アルバム「天∴日高見乃國」(3)

 アルバム「天∴日高見乃國」(2)からの続きです。

 アルバム「天∴日高見乃國」はボーカルナンバーとインストゥルメンタルで構成されていて、シンセサイザー/パーカッション姫神・星吉紀さん、姫神ヴォイス(中島和子さん、志和純子さん)の唄の他に、三弦/津軽三味線の黒澤博幸さん、箏(こと)の稲葉美和さん、「砂山・十三夜」で触れたバイオリン山本友重さん、チェロ柳瀬順平さんといったアコースティック楽器の演奏家が参加しています。シンセサイザーの左右の広がりに、アコースティック楽器が奥行きを添えていると思います。

 アルバム「天∴日高見乃國」はどちらかというと灰汁(あく)の感じられないさらりとした編曲演奏で、前作「風の伝説」に通ずる清澄感があります。あるいはアルバム「風の伝説」完成からさほど時を経ないうちに、制作は開始されていたのかもしれません。ただ「天∴日高まつり」は、平成19(2007)年の伊勢神宮の神嘗祭を奉祝する曲を…という注文を受ける形で作られた、つまり制作時期が違う可能性があります。この曲が他の収録曲とは趣きを異にすること、そして歌詞が後付けというよりは始めにありきの感があるということがその理由です。もちろん実際どうなのかはわかりません。

 「天∴日高見乃國」の編曲演奏に突飛な変化が無く、近作の感触を引き継いだ趣きになっていることからして、星吉昭さんから星吉紀さんへの様々な委譲が、星吉昭さんを見舞った健康上のアクシデントを理由に慌ただしく行われたものではなく、遠くは星吉紀さんが初めて参加したアルバム「マヨヒガ」から営々と為されて来たのではないでしょうか。作品を重ねる毎に物理的な作業の担い手が、星吉紀さんへと移っていったと思われます。星吉昭さん没後のたしか新聞のインタビュー記事で、姫神を続けていくことに関して「不安は無い」と星吉紀さんが答えているのを読んだ記憶があります。それは既に姫神の制作作業そのものに深くかかわって来たことによる自信ではないでしょうか。

 姫神ヴォイスの唄う歌詞はこれまでの姫神語(今回も歌詞及び意味の公開はありません)のものに加え、東北弁の「日高見山嶺」、光白(こはく)さんの作詞による「天∴日高まつり」があります。「天∴日高まつり」の歌詞を読むと、素人目には何だか神職の上げる祝詞(のりと)のようにも思えます。

 このアルバムには、故人である姫神・星吉昭さんも参加しています。

 マキシシングル「未来の瞳」リリース時(平成12年7月)に店頭で配布されたリーフレットに、
さらに自分で笛を吹いた。「自分の息を刻みたかった」
とあります。星吉昭さんの笛の演奏そのものを録音したのではなく、サンプラーの音素片として、「小春日和」の間奏等を含むマキシシングル「未来の瞳」の全ての収録曲、続くアルバム「千年回廊」「青い花」や遺作となった「風の伝説」のいくつかの曲に使われました。

 そしてこの笛のサンプル音は、星吉昭さん没後の今回のアルバム「天∴日高見乃國」でも、「壮麗詩〜大地の祈り〜」「真白畿笛」「常葉の杜〜明日への夕暮れ〜」等で使われています。今は奥津城に眠る奏者が遺した“刻んだ息”を、跡を継いだ息子さんが楽音として演奏し、その音に我々が耳を傾ける…。無機質な感のあるシンセサイザーのテクノロジーが、あたたかいかたちで、故人と、今を生きる人々を繋いでくれているような気がします。

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by manewyemong | 2008-06-09 12:30 | 音楽 | Comments(2)
Commented by erbaf at 2008-06-09 18:43 x
こんにちは、erbafです。
先日の洞爺湖サミット関連番組のテーマ曲、お聞きになられましたか?次作のアルバムが楽しみです。
さて、上の文章を読んでいて気になったのですが、「天∴日高見乃國」の姫神ボイスは、いつもの中島さんと志和さん以外に「Rie Naresa」という人がクレジットの最後に掲載されていたような気がします(新メンバーなんでしょうか?)。もしかしたら(4)以降で記述されるのかなと思いつつ、細かいことですが指摘させていただきました。
Commented by manewyemong at 2008-06-09 20:15
 実は件の番組を見ていないので、その曲について何もわかりません。次のアルバムに収録されることを期待したいと思います。

 確かに姫神ヴォイスのクレジットの最後に、Rie Naresaという名前がありますね。見落としていました。