喫茶星霜さん

 東京にいた頃、神田神保町で古書を渉猟した後、帰路につくまでに買った本にざっと目を通せるような居心地の良い喫茶店が数多あったのですが、天満・天神橋界隈でそういうことに相応しいお店はありませんかと電氣蕎麦さんにお尋ねしたところ、実際に店に入ったわけではないが近くに同じ時期に工事を始めて一足早く開店したお店があり、雑誌に採り上げられたりしている、と教えていただきました。

 大ざっぱな位置をお聞きして後日訪ねてみたところ、南欧風の白壁と古い小さな木製ベンチ、古めかしい椅子に乗せられた黒板、そして小さな木枠に貼付けられた縦書き文字を見ました。

 近眼でなくともよほど近くに寄らなければ、そこに「喫茶星霜」と書かれていることに気付くのは難しいと思います。看板らしい看板があるわけではなく一見PR性に乏しいのですが、それでいて店の前を素通りするのではなく、ふと入ってみたくなるような衝動に駆られる…、お店の前に立っての喫茶星霜(せいそう)さんに対する、私の第一印象でした。

 屋号は恐らく“幾星霜(いくせいそう)”からとったものと思われます。昨年5月の創業だそうです。店主がお1人で切り盛りされています。

 メニューに関して、飲、食、ともに素材や製法が一考されていて、例えばコーヒー豆は、大阪市天王寺区空清町の自家焙煎店、赤い実coffeeさんに依頼している喫茶星霜さんのオリジナルブレンド(コーヒー豆そのものの販売もしています)、パンは天然酵母のもの、クッキーは国産の小麦、玄米、フランス・ゲランドの天日塩を使って作られていて、玉子は使用されていないそうです。

 コーヒーは1杯1杯いれてくれます。味わうという点からすれば本当は早く口にした方が良いのかもしれませんが、香りが素晴らしいのでテーブルに置いていただいてもしばらくはそのままにしています。私は四季を通じて温かいコーヒーしか飲みません。それは香りを楽しみたい欲求があるからなのですが、喫茶星霜さんのコーヒーを体験して以降、紙コップで出される大型チェーンのコーヒーのそれには満足できなくなってしまいました。

 また、喫茶星霜さんでは日替わりのカレーをいただくことができるのですが、これもよくあるエスニック系ともチェーン系とも町の洋食屋さん系ともちがう独特の趣きがありました。私はヒヨコマメが入っているカレーをいただいたのですが、本当に美味しかったです。ちなみにお店に入るとこのカレー粉の香りが出迎えてくれます。

 相当古いと思われるラジオ(大きさから恐らくトランジスタではなく真空管時代のもの)がモノラルのアンプ/スピーカーとして使われていて、ジャズが流れています。床が木だからだと思うのですが残響に柔らかみが感じられます。

 先日、杉浦日向子(すぎうら・ひなこ)さんの「杉浦日向子の食・道・楽(しょくどうらく)」(新潮文庫)を買い、喫茶星霜さんで読みました。その本の中の「オトナに必要なものは“憩い”」と題した文に、

憩うとは一人を楽しむ時間のこと。他人任せの温泉ツアーや晩餐会ではない。予約やチケット無しにずっと身近に日常の中で自分自身を和ませる。憩という字は心の上に自らの舌が乗っている。心と自らと舌。飲食だけでなく景色や出会いも味わい。一人で選び味わう。オトナなんだからワケないはずだが案外みんなしていない(要約)

とありました。思わずテーブル上を見、そして店内を見回してしまいました。「オトナに必要なものは“憩い”」に書かれていることを、今、自分が体験していると思ったからです。

 以下、携帯電話のカメラで撮った画像です。

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 窓際席にお客さんがいらしたので、こういう形でしか外観を撮影することができませんでした。大きな看板は無く、縦書きで小さく「喫茶星霜」とあるだけです。

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 お店に入ると最初に目に飛び込んでくるストーブ。店内の雰囲気は天候や時間によって本当に刻々と変わるのですが、外が暗くなるとこのストーブの火がより美しく燃え立ちます。桜の開花の時期が近づいており、次に行く時にはもう無くなっているかもしれません。

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 針の無い、時間の無い時計。外が暗くなるとストーブの火の揺らぎがこの時計に映えて美しかったです。

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 窓の外は大川沿いの桜並木。1年の大半は静かなたたずまいなのですが、お花見時期と天神祭の時は騒然としています。喫茶星霜さんは昨年の天神祭のおりは休業されたそうです。

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 出入り口付近にある本棚と、灯りのあるテーブル。

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 本棚には、月刊誌「大阪人」や「芸術新潮」、「散歩の達人」の別冊ムック等が置いてあります。私の蔵書の傾向と似ていて驚きました。

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 古い置き時計。こちらは時を刻んでいたようないなかったような…。

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 本棚の板の部分は元々はどうも古い民家の壁板か床板のような気がするのですが…。古釘が置いてあることからもそれが感じられます。そのうちマスターにお尋ねしてみようと思います。

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 明かりの灯るテーブル、そして古めかしい椅子。

 だらしのない腰かけ方をすると必ずしも座り心地が良くなく、きちんとした姿勢だとしっくり来る椅子です。そのせいか、お客さんがみなさん姿勢よく座っていらしたような気がします。元は国内の女子大学にあったものだそうです。多分、そこの女子大生は姿勢よく講義を受けていたと思います。この椅子と木の床の相性、とても良いと思いました。

 喫茶星霜さんの所在地は大阪市北区天満4丁目1番2号天満佐藤ビル1階。

 煙草を吸うことはできません。


平成23(2011)年10月20日追記。

 喫茶星霜さんの店内に東洋趣味が加わっています。

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 古い書き付け。

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 借用書のようです。

 いつ来ても空気が凛としていて、落ち着くお店です。


平成26(2014)年2月12日追記。

 喫茶星霜さんは平成26年2月、屋号を星霜珈琲店と改められました。また、コーヒーも一新されています。

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平成27(2015)年5月18日追記

 星霜珈琲店さんの椅子が新しいものになっていました。長野県松本市の職人さんの手によるものと聞きました。

 椅子には、

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 新品と

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 中古品とがあるのですが、作ったのは同じ職人さんだったそうです。椅子の裏面の銘で判明しました。座り心地まことによろしく、また、オープン時からある椅子同様、店内の雰囲気に合っていました。

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 入口の棚の一部が、白灯さんのコーナーになっていて、何点かの雑貨が陳列されていたのですが、その中に、

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 土佐和紙製の五線譜がありました。


平成29(2017)年9月21日追記。

 屋号の変更とともに焙煎の方法が変わったのですが、昨年来、その影響が現れ始めたのか、かつて白い南欧風だったお店の壁が、橙色(だいだいいろ)に染まり始めました。

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 珈琲の味もお店のたたづまいも、より独特になっています。



星霜珈琲店
http://d.hatena.ne.jp/seiso-coffee/


白灯
http://hakutou73.exblog.jp/


土佐和紙の五線譜(土佐和紙プロダクツより)
http://tosawashi-products.com/?pid=23542758


「杉浦日向子の食・道・楽」(新潮文庫)
http://www.shinchosha.co.jp/book/114922/

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by manewyemong | 2009-03-15 11:01 | | Comments(0)