カテゴリ:美( 25 )

 10月4日から6日まで東京に滞在していたのですが、上野の東京国立博物館平成館で6日から始まった特別展「皇室の名宝-日本美の華-」を、観に行くことができました。

 初日だったのですが、開場直後に着いたことと、東京は前日から雨だったこともあり、さほど混んでいなかったので本当にゆっくり観賞することができました。

 先の記事にも書いたのですが、この特別展は会期が二つに分かれていて、私が今回観賞したのは第1期「永徳、若冲から大観、松園まで」の方です。

 やはり伊藤若冲の「動植綵絵」と狩野永徳の「唐獅子図屏風」は、特に多くの人々が見入っていたのですが、今回の特別展で私が最も気に入ったのは、安土桃山〜江戸期に描かれたと思われる、「萬国絵図屏風」という六曲二双の屏風絵です。

 南蛮との交流で得た絵画技法と世界に関する情報を用いながらも、私の好きな日本風味のデコラティブ感が現れていると思います。

 南蛮貿易が盛んだった時代、屏風は日本からの輸出品の一つでした。「BIOMBO(ビオンボ)/屏風・日本の美」でも記したのですが、スペイン語のビオンボ、ポルトガル語のビオブは、日本の屏風(びょうぶ)が語源だそうです。

 晩秋の東京が好きなこともあり、2期も行けたらなと思っているのですが…。


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 図録です。左が1期、右が2期のもの。各々2,000円。第1期と2期の図録を併せて買うと美しい紙袋が付いてきます。

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 片側が伊藤若冲の「群鶏図」(「動植綵絵」より)、

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 もう片側が俵屋宗達の「扇面散屏風」(部分)。この紙袋は単品で400円。

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by manewyemong | 2009-10-08 09:11 | | Comments(0)
 24、5年ほど前、駒田信二(こまだ・しんじ)の「中国怪奇物語」(講談社文庫)というシリーズを読みました。その中の一つ<神仙編>は、「捜神記」「広異記」「聊斎志異」等の書物から、道士、仙人、天界の神々、桃源郷や山上の別世界といった、道教にまつわるキャラクターや空間が登場する物語77篇が収められていました。

 その中には「杜子春」(芥川龍之介の「杜子春」とは趣きを異にする)や、不思議な日本人が命令通りに動く禽獣や虫のからくり人形達を操る「黄金の蝶」(「杜陽雑編」より)という1篇もありました。収録された77篇の全てに、変幻自在な想像力の世界を感じました。

 月に足跡を残し、太陽系の諸惑星に探査機を送るようになった今日の我々の意識から見ても、時空の遠大さを想わずにはいられない内容でした。

 しかしながら「中国怪奇物語<神仙編>」を読んでいた当時、道教的世界のビジュアルイメージのヒントになるようなものが私の近くに無く、掛け軸の仙人やテレビドラマの「西遊記」のイメージだけが脳裡に立ち上がっていました。

 そして今回、特別展「道教の美術」を観て、かつて読んだ「中国怪奇物語<神仙編>」に視覚的なイメージを持たせることができるようになりました。

 ただ、特別展「道教の美術」には閻魔大王の政庁や地獄を描いたもの等、極彩色に彩られた騒々しげな世界ものもあったのですが、全体的にはむしろ静かな空間を描いたものが多かったような気がします。高校の漢文の授業で習った老子の「無為自然」という考えに通ずる作品に、むしろ今回の特別展「道教の美術」のカラーが出ていたと感じました。

 そういえば喜多郎さんのアルバム「敦煌」(NHK特集「シルクロード」オリジナルサントラ盤)の中に、「TAO(タオ:道)」という曲があります。おそらく取材班が撮影した敦煌莫高窟の道教関連の壁画の映像に添えることを企図して作られたと思うのですが、アイリッシュハープのグリッサンドやFM音源キーボードYAMAHA GS1の「ポーン」という減退系の音のフレーズにmini KORG 700Sリードのメロディが絡んでいくという構成で、アルバム中、最も静謐感を漂わせたナンバーです。

 道教はそのまま日本に根付くことはありませんでしたが、神道や仏教等に取り込まれる形で、我々にとって身近な存在であることが、今回の特別展を観れば分かると思います。

 特別展「道教の美術」は、平成21(2009)年9月15日から10月25日まで大阪市立美術館で開かれています。展示品は全期間展示されるものと、前期(9月15日〜10月4日)と後期(10月6日〜25日)で入れ替えられるものとがあります。またパンフレットの表紙になっている「天帝図」(重文。14世紀元代。東京・霊雲寺蔵)は、9月15日から27日までの展示です。

 後期の展示作品が観たいのと、今回買い損ねた豪華な図録を手にする為に、もう一度参観したいと思っています。

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「道教の美術」公式ページ
http://taoism-art.main.jp/concept.html

大阪市立美術館
http://www.city.osaka.lg.jp/museum/

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by manewyemong | 2009-09-22 10:20 | | Comments(0)
 天皇陛下御即位20年を記念して、来る平成21(2009)年10月6日より上野の東京国立博物館で、特別展「皇室の名宝-日本美の華-」が催されます。皇室御物や正倉院、三の丸尚蔵館に収められた作品が公開されます。

 会期は2期に別れていて、第1期は「永徳、若冲から大観、松園まで」と題して10月6日から11月3日まで、そして第2期「正倉院宝物と書・絵巻の名品」は11月12日から11月29日まで。

 1期「永徳、若冲から大観、松園まで」は近世から現代まで作品、例えば狩野永徳の「唐獅子図屏風」や伊藤若冲の「動植綵絵」(「動植綵絵」、相国寺へ帰る参照)、横山大観「朝陽霊峰」、上村松園「雪月花」等が展示されます。

 2期「正倉院宝物と書・絵巻の名品」では古代から中世までのもの、「十二稜鏡黄金瑠璃鈿背(じゅうにりょうきょうおうごんるりでんはい)」「螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)」といった正倉院宝物、三の丸尚蔵館収蔵の「蒙古襲来絵詞」「春日権現期絵」等が展示されます。

 私は東京都民だった10年前の平成11年、同じ場所で催された「皇室の名宝」を体験しました。今回も参観できたらと思っているのですが…。

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 特別展「皇室の名宝-日本美の華-」を観ましたへ続きます。

御即位20年記念特別展「皇室の名宝-日本美の華-」
(宮内庁)
http://www.kunaicho.go.jp/
20years/touhaku/touhaku.html


御即位20年記念特別展「皇室の名宝-日本美の華-」
(東京国立博物館)
http://www.tnm.go.jp/jp/servlet/Con?pageId=A01&processId=02&event_id=6890

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by manewyemong | 2009-08-28 10:14 | | Comments(0)
 本日、阪神電車尼崎駅北側出口中央公園での、ギリヤーク尼ヶ崎さんの公演を観に行きました。私はこの場所で、平成14(2002)年5月3日、同17年4月24日の公演を体験しています。

 私は開演1時間前の13時にこの場所に着いていました。

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 ギリヤーク尼ヶ崎さんが路上公演を始めて20周年のおり、俳優の近藤正臣(こんどう・まさおみ)さんから送られた幟(のぼり)。これが公演場所の目印です。

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 チョークで大きな円が描かれていて「祈りの踊り 午後二時より」と書いてあります。

 と、この2枚の画像を撮ったところで、傍らの噴水の前にギリヤーク尼ヶ崎さんが腰掛けていらっしゃるのを発見しました。

 お声がけとご挨拶をして、NHK総合が昭和60(1985)年4月から3年間放映した紀行番組「ぐるっと海道三万キロ」昭和60年12月16日放映分「国境の民・海の民~オホーツク夢の旅~」でのギリヤーク尼ヶ崎さんの踊りを目にし、近年までお名前も何も知らないまま、しかし番組での感動が色あせることはありませんでしたと申し上げました。

 ギリヤーク尼ヶ崎さんは番組のことを憶えておられて、まさに私がギリヤーク尼ヶ崎さんの舞踊で書いた通りの意図を以て舞われたことを語ってくださいました。ご自分がNHKから起用された理由は「僕の名前がギリヤークだからだと思います」とのことでした。

 ギリヤーク尼ヶ崎さんは近年体調を崩されていて、肺気腫で肺が片方しか用を為さず、それに加えて昨年心臓のペースメーカーを埋め込む手術を受けました。手術前、24時間の心電図をとった所、4、5秒心臓が止まることがあったと医師から告げられたそうです。私が「無理をなさらずに」と申し上げると、「大丈夫です。まだ78歳ですから」と言い残して、公演の支度の為に一旦尼崎駅北側出口中央公園を去って行かれました。

 公演の様子は、おそらく他の多くのブログ等で紹介されるでしょうから、私は撮影をしませんでした。お体のこともあり、演目を二つ減らす形での公演でした。もっとも、減らした理由は終演後のギリヤーク尼ヶ崎さんの弁によると、3ヶ月入院した為に踊りを忘れてしまったから、だそうですけど…。

 先日、毎日新聞社が平成7(1995)年に出したムック「戦後50年」を買ったのですが、その中に昭和46(1971)年のギリヤーク尼ヶ崎さんの写真を見つけました。今と同じく褌姿で踊っているのですが、若々しく、筋骨隆々で、眼差しに力がみなぎっていました。しかしながら、当時の踊りそのものを観たわけではありませんが、やはり私は今のギリヤーク尼ヶ崎さんの踊りの方が好きだと思います。たとえ今、肉体的にハンディキャップがあったとしても、文字通り鬼気迫る鬼の踊りより、先の震災の被災地で得たという祈りの踊りの方が、私や尼崎駅前に居合わせる人の心を打つような気がします。

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by manewyemong | 2009-04-29 19:56 | | Comments(0)
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 来る10月30日(火)から12月16日(日)まで大阪市立美術館で特別展「BIOMBO(ビオンボ)/屏風・日本の美」が催されます。内外の約100件が展示されます。

 絵巻とならんで日本独自の絵画である折り曲げる形の屏風絵は相当早くから海外に渡っていて、「屏風(びょうぶ)」という日本語が、スペイン語の「ビオンボ」、ポルトガル語の「ビオブ」として定着したようです。

 どこの国での話かは分からないのですが、かつてイエズス会の宣教師達に「私室を金屏風で飾ってはならない」という禁令が出たこともあるそうです。また、17世紀後半にメキシコで描かれた「総督の館」(マドリード、アメリカ博物館蔵)という8枚組の衝立画は、金雲の描き方や8枚のパネルからなるという形式など、日本の屏風の影響を強く受けています。

 今回展示される屏風の中には、南蛮(ヨーロッパ)風のモチーフが描かれたものがあります。例えば「レパント戦闘図・世界地図屏風」(兵庫・香雪美術館蔵)は、1571年10月7日のレパントの海戦を描いたものですが、なぜかトルコ軍(象戦車まで描かれている)とそれを逐うヨーロッパ騎士団の合戦が主体で描かれています。馬戦車に乗ったヨーロッパ軍の指揮官には“ろうま乃王”と記されていて、西洋画の中に日本語が書かれているのがなんだか面白い。

 「泰西王侯騎馬図屏風」(東京・サントリー美術館蔵)は、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世VSトルコ王、モスクワ大公VSタタルのハーンという図式で、ヨーロッパ対非キリスト教国の構図になっています。これらはモチーフや表現は西洋風なのですが、日本画の技法で描かれています。

 私は屏風絵の中でも、先の「レパント戦闘図・世界地図屏風」や、姫神せんせいしょんの「舞鳥(まいどり)」(アルバム「姫神」より)で触れた「江戸名所図屏風」(出光美術館蔵)等、合戦や都市の賑わいといった騒擾を描いたものが好きです。音の無い絵画であるにもかかわらず、描かれた空間の音響や登場人物達が放つエネルギーが伝わって来るような気がするからです。そういった題材の作品に関して、今回「関ヶ原合戦図屏風」(大阪歴史博物館蔵)や「祇園祭礼図屏風」(サントリー美術館蔵)が展示されます。

 合戦図ばかりを集めたある画集が出ているのですが、タイトルや出版社等全く判りません。あるいは今回の特別展の会場で手に入れることができるかもしれないので、それも楽しみにしています。

 大阪市立美術館のサイトでは出品作品に関して10件余しか告知されていないのですが、あるいはまだまだ有名な屏風が展示されるかもしれませんし、私が知らなかった作品に出会えるかもしれないので、この特別展「BIOMBO(ビオンボ)/屏風・日本の美」を楽しみにしています。

特別展「BIOMBO(ビオンボ)/屏風・日本の美」
(大阪市立美術館サイトより)
http://osaka-art.info-museum.net/
special019/special_biombo.html



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資料:
「芸術新潮」平成11年2月号の特集、「来日450周年記念・ザビエルさん、こんにちは」を参考にしました。

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by manewyemong | 2007-10-09 20:34 | | Comments(3)
 これまで、伊藤若冲の特別展「美の巨人たち」でジョー・プライスコレクションの特集プライスコレクション・若冲と江戸絵画展を観ました「動植綵絵」、相国寺に帰る「動植綵絵」、相国寺に帰る(2)「動植綵絵」、相国寺に帰る(3)で採り上げてきた、エツコ&ジョー・プライスコレクションのジョー・D・プライスさんの半生を、インタビュー形式にまとめた「若冲になったアメリカ人/ジョー・D・プライス物語」という本が、小学館から出版されました。

 インタビュアーの山下裕二さんは明治学院大学文芸部芸術学科教授です。「BRUTUS」2006年8月15日号(マガジンハウス)で、プライス家の壁面のタイルに伊藤若冲の「鳥獣花木図屏風」があしらわれているバスルームで、ジョー・プライスさんの背中を流している写真をご覧になった方も多いと思います。

 幼少期に負ったある事柄や、生まれ育ったオクラホマの平原の起伏も季節感も無い土地柄、日本人のエツコ夫人から「はっきりとノーと言わなきゃダメ」「まるで日本人みたい」と言われる人柄等、ジョー・プライスさんが江戸絵画に惹かれるのには宿命と思えるような数多のいきさつがあったことが明らかにされています。

 「はっきりとノーと言わない、まるで日本人みたい」な夫の為に、夫人は「孫子」「韓非子」「墨子」といった兵法書まで読んで、“虚飾とハッタリがまかり通る町”ロサンゼルスで夫君を守る努力をされています。

 ここでは書きませんが、エツコ&ジョー・プライスコレクションは決して順風満帆なものではなく、絵画や芸術とは全く関係の無い事柄で、実に現代アメリカらしいアクシデントに見舞われていたこともあります。そのことを知って、私は先のプライスコレクション・若冲と江戸絵画展を、感慨を持って振り返らざるを得ませんでした。

 繰り返しますがそれは絵画そのものとは何の関係も無い次元の話です。しかし今日、これだけの江戸絵画が散逸すること無く、研究者や観覧者の目に触れることができるのは、夫妻の努力のおかげであることを改めて知りました。

 文中、ジョー・プライスさんと伊藤若冲の人生には奇妙な一致があることが語られています。そして最後に先の「若冲展」(「動植綵絵」、相国寺に帰る(2)参照)でも展示された、久保田米遷の描いた伊藤若冲の肖像画が「若冲になったアメリカ人/ジョー・D・プライス物語」の191ページに掲載されているのですが、その絵とその次のページのジョー・D・プライスさんの容貌が…。「若冲になったアメリカ人」のタイトルの由来はそういうことです。本を手に取ってお確かめください。


「若冲になったアメリカ人/ジョー・D・プライス物語」
(著者:ジョー・D・プライス、インタビュアー:山下裕二、小学館刊)
http://skygarden.shogakukan.co.jp/
skygarden/owa/solrenew_detail?isbn=9784093877138

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by manewyemong | 2007-06-16 20:34 | | Comments(0)
 「動植綵絵」、相国寺に帰る(1)「動植綵絵」、相国寺に帰る(2)からの続きです。

 「動植綵絵」の中から私の好きなもの、興味を持ったものをいくつかピックアップして雑感を記したいと思います。何回かに分けて書きます。

 姫神せんせいしょんのアルバム「姫神」で触れた、袴田一夫(はかまだ・かずお)さんの手によるジャケット画の鳥のモデルになったと思われる「老松白鳳図(ろうしょうはくおうず)」は、「釈迦三尊像」の左横にありました。私は平成11(1999)年末の東京国立博物館での特別展「皇室の名宝」以来の観賞です。

 鳳凰(ほうおう)はもちろん実在の鳥ではなく、それ故、伊藤若冲の想念を込めやすいモチーフだと思うのですが、それにしてもこの白い鳳凰の目つきは艶っぽいと思います。ライオンのオスがメスの尿を嗅いだ時にこんな目つきをするのを、NHK「ダーウィンが来た」で観ました。

 長岡秀星さんの「迷宮のアンドローラ」の中に、男性の陰茎や陰嚢のような形のグロテスクな物体が、アンドローラや女性達を翻弄するというシーンがいくつかあるのですが、「老松白鳳図」の画面左から中央へ向かって湾曲しながら挑発的にのびている幾本もの尾羽の先のハートマークは、あるいは陰嚢のシンボライズかもしれません。

 キジやヤマドリ、クジャクの尾羽はまっすぐ後ろに突き出ているのですが、「老松白鳳図」のそれは異様に湾曲していて、もしかすると白鳳のお尻からのびているというより、白鳳を追って、白鳳のお尻に向かって突き刺さっているのかもしれません。白鳳が恍惚とした目をし、羽を広げ、駈けてだしているのは、実はそういったことを織り込んでいるのかなとも思えます。そういえば若冲は妻帯せず、春画を描くことはなく、また私が知る限り女性を描いたものを思い出せません。

 羽の描き方が必ずしも現実の鳥に即したものではなく、まるでDTPソフトで幾何学的な線画のパーツを描き、さらにそれをコピー&ペースト機能を使って組み合わせたような感があります。

 羽毛も何だかペルシャ絨毯の布地のような、単に想像上の鳥を描いたということだけでなく、非現実感が何だか他の「動植綵絵」よりも強調されている作品のような気がします。「動植綵絵」の鳥達の白い部分は、実に凝った技法とコストがかけられています。図録に詳らかに記されていますので、購入をお勧めします。

 「老松白鳳図」は白い鳳凰に関して、先程触れたある凝った技法とコストがかけられていることに加え周囲を暗く描いているので、白鳳にスポットライトを当てたかのような効果が出ています。

 「動植綵絵」、相国寺に帰る(2)で、
今回そばに行ってじっくり見ることができたが故にいくつか気付いたことがあります。帰宅して画集や美術雑誌を見直すとそこでも確かにそれらの要素を視認できるのですが、やはり実物を見ないと気付かないことがあることを思い知りました
としました。

 学校の図書室にあった画集で「老松白鳳図」を見て以来役25年、何度となく画集や美術雑誌、そして平成11年には現物を見ていたにも関わらず、今回画面右上から下りて来ている松の枝にカッコウかホトトギスと思われる鳥がとまっていることに気付きました。

 この25年間ひたすらスポットライトを浴びた白鳳を見続けて来て、今回、相国寺承天閣美術館でやっと「老松白鳳図」全体を眺めることができるようになりました。

 「若冲になったアメリカ人/ジョー・D・プライス物語」へ続きます。
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by manewyemong | 2007-05-24 20:51 | | Comments(0)
 「動植綵絵」、相国寺に帰る(1)で触れた、相国寺承天閣美術館で開かれている「若冲展」に行ってきました。

 入場制限こそ無かったものの、5月16日、つまり平日の開館直後であるにも関わらず既に多くの人がつめかけていて、なおかつ客層に老若男女の統一感が無く、 若冲人気の度合いと広範さを実感しました。

 伊藤若冲が自身と親族の供養の為に「釈迦三尊像」3幅と併せて相国寺に寄進した「動植綵絵」30幅は、同寺での観音懺法(かんのんせんぽう)のおり、「釈迦三尊像」3幅を中央に、そして「動植綵絵」を15幅づつ左右に配して飾られたそうです。しかしながら明治22(1889)年に「動植綵絵」が皇室へ献上されて以来、「動植綵絵」全てが一度に公開されることは無く、また「釈迦三尊像」と一緒に観るという機会もありませんでした。

 また、観音懺法のおり「釈迦三尊像」3幅と「動植綵絵」30幅がどうレイアウトされたのかについて議論があります。相国寺には本来「閣懺法巻軸配列図」というものがあり、そこにレイアウトに関する正解が記されているはずなのですが、今の所見つかっていないようです。

 今回の公開は、「釈迦三尊像」「動植綵絵」を併せたこのシリーズ本来の形と、レイアウトに関する相国寺の見解に基づいて為されていました。詳らかなレイアウトの順番を、実は忘れてしまったのですが、「釈迦三尊像」3幅を中央に置き、その左右に2幅づつ「動植綵絵」を配し、さらに直角に折れる形で左右13幅づつ飾られていました。「釈迦三尊像」の左右に2幅づつ「動植綵絵」が配された理由が単にスペースの関係なのかそれとも相国寺の見解に基づくものなのかは分かりません。

 展示室に入るとまず「釈迦三尊像」「動植綵絵」全体が目に入るようになっていて、私はそれぞれの絵を観に行くまでのかなりの時間をそこに立って眺めていました。やはりこれらはまぎれもなく仏教画で、伊藤若冲は真摯な心持ちでこれらを描いたのではないかと思いました。もちろん昨今若冲に関心を持つ人々の「シュール」「キモカワイイ」といった感覚を私は否定する気はありません。

 「わび」「さび」は確かに日本人の美的感覚の特徴の一つではありますが、我々にはそれとは全く逆の“デコラティブ(decorative:派手)”なものを嗜好する面もあります。

 「芸術新潮」の平成15(2003)年2月号の特集は「ワビサビなんかぶっ飛ばせ!バロック王国ニッポン」と題して、日光東照宮、西本願寺飛雲閣、目黒雅叙園、大阪飛田新地の料亭百番、川崎市のラブホテル迎賓館等の特集でした。

 宮崎駿監督のアニメ映画「千と千尋の神隠し」の湯屋に登場する派手な日本趣味の源泉をこれらに探るという趣向だったのですが、今回、会場入り口に立って作品全体を見渡した時、「動植綵絵」も日本人のデコラティブ趣味に合致するもののような気がしました。仏教の「山川草木悉皆成仏」(さんせんそうもくしつかいじょうぶつ:この世にあるものは全て仏である)という教えを、伊藤若冲は静謐感ではなく極彩色の中に見ていたのかもしれません。

 「釈迦三尊像」「動植綵絵」とも描かれて200年以上経つにも関わらず塗料の劣化が感じられないこともあって、何だか日本画というよりDTPを駆使したグラフィックのように見えました。

 また、今回そばに行ってじっくり見ることができたが故にいくつか気付いたことがあります。帰宅して画集や美術雑誌を見直すとそこでも確かにそれらの要素を視認できるのですが、やはり実物を見ないと気付かないことがあることを思い知りました。それらは後ほど書きたいと思います。

 「動植綵絵」、相国寺に帰る(3)「若冲になったアメリカ人/ジョー・D・プライス物語」へ続きます。


参考資料

「芸術新潮」2000年11月号
「冴えない青物商、転じて画家となる。異能の画家伊藤若冲」
(新潮社)

「芸術新潮」2003年02月号
「ワビサビなんかぶっ飛ばせ!バロック王国ニッポン」
(新潮社)
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by manewyemong | 2007-05-21 10:16 | | Comments(0)
 度々紹介してきた江戸時代の絵師、伊藤若冲の「動植綵絵」が、来る5月13日から6月3日までの間、118年ぶりに京都の相国寺(しょうこくじ)に帰ってきます。

 「動植綵絵」は伊藤若冲が10年がかりで制作し、相国寺へ寄進した作品群です。その後、明治22(1889)年、相国寺から皇室へ献上され、今日に至るまで皇室御物として宮内庁三の丸尚蔵館にあります。

 伊藤若冲の本来の構想は、「動植綵絵」と今も相国寺にある「釈迦三尊像」を併せたものだったとのことですが、それが今回実現の運びとなったわけです。

 伊藤若冲の特別展でも記したのですが、私は平成11(1999)年末、上野の東京国立博物館で開かれた「皇室の名宝」という特別展で「動植綵絵」を見ました。

 この特別展の後「動植綵絵」は6年余の修復期間を経て、三の丸尚蔵館第40回展 「花鳥−愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」として昨年3月25日から9月10日まで公開されました。

 上京して観賞することも考えたのですが、既に「BRUTUS」誌2006年8月15日号(マガジンハウス)で今回の展覧会に関する記事が出ていたので、待つことにしていました。今回は万難を排して参上したいと思います。

 ちなみに姫神せんせいしょんのアルバム「姫神」のジャケット画

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 のモチーフとなったであろう「老松白鳳図(ろうしょうはくおうず)」も、もちろん展示されます。

 「動植綵絵」、相国寺に帰る(2)「動植綵絵」、相国寺に帰る(3)「若冲になったアメリカ人/ジョー・D・プライス物語」へ続きます。


若冲展・釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会
http://jakuchu.jp/jotenkaku/

京都若冲探訪その2
(「若冲と江戸絵画展」コレクションブログより)
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/20061023/p1

伊藤若冲の花鳥画
http://gonzarez.hp.infoseek.co.jp/jakutyu/jakutyu1.html

「BRUTUS」2006年8月15日号(マガジンハウス)
http://www.brutusonline.com/
brutus/issue/index.jsp?issue=599

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by manewyemong | 2007-04-29 09:40 | | Comments(0)
 これまでアルバム「姫神」伊藤若冲の特別展「美の巨人たち」でジョー・プライスコレクションの特集で、伊藤若冲やエツコ&ジョー・プライスコレクションについて触れてきましたが、京都国立近代美術館での「プライスコレクション・若冲と江戸絵画展」に行ってきました。

 こういうまとまった形で伊藤若冲の作品に接するのは、平成12(2000)年秋の京都国立博物館「没後200年・若冲展」以来です。ウィークデーだったことや開場1時間余前に美術館に着いていたこともあり、各作品を余裕を持って観賞することができました。

 既に上野の東京国立博物館でご覧になった人達が、ブログで伊藤若冲の作品に関する(特に例の「鳥獣花木図屏風」)感想を上げていらっしゃるので、今回の記事ではあえて伊藤若冲の作品は外すことにしました。

 今回の特別展に関して京都国立近代美術館では展示の仕方にも新たな試みが為されていて、酒井抱一(さかい・ほういつ)の「十二か月花鳥図(じゅうにかげつかちょうず)」12幅に関して、各幅に床の間の障子越しの自然光が照明として使われ、観賞する時間帯によって見え方が変わるようになっています。

 そういえば10年ほど前にNHKが、仏像を通常の天井からの電気の明かりではなく、床側からの行灯(あんどん)かろうそくの灯りを照明として使った場合にどういう風に見えるか、という主旨の番組を放映しました。

 天井からの電気の明かりだと優しく親しみやすかった仏像が、床側からの火の灯りだと近寄り難い威厳を持った表情に変わりました。日本画も本来、自然光やこういった照明で見るべきなのかもしれません。

 長沢芦雪(ながさわ・ろせつ)の「白象黒牛図屏風(はくぞうこくぎゅうずびょうぶ)」は、六曲一双の各々縦155.3cm横359cmの、大きな、迫力のある屏風絵です。動物たちの白と黒の色調や描き方の違いでコントラストを出しています。

 筆遣いや色合いが柔らかく、また描かれた動物たちの表情がユーモラスな作品です。白象には小さな黒い鳥が、黒牛には同じく小さな白い子犬が添えられていて、一双の各々の中に逆の色調が配されていることも特徴の一つです。先に述べた床側からの火の灯りで眺めたらどういう風に味わえるかなと思った作品です。

 今回の出展作品の中で最も気に入ったのは、葛蛇玉(かつ・じゃぎょく)という大坂(大阪)の絵師が描いた、「雪中松に兎・梅に鴉図屏風(せっちゅうまつにうさぎ・うめにからすずびょうぶ)」という六曲一双の屏風絵です。

 サイズは各々縦153.7cm横353cm。雪がしんしんと降りしきり積もる中、松の木にしがみついた白兎の所にもう1羽の白兎が駆け寄る、もう1枚の屏風には枝に止まった鴉ともう1羽の飛び来る鴉が、何かコミュニケーションをとっている、という情景を描いています。雪が激しく降りしきる動的な様子と、物音らしい物音を感じさせない静寂感が、屏風の中で同居しています。

 「雪がしんしんと降る」の「しんしん」が、絵の中に封じ込められているような感じがしました。絵の中に音響にならない音響が感じられたのです。姫神のアルバム「雪譜(せつふ)」の「細雪」(この屏風絵に描かれた雪は牡丹雪ですけど)「青らむ雪のうつろの中へ」や「ましろに寒き川」の曲中に描かれたのと同じような空間を、葛蛇玉も見つめていたのかもしれません。

 ちなみに会場では「雪中松に兎」を右に「梅に鴉」を左に展示されていたのですが、図録によるとかなり説得力を帯びた異論もあるとのことです。

 エツコ&ジョー・プライスコレクションには江戸時代だけでなく明治の作品もあるのですが、川鍋暁斎(かわなべ・きょうさい)の「妓楼酒宴図(ぎろうしゅえんず)」もその一つです。

 妓楼の座敷での乱痴気騒ぎを描いた作品ですが、羽目を外した客達、花魁(おいらん)、芸者、いわゆる遣り手婆(やりてばあ)、幇間(ほうかん:太鼓持ち)といった人物1人1人が特徴を与えられて描き込まれています。絵の左端には達磨大師の描かれた衝立(ついたて)があるのですが、大師が眉をひそめて一座を見ているのが何だか可笑しい。

 「若冲と江戸絵画展」コレクションブログによると、暁斎は酒に関することで問題を起こすことがあったようです。達磨大師は、あるいは描き手の自嘲のシンボライズかもしれません。

 鈴木其一(すずき・きいつ)の墨画「飴売り図」は、キジかヤマドリの尾羽を付けた帽子(私には支那、それも漢族ではなく満州族風に見えます)をかぶり 、同じく満州風の胡服を着、右手に太鼓、左手に持ったチャルメラ(図録によると唐人笛と言われていたそうです)を吹きながら飴を売り歩く人を描いた、シンプルな筆致の作品です。軽快なチャルメラや太鼓の音が封入されたような、音響を感じさせる絵です。

 PRの為に異国風の装束で人々の注意を引いていた飴売りの様子は、明治になっても見かけられたようで、図録には石川啄木の、

飴売りの チャルメラ聴けば うしなひし おさなき心 ひろへるごとし

という歌(「一握の砂」から引用)が解説に添えられていました。

 エツコ&ジョー・プライスコレクションは、伊藤若冲に関するものが有名だからかもしれませんが、どちらかというと自然を描いたものが多く、風俗を題材にしたものは少ないかのような先入感が私にはありました。しかし実際は「妓楼酒宴図」「飴売り図」のような風俗を描いたものもあり、時代の空気が封入されたような作品が好きな私は大いに楽しめました。

 エツコ&ジョー・プライスコレクションが日本でこういう形で公開される機会は、これが最後かもしれません。期間中、作品の架け替えもあるので、あと数回、京都国立近代美術館に出かけようかと思っています。

 我々日本人は長く日本画を顧みることを忘れていました。ジョー・プライスさんが蒐集してくださったおかげで、我々は日本画を思い出し、こうしてまとまった形で観賞することができます。ジョー・プライスさんに本当に感謝したいと思います。

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 「プライスコレクション・若冲と江戸絵画展」図録。

 「動植綵絵」、相国寺に帰る(1)「動植綵絵」、相国寺に帰る(2)「動植綵絵」、相国寺に帰る(3)「若冲になったアメリカ人/ジョー・D・プライス物語」へ続きます。


「若冲と江戸絵画展」コレクションブログ
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/
ジョー・プライスさんご自身による各作品に対する解説ブログです。各作品の画像も添えられています。

京都国立近代美術館
http://www.momak.go.jp/

「鳥獣花木図屏風」
(「若冲と江戸絵画展」コレクションブログより)
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/20060511/p1

「十二か月花鳥図」
(「若冲と江戸絵画展」コレクションブログより)
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/20060630/p2

「白象黒牛図屏風」
(「若冲と江戸絵画展」コレクションブログより)
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/20060628/p1

「雪中松に兎・梅に鴉図」
(「若冲と江戸絵画展」コレクションブログより)
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/20060627/p2

「妓楼酒宴図」
(「若冲と江戸絵画展」コレクションブログより)
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/20060604/p1

「飴売り図」
(「若冲と江戸絵画展」コレクションブログより)
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/20060611/p2

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by manewyemong | 2006-09-27 19:45 | | Comments(0)