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 テレビ東京系「美の巨人たち」の7月8日放映分は、伊藤若冲とエツコ&ジョー・プライスコレクションの特集です。伊藤若冲の特別展でご案内した「プライスコレクション・若冲と江戸絵画展」にちなんだものと思われます。

 自称“合衆国中部に住む一技術者”ジョー・プライスさんは、昭和38(1963)年に初めて日本を訪れて以来、日本人の美術的価値観に惑わされることなく、空間の巧妙な処理、型にはまらない構図、自然に対する把握力をもつ、と感じた作品を収集し続けたそうです。このコレクションの中核を為すのが伊藤若冲の作品群です。

 昭和45(1970)年、京都御所の皇室御物曝涼(ばくりょう:虫干し)のおり、伊藤若冲の「動植綵絵」30幅全てが風通しのため御所内に掲げられ、特別にそれを見る機会を与えられたジョー・プライスさんは、人目もはばからず感泣したといいます。

 ジョー・プライスさんは収集した江戸絵画を個人的に楽しむのではなく、ロサンジェルス・カウンティ美術館に寄贈して、多くの人々が伊藤若冲、ひいては江戸絵画の魅力を堪能することに貢献されています。

 我々は明治維新以来、それまで日本人が為して来たものを否定、あるいは忘却してきました。そのことを外からの風によって意識することがありますが、エツコ&ジョー・プライスコレクションもその一つだと思います。

 「プライスコレクション・若冲と江戸絵画展」は7月4日から8月27日まで東京国立博物館、その後、伊藤若冲が生まれ育ち死んでいった京都に帰ってきます。京都国立近代美術館では9月23日から11月5日まで。京都に帰って来るのを待つか、上京して皇居三の丸尚蔵館第40回展 「花鳥−愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」も併せて観るか、思案中です。

 プライスコレクション・若冲と江戸絵画展を観ました「動植綵絵」、相国寺に帰る(1)「動植綵絵」、相国寺に帰る(2)「動植綵絵」、相国寺に帰る(3)「若冲になったアメリカ人/ジョー・D・プライス物語」へ続きます。


テレビ東京「美の巨人たち」
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/


参考資料

「目をみはる伊藤若冲の動植綵絵」(狩野博之、小学館)

「芸術新潮」2000年11月号(新潮社)


追記

 この回の「美の巨人たち」のBGMについて、ほとんどがYAS-KAZさんの「縄文頌(じょうもんしょう)」というアルバムからのピックアップで、冒頭の「鳥獣花木図屏風」にバックに流れていたのは「ジャングルブック」です。
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by manewyemong | 2006-07-02 09:41 | | Comments(0)
アルバム「姫神」の中で、

袴田一夫(はかまだ・かずお)さんの手によるジャケット画の鳥は、18世紀の江戸時代の京都の絵師、伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう)が描いた「動植綵絵(どうしょくさいえ)」の中の「老松白鳳図(ろうしょうはくおうず)」をモデルにしたと思われます。私は実物を1999年末、上野の東京国立博物館で開かれた「皇室の名宝」という特別展で見ました。「老松白鳳図」は皇室御物として宮内庁三の丸尚蔵館におさめられています。

と書いたのですが、最近、伊藤若冲の作品の皇室御物の公開や、恐らく若冲の最大の収集家と思われるジョー・D・プライスさんのコレクションの特別展が相次いでいます。それらに関連したサイトを以下に挙げておきます。
 

三の丸尚蔵館第40回展「花鳥−愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」
http://www.kunaicho.go.jp/11/d11-05-06.html

 アルバム「姫神」のジャケット画の元になったと思われる「旭日鳳凰図」「老松白鳳図」は、ともに第4期7月8日から8月6日までの公開です。

プライスコレクション「若冲と江戸絵画展」
http://www.jakuchu.jp/index.html

「若冲と江戸絵画展」コレクションブログ
http://d.hatena.ne.jp/jakuchu/

伊藤若冲の花鳥画(「老松白鳳図」等)
http://gonzarez.hp.infoseek.co.jp/jakutyu/jakutyu1.html

 
 「美の巨人たち」でジョー・プライスコレクションの特集プライスコレクション・若冲と江戸絵画展を観ました「動植綵絵」、相国寺に帰る(1)「動植綵絵」、相国寺に帰る(2)「動植綵絵」、相国寺に帰る(3)「若冲になったアメリカ人/ジョー・D・プライス物語」に続きます。

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by manewyemong | 2006-06-26 10:07 | | Comments(0)
 京都国立博物館で催されている特別展「大絵巻展」について記したいと思います。私は開場よりもかなり以前に門の前に着いていたので、待ち時間無しに観ることができました。

 絵巻は右から左へ絵と文による物語を読み進めていく日本独特の芸術です。たしかによくいわれるように、漫画やジャパニメーションのルーツを感じる要素がありました。

 見る、ひいては、想う、という感性と、それを具現化する発想や手法は、個々の表現者の資質だけでなく、遺伝的特質を種子に国家社会を苗床にして育まれてきた民族性を否定できないなと、改めて感じました。

 私が今回の特別展で最も楽しみにしていた「信貴山縁起(しぎさんえんぎ)」の「飛倉巻(とびくらのまき)」は、空飛ぶ鉢によって長者の家から飛び去った倉から、中に収められていた米俵が並んで飛んで帰って来るという場面を、物語に沿う形で連続して描いています。アニメーション的な動きの表現の素晴らしさはもとより、人々の慌てふためく表情が活き活きと描かれています。

 今回見ることが出来なかったのですが「信貴山縁起」の「尼公巻(あまぎみのまき)」の東大寺大仏殿の部分は、尼公の動きを描き表す為に1画面の中に尼公が複数描き込まれているのですが、この手法を“異時同図(いじどうず)”というそうです。これ、今の漫画でもごく普通に用いられています。

 これも今回は見られなかったのですが「信貴山縁起」の「延喜加持巻(えんぎかじのまき)」の、“剣の護法”が法輪をまわしながら信貴山から醍醐天皇の許へ飛行する場面も、飛んで来た方向と鳥の飛行編隊を画面左端奥に配し、そして飛行する剣の護法を右端手前に描き込むことで飛翔のスピード感と距離感を表現しています。鳥山明さんの漫画「ドクタースランプ」で、アラレちゃんが「キーン!」と言いながら両手を水平に広げて走るカットに、似たような構図があった記憶があります。見たのは26、7年前の話で少なからず曖昧なのですけど…。

 「泣不動縁起(なきふどうえんぎ)」の、陰陽師(おんみょうじ)安倍晴明(あべのせいめい)が護摩を焚いて祈祷する場面のもののけ達の姿が、とても室町時代の画工が描いたとは思えないくらい現代的でユーモラスです。まるで水木しげるさんの漫画「ゲゲゲの鬼太郎」のキャラクターのようです。

 今回の出展品の中で私が最も気に入ったのは「十二類絵巻(じゅうにるいえまき)」です。十二支達が鹿を酒席で歓待する場面、登場する動物達がいずれも束帯姿で、動物というより人間が馬や羊(というよりヤギに見える)等のかぶり物をかぶっているようなユーモラスな光景です。

 そういえばよく似た馬や鶏のかぶり物を「タケちゃんマン」でビートたけしさんが使っていらっしゃいました。「十二類絵巻」の動物達は多くが台詞を言っているのですが、ティム・バートン監督の映画「猿の惑星」で、猿達が食事をしながら社会や家庭の問題を口々に話すシーンを思い出しました。動物を擬人化、それも生活感を込めている所が似ています。

 絵巻は歴史的事件を伝える物もあります。必ずしも事件が起こった当時に描かれたとは限らないのですが、後世の人々が事件やそれに関わった人物をどう評価したか分かるという意味で興味深いと思います。

  「後三年合戦絵巻(ごさんねんかっせんえまき)」は、描かれたのは南北朝時代ですが、この絵巻の主題である“後三年の役(えき)”は平安時代の奥州で起きた戦いです。金沢の柵(かねざわのさく)での兵糧攻めの際の源義家軍の残虐行為(柵を脱出してきた女性達を斬殺する)を描いた場面があります。現代の八幡太郎義家像は強弓の名手といった颯爽とした武将なのかもしれませんが、平安末期から鎌倉、南北朝時代はそうではなかったようです。そういえば平清盛や源頼朝と対峙した後白河法皇の今様(いまよう)集「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」にも、

 鷲の棲む深山(みやま)には なべての鳥は棲むものか
 同じ源氏と申せども 八幡太郎は恐ろしや

とあります。少なくとも好感を持たれた人物ではなかったようです。

 ちなみにこの合戦で陸奥・出羽の支配者になるのが奥州藤原氏の初代清衡(きよひら)です。

 「BGMとしての姫神」(2)で触れた「餓鬼草紙(がきそうし)」も展示されていました。私が問題にしたシーンで使われていた屎便餓鬼や疾行餓鬼の部分も展示されていました。やはり「遠野古事記」のシーンでこの絵巻を使うに当たっての説明が不足、というより、全く不適切だったと思います。宝暦の大飢饉の遠野郷の難民と餓鬼とを重ねるのは、そもそも“餓鬼”の意味が分かっていない。餓鬼(がき)とは、贅沢をして地獄に堕ちた亡者のことです。宝暦の飢餓難民は、贅沢をして地獄に堕ちた亡者ではない。

 今回の出展作品のいくつかを、私は既に何度か見たことがあるのですが、今回、“絵巻”というテーマでまとまった形で見ることで、この特別展「大絵巻展」そのものが、1巻の長い絵巻のように感じられました。絵巻は作品保存の為に会期中に何度か巻き替えを行うので、機会があればまた見に行きたいと思っています。

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「大絵巻展」
http://daiemaki.exh.jp/

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by manewyemong | 2006-05-06 19:14 | | Comments(0)
 NHK総合が昭和60(1985)年4月から3年間放映した紀行番組「ぐるっと海道三万キロ」の昭和60年12月16日放映分「国境の民・海の民~オホーツク夢の旅~」で、顔を白塗りにして丸めたムシロを小わきに抱えた異様な風体の人物が、坂道を独特の歩き方で登って来たり、夜の波打ち際で激しい踊りをするといった舞踊の映像が挿入されていたことがあります。

 この人物は、ギリヤーク尼ヶ崎さんという創作舞踊家(自称・大道芸人)です。人間の喜怒哀楽の情念を、全身を使った鬼気迫る踊りで表現していらっしゃいます。

 本名を尼ヶ崎勝見(あまがさき・かつみ)さんといい、昭和5(1930)年北海道函館市のお生まれです。芸名は、容貌がギリヤーク(樺太の先住民族ニブヒの別呼称)族に似ていることから来ているそうです。

 伊丹十三監督の映画「マルサの女」に“宝くじの男”役で出演されていました。「マルサ〜」でのあの扮装はギリヤークさんの普段着です。あの出で立ちで阪神電車尼崎駅前の広場に来られました。

 ギリヤークさんが「ぐるっと海道〜」に出演した回は、たしか、アイヌやウィルタ、ニブヒといった北海道や樺太、千島列島の先住民族の特集だったと記憶しています。彼等は松前藩や明治政府の屯田兵よりずっと早く、先に挙げた土地を“開拓”して生活していたわけですが、日本の版図の北侵の中、多くのものを奪われ、虐げられてきました。アイヌ族は、自分達からあらゆるものを奪ったヤマト族を“シャモ(隣人)”と呼びました。彼等の心持ちの崇高さや優しさ故に歴史の中で結果的に敗積していくというプロセスは、姫神が描き続けている古代陸奥・出羽の蝦夷(エミシ)の姿、そのままです。

 この回では番組中の何ヶ所かで、突如ギリヤークさんの舞踊の映像が挿入されていました。姫神の「草原情歌」(アルバム「まほろば」より)や「夕凪の譜」(アルバム「海道」より))がBGMで鳴っていたような記憶があります。ギリヤークさんの舞踊に対するナレーションや字幕といった説明的なものは一切ありませんでした。しかし、先住諸民族の悲しみを彼の舞踊が伝えてくれていました。「ぐるっと海道〜」の制作者はこの回の番組内容を、単に事実を伝えるだけの説明的なものにしたくなかったのだと思います。ギリヤーク尼ヶ崎さんの起用はそれが理由だと思います。

 私はこれまで2002年の今日と昨年4月24日の二度、阪神電車尼崎駅前の広場でギリヤークさんの創作舞踊を見ました。朝日新聞阪神支局襲撃事件(1987年の今日発生し2002年の今日時効成立)で殺害された小尻知博記者、そして昨年のJR福知山線脱線事故の犠牲者への供養の舞でした。これらの事件に対する悲しみを75才のギリヤークさんは全身全霊を傾けて表現してくれました。

 使い古された拡声器から津軽三味線と恐山のイタコの口寄せの呪文のテープの音声が鳴る中、数珠を地に打ち、水を被って転げまわりながら、「古尻さんはなぜ死んだ!」と叫び続けるギリヤークさんの舞いを見て、これらの事件の報に接して、私の中で澱(おり)のように溜っていた幾種類もの感情に、ギリヤークさんが一つの形を与えて解き放ってくれたような気がしました。

 私はギリヤークさんの舞踊の中で、体を前に倒して向かい風に逆らうように歩く所作が特に好きです。ギリヤークさんの、ひいては己が人生と格闘する全ての人々の姿が映されているような気がするからです。

 毎年ちょうど今頃、ギリヤーク尼ヶ崎さんは京阪神地区の路上で公演されています。4月29日には大阪市中央区のアメリカ村三角公演で公演されていたようです。ちなみにギリヤーク尼ヶ崎さんは見物人の投げ銭で暮らしていらっしゃいます。

 平成21年4月29日のギリヤーク尼ヶ崎さんに続きます。


大道芸人 in アメリカ村三角公園
(「デジタルな鍛冶屋の写真歩記」より)
http://dejikaji.exblog.jp/2002778/

ギリヤーク尼ヶ崎★アメ村三角公園
(「ふわふわエッセイ&夢&現実日記」より)
http://blogs.yahoo.co.jp/yowamuni/3784245.html

大道芸人ギリヤーク尼ヶ崎 青空舞踊公演「祈りの踊り」
http://www.k2.dion.ne.jp/~visualiz/gilyaki_20050501/index.html
 昨年5月1日伊丹市中央三軒寺前広場での公演の画像です。


 ギリヤーク尼ヶ崎さんはどうシャッターを切っても絵になる、というコメントをネット上で見た記憶があるのですが、以上のブログやサイトの画像を見るとうなずけます。
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by manewyemong | 2006-05-03 19:16 | | Comments(0)
 神戸市立博物館で催されている特別展「江戸の誘惑」を見てきました。米国ボストン美術館に収蔵されている肉筆の浮世絵が展示されていました。

 明治時代に来日したウィリアム・ビゲロー医師が収集しボストン美術館に寄贈した、いわゆるビゲローコレクションからのチョイスです。世界初公開のものも多く、私は図録等ですら見たことが無いものばかりだったので、一つ一つを時間をかけて観賞しました。もちろん、

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 図録も購入しました。

 我々が知っている浮世絵、例えば当ブログの姫神せんせいしょんの「七時雨(ななしぐれ)」(アルバム「姫神」より)で触れた、葛飾北斎の「富嶽三十六景」の「駿洲江尻(すんしゅうえじり)」も版画です。版画は量産されますが、肉筆画はその絵1点だけです。版画とは違った、色彩の鮮やかさ、豊かさがあります。着物の紋様等の描き込みの緻密さは肉筆画ならではのものでした。

 ビゲローコレクションは、ボストン美術館で調査や展示をされること無く保管されていたものも多く、それが幸いしたのか比較的保存状態が良いのだそうです。

 絵画に関して、私は沢山の人が描き込まれたモブシーンの作品が好きなのですが、今回出展された作品には、人々の行楽の様子を描いたものや、遊郭の様子を描いたもの、歌舞伎の一場面を描いたものがありました。いずれも遠近を問わず個々の登場人物を豊かに描き込んでいて、歌や話し声、足音といった音が聞こえてきそうな作品ばかりでした。

 江戸時代のモブシーンの絵画はとにかく楽しげな趣きのものが多く、今回の作品も成熟した豊かさを謳歌していた江戸社会の空気が伝わって来るものばかりでした。昨年7月に亡くなった江戸風俗研究家の杉浦日向子さんは、今回の特別展をご覧になったらどんなエッセイを書かれるのかなと、詮無いことを思ってしまいました。

 鈴木春信の作品「隅田河畔春遊図」も展示されていました。説明を読むまでもなく、描かれた細身の女性達のポーズや顔つきを見ただけで春信の作だと分かりました。鈴木春信の肉筆画は世界に3点しか現存しないそうです。


肉筆浮世絵展「江戸の誘惑」
http://www.asahi.com/boston/

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by manewyemong | 2006-04-28 23:32 | | Comments(0)