリヤークさんの舞踊に対するナレーションや字幕といった説明的なものは一切ありませんでした。しかし、先住諸民族の悲しみを彼の舞踊が伝えてくれていました。「ぐるっと海道〜」の制作者はこの回の番組内容を、単に事実を伝えるだけの説明的なものにしたくなかったのだと思います。ギリヤーク尼ヶ崎さんの起用はそれが理由だと思います。

 私はこれまで2002年の今日と昨年4月24日の二度、阪神電車尼崎駅前の広場でギリヤークさんの創作舞踊を見ました。朝日新聞阪神支局襲撃事件(1987年の今日発生し2002年の今日時効成立)で殺害された小尻知博記者、そして昨年のJR福知山線脱線事故の犠牲者への供養の舞でした。これらの事件に対する悲しみを75才のギリヤークさんは全身全霊を傾けて表現してくれました。

 使い古された拡声器から津軽三味線と恐山のイタコの口寄せの呪文のテープの音声が鳴る中、数珠を地に打ち、水を被って転げまわりながら、「古尻さんはなぜ死んだ!」と叫び続けるギリヤークさんの舞いを見て、これらの事件の報に接して、私の中で澱(おり)のように溜っていた幾種類もの感情に、ギリヤークさんが一つの形を与えて解き放ってくれたような気がしました。

 私はギリヤークさんの舞踊の中で、体を前に倒して向かい風に逆らうように歩く所作が特に好きです。ギリヤークさんの、ひいては己が人生と格闘する全ての人々の姿が映されているような気がするからです。

 毎年ちょうど今頃、ギリヤーク尼ヶ崎さんは京阪神地区の路上で公演されています。4月29日には大阪市中央区のアメリカ村三角公演で公演されていたようです。ちなみにギリヤーク尼ヶ崎さんは見物人の投げ銭で暮らしていらっしゃいます。

 平成21年4月29日のギリヤーク尼ヶ崎さんに続きます。


大道芸人 in アメリカ村三角公園
(「デジタルな鍛冶屋の写真歩記」より)
http://dejikaji.exblog.jp/2002778/

ギリヤーク尼ヶ崎★アメ村三角公園
(「ふわふわエッセイ&夢&現実日記」より)
http://blogs.yahoo.co.jp/yowamuni/3784245.html

大道芸人ギリヤーク尼ヶ崎 青空舞踊公演「祈りの踊り」
http://www.k2.dion.ne.jp/~visualiz/gilyaki_20050501/index.html
 昨年5月1日伊丹市中央三軒寺前広場での公演の画像です。


 ギリヤーク尼ヶ崎さんはどうシャッターを切っても絵になる、というコメントをネット上で見た記憶があるのですが、以上のブログやサイトの画像を見るとうなずけます。
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by manewyemong | 2006-05-03 19:16 | | Comments(0)