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吹田文化会館メイシアター公演追想

 平成16(2004)年5月14日の吹田文化会館メイシアター大ホールでの公演について記したいと思います。私にとって平成14年7月の福島県いわき市白水阿弥陀堂での野外公演以来約2年ぶり、そして姫神・星吉昭さんを見た最後のコンサートでした。

 レパートリーは新旧取り混ぜた選曲でしたが、「神々の詩」以降からのファンの方にとって、この公演の選曲は唄入りの曲が半分弱なので不満が残ったかもしれません。しかし、私にとっては演奏のみ/唄入りを問わず好きな曲がほとんどだったので、たいへん楽しめました。

 私が座っていたのは最前列かつ星さんの真ん前だったので、星さんをはじめ出演者の皆さんの演奏や唄を、よく“観察”できました。またアコースティック楽器に関して、アンプ、スピーカーを通した音だけでなく原音も聴ける位置だったので、モリンホールやバイオリンのボウイング効果(弓が弦を擦る)の感じがよく伝わってきました。

 星さんの機材に関して列挙すると、客席側にRoland D-50、MIDIマスターキーボードYAMAHA KX76、星さんの右手側にRoland SH-2YAMAHA VL1、そして、星さんの左手側に2台のキーボード(おそらくD-50、KX76)と、後ろのラックの上に1台キーボード(型番不明)が乗っていました。左手側及びラック上の3台に星さんが手をかける事はありませんでした。

 ラックの中にはAKAIのサンプラーやRoland D-550、JV-1080が各2台、そしてVL1のモジュラータイプVL1-mが1台、ラックにマウントされずに横に立てて置かれていました。これらのモジュールをKX76で演奏していました。

 星さんがKX76のボタンを操作するとYAMAHAのラックマウント型デジタルミキサーのランプが一瞬点滅するので、音色が変わる毎にミキサーの設定が変わることが見てとれました。

 晩年の数年間、星さんはステージ上で立奏されていたのですが、この公演ではピアノベンチに腰掛けての演奏でした。「火振り神事」の時、笛の音を星さんの右手側のSH-2で、オーボエ風のリード音を客席側のD-50で弾いていたのですが、ピアノベンチなので回転しないため、少し弾きにくそうでした。星さんは右足を常にボリュームペダルにかけられていて、緻密に音量をコントロールしていました。「白鳥伝説」「火振り神事」等のSH-2と「月のあかりはしみわたり」等のD-50の笛の音の吹奏感は、このボリューム操作もファクターの一つでしょう。

 私はこの公演の数日前に3日間上京したのですが、その折、板橋区十条の商店街で支那の楽器商関係者が様々な民族楽器を演奏しているのを見聴きしました。6、7人の漢族に混じって、お1人、民族衣装デールを着たモンゴル族と思われる方がいて、モリンホールで「天馬」を演奏し、例の馬のいななきも聴かせてくれました。

 私は「天馬」に関して複数の演奏家のものを聴いていますが、クラシックでいう“解釈”は、モンゴルの伝統的な音楽にもあるようで、演奏家各々に個性があります。十条の商店街で「天馬」を聴いているうち、姫神のコンサートでライ・ハスローさんによって演奏される「天馬」は、どんな趣きだろうかという興味が湧いてきました。これが当初行く予定の無かった姫神の吹田公演へ私が参上した理由の一つです。私には吹田公演でライ・ハスローさんの騎乗した?「天馬」は、他の演奏家のそれよりもほんの少しゆっくりと、しかし優雅に草原を疾駆しているように感じられました。

 ライ・ハスローさんは、星さんとのお話しの途中、しばしば星さんに「“ミ”の音をください」と言って、星さんがD-50で鳴らす“ミ”の音に合わせて調弦をされていました。ライ・ハスローさんは調弦にシビアにこだわっている様子でした。だからこそシンセサイザーとの共演で全く違和感を感じさせない演奏が聴けたのだと思います。

 考えてみれば姫神のステージは、不思議な取り合わせにあふれていました。世界の東端、中央、西端のアコースティック楽器(モリンホール/ヴァイオリン、和太鼓/ダルブッカ/コンガ…)、心臓部がトランジスタ(電圧制御)/VLSI(デジタル制御)のシンセサイザー、日本の民謡歌手の女性達…。いつも一風変わった取り合わせの出演者、楽器によるショウを楽しませてくれました。

 終演後、知己達と会食したのですが、その席での話題は公演の内容よりも、明らかに星さんのお体の具合がよくないことが見て取れたというでした。数ヶ月後、姫神・星吉昭さんの訃報に接した時、そのことを悼むとともに、誤解を恐れずに言えば、ほぼリアルタイムでこの音楽に触れ続けることができ、この音楽家の命の最後の輝きを見ることができた私は、この音楽を聴く上でつくづく恵まれた位置にいることができた、と思いました。
by manewyemong | 2006-08-30 18:55 | 音楽 | Comments(0)