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「山神祭」(アルバム「姫神伝説」より)

 姫神せんせいしょんの「山神祭」は、素朴なメロディと、バックで鳴っているミステリアスな美しさを秘めたハーモニー、そして太鼓を使った伝統的な神楽風のリズムのコントラストが印象的です。全く違う要素を抱き合わせる事で単独では出せない効果をかもし出す…この手法に姫神せんせいしょん当時から姫神・星吉昭さんは長けていたと思います。

 江戸川乱歩(えどがわ・らんぽ)の「白昼夢」という短編小説の冒頭に子供達が、

アップク、チチリキ、アッパッパア…

と全く意味不明な歌を唄う場面があります。その歌の部分は後に続く惨劇を引き立たせるような効果を生んでいました。乱歩はこの歌で読者に暗示をかけたのかもしれません。初めて「山神祭」を聴いた時、私はこの小説のこの場面を思い出して慄然としました。

 姫神せんせいしょんからは話が逸れるのですが、過去、時代の転換期に意味不明な歌や踊りが流行ることがよくありました。

 澁澤龍彦(しぶさわ・たつひこ)のエッセイ「東西不思議物語」の「不気味な童謡のこと」には、上に書いた「白昼夢」の歌を始め、飛鳥時代から近江朝時代にかけて不思議なわらべ歌がしきりに流行って人々が恐れおののいたこと、「日本書紀」の斉明天皇6年12月の条の記された当時流行った全く意味不明な歌、関東大震災前の「枯れすすき」、昭和20年の終戦前に流行った「さらばラバウルよ」等について記されています。

 斉明天皇の6年とは、百済を救援する為に大陸へ派遣する船団を準備していた時期です。歌は作戦の失敗を予言したものとも言われましたが、当時も今も真相は分かりません。

 平成2(1990)年の今頃、ラジオを聴いていたら「ピーヒャラピーヒャラ、パッパパラパー…」という意味不明な歌が流れてきました。何だか嫌な予感がしたのですが、案の定、その年バブルが崩壊しました。この歌「踊るポンポコリン」(BBクイーンズ)はその年のレコード大賞に輝きました。

 また平成10年1月、「アバーナガーマーポー…」というこれまた聴いただけでは全く意味不明な歌詞の「神々の詩」が出ました。もちろん姫神の作品です。翌年にノストラダムスの大予言の七(なな)の月が迫り、そしてソフトウェア西暦2000年問題がひかえていたのですが、こちらは杞憂に終わりました。もっとも2000年対応は私にとって悪夢のような日々で心身ともに消耗しました。

 「山神祭」は姫神にはたいへん珍しい、曲想そのものがある種の不安感を醸し出している作品のような気がします。人間には恐怖や不安に対してどこかで悦楽を感じる部分があって、この曲は私のそんな部分に訴求したのだと思います。


「東西不思議物語」(澁澤龍彦著、河出文庫刊)
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/4309400337

by manewyemong | 2006-06-19 19:06 | 音楽 | Comments(0)