アルバム「北天幻想」の口笛

 デジタルシンセのプリセット音の中には、たいてい口笛の音があります。以前日本でも放映されたアメリカのテレビドラマ「Xファイル」のオープニングテーマは、Roland D-50のプリセットの口笛がそのまま使われています。

 今回採り上げるのは、姫神のアルバム「北天幻想」(アルバム「北天幻想」「北天幻想」制作の新機軸参照)に収められた「月のあかりはしみわたり」「平泉-空-」「白鳥伝説」や、アルバム「海道」のボーナストラック「群星(沖縄県出身の知人によると「むりぶし」と読むそうです)」などでメロディを担当した口笛風の音です。実際の口笛よりも低い音域を弾いています。おそらくFM音源シンセサイザーYAMAHA DX7の口笛のプリセット音ではないでしょうか。若干のエディットが加えられていると思われます。

 今回の口笛風電子音のシミュレーションの基本は、オシレータの波形がサイン波であることと、ピッチEGでオートべンドをかけることです。

 アナログシンセの頃、純度の高いサイン波を得る場合、VCOを使わずにVCFのレゾナンスを上げて自己発振させるという手法が用いられました。姫神せんせいしょんの作品でもこの手法で作られたサイン波が聴けます。最も分かりやすいのは、アルバム「奥の細道」の「邪馬台国の夜明け」の間奏で鳴っている「ポンポーン、ポポンポーン…」という音です。この音は俗に“シンセタム”と呼ばれていました。ドラムセットのタムタムでやっていたフィルイン等を、一時期この音で行うのが流行ったからだと思います。その頃、この音はシンセ音の代名詞のように思われていました。VCFを発振させてEGをかけると簡単にできます。昭和55(1980)年から放映されたテレビアニメ「Dr.スランプ」の主題歌はこのシンセタムで始まります。

 アルバム「遠野」「水光る」には、このVCFの自己発振で作られた口笛が鳴っています。同じく「遠野」の「サムト」(ロシア音楽、ジャズとの類似点1参照)のテルミンか女性ハミングのようなミステリアスな音も、VCFの自己発振で作られていると思われます。VCA EGのアタックタイムをやや遅めに設定し、べンドかアナログシーケンサーをVCFのカットオフにかけるか、手操作でカットオフを上げ下げするとこういう音になります。冨田勲さんのアルバム「月の光」(作曲クロード・ドビュッシー)の中の「亜麻色の髪の乙女」の女性ハミングも、おそらくこういった手法が元になっていると思われます。

 話をデジタルシンセの口笛にもどしましょう。もちろん現在のデジタルシンセでもフィルターを自己発振させて「ピィー」というサイン波を得る事ができる機種もありますが、今回はオシレータの波形の中のサイン波を使います。フィルターやアンプの設定は通常の木管楽器系からエディットしていくとよいと思います。

 今回の音色のピッチEGの設定のポイントは、押鍵した音程より低い音程からピッチEGがスタートするということです。スタートレベルをマイナス値、そしてアタックレベルを0に設定します。つまり、音程がスタートレベルで設定した値から押鍵した音程まで上がって来るまでの時間がアタックタイムです。サスティンレベルも当然ながら0です。サスティンレベルも押鍵した音程と同じでなければならないからです。ちなみにコルグのワークステーション機KORG TR、OASYS、M3(KORG M3 THE NAMM SHOW 2007KORG M3-61試奏記1KORG M3-61試奏記2参照)のピッチEGのサスティンレベルは全て0固定です。ピッチEGのオシレータへのかかり具合を設定するEGデプスを、鍵盤のベロシティでコントロールするように設定しておくと、オートベンドに変化を持たせる事ができます。もちろん最近のワークステーションタイプのデジタルシンセに必ず備わっているアサイナブルノブ(あるいはスライダー)に、EGデプスやアタックタイム等をアサインしておくと、演奏中に手操作で変化を持たせる事ができます。

 アナログモデリングシンセKORG MS2000シリーズmicro KORGRADIASR3Roland JP-8000シリーズ、SH-32(実はアナログモデリング機ではない)、SH-201等の場合、EGにマイナス値はありません。スタートレベルは、プラスでもマイナスでもなく0固定、つまりピッチEGの場合、押鍵した音程から始まります。こういったピッチEGの場合、オシレータへのかかり具合を設定するEGデプスをリバース(マイナス)方向に下げます。この値が低いほど聴感上のピッチベンドの始まりの音程が深い(低い)ことになります。そしてアタックではなくディケイタイムがオートベンドの時間設定のパラメーターになります。ピッチEGのアタックタイムは0にします。これは押鍵したピッチからEGデプスで設定したマイナス音程までの課程が、今回の口笛のオートベンドの場合不要どころか邪魔だからです。そしてディケイタイムでEGデプスで設定したマイナス音程から押鍵した音程になるまでの時間を設定します。

 今回の「北天幻想」の口笛の音には、基本的にはブレスノイズは含まれていません。基本的には、というのは、「月の明かりはしみわたり」「平泉-空-」「白鳥伝説」の口笛にはブレスノイズは無いのですが、組曲「北天幻想」の「北天を翔る」の口笛には、「フー…」というブレスノイズが含まれているからです。同じ音はアルバム「雪譜」の「雪光る」でも聴く事ができます。

 FM音源シンセの木管楽器や口笛のプリセット音は、たいていキャリアが二つあるアルゴリズムが使われていました。片方のキャリアで「ポー」とか「ピュイー」といった音を、そしてもう片方でブレスノイズが作られているわけです。

 ワークステーションタイプのデジタルシンセの場合、今回の口笛にブレスノイズを加味するのに様々なアプローチができると思います。フルートや尺八、パンパイプといった波形に含まれているブレスノイズを利用する、あるいはホワイトノイズから作る、といった方法があります。またコルグのアナログモデリングシンセの場合、オシレータミキサーにあるホワイトノイズジェネレータ以外に、オシレータ1に“Noise”という波形があり、コントロール1で波形変化を、そしてコントロール2で音程を設定できます。シンセサイザーによるブレスノイズを作る上で有効だと思います。
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by manewyemong | 2007-04-17 09:41 | 音楽 | Comments(0)