カテゴリ:シンセサウンドメイクアップ( 16 )

 KORG 800DVは、国産アナログシンセサイザー黎明期のモデルです。mini KORG 700S、Roland SH-3と同じく、昭和49(1974)年の発売です。この年、冨田勲さんのアルバム「月の光」が、日本より先にアメリカで「SNOWFLAKES ARE DANCING(雪は踊っている)」としてリリースされました。

 mini KORG 700が2台搭載された形になっていて、システムシンセであれコンボタイプであれシンセサイザーのことごとくがモノフォニックだった時代に、画期的なデュオフォニック(2声)でした。

 キーアサイナーが無かった時代にどうやって2台のシンセサイザーエンジンを割り振ったかというと、1台は低音優先、もう1台は高音優先で、仮にドレミファと鍵盤を押すと、ドとファが発声しました。また、完全2系統のモノフォニックシンセにもなりました。

 mini KORG 700には無かったホワイト/ピンクのノイズジェネレーターがあります(ノイズの効用参照)。平成14(2002)年2月7日のNHK総合「人間ドキュメント・喜多郎~長良川を奏でる」で、喜多郎さんの「水に祈りて」という新曲とその制作風景が紹介されたのですが、その終盤、喜多郎さんが800DVのトラベラー(VCF)のスライダーを動かして、風の音を鳴らしている映像がありました。この時使ったのはホワイトノイズです。

 後で触れるのですが、ディレイタイムのかかるオートベンドがあります。長く演奏しているうちに800DVの温度が上がって来ると、ベンドのレンジが狭くなって来ます。電源を入れなおす事で改善する事もあるそうですが、アナログシンセの特性と一体化したアクシデントだと思います。

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 喜多郎さんのライブではmini KORG 700Sと並んで最も多く使われ、客席側から向かって正面の位置にセットされていました。

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 1980年代初頭の公演では予備機や「砂の神」(アルバム「敦煌」より)専用の1台がステージ上に直接置かれ、インドの撥弦楽器シタールの演奏後、胡座をかいた状態で弾かれていました。

 その「砂の神」をはじめ喜多郎さんのライブのほとんどの曲、また「永遠の路」(アルバム「絲綢之路」)「巡礼の旅」(アルバム「敦煌」)「まぼろし」「未来への讃歌」(「1000年女王」オリジナルサントラ盤)「ミステリアストライアングル」(アルバム「ANCIENT」)等で、「パァァァアー」というブラスなのかリード音なのか判然としない、しかし他のどのパートよりも威勢のいい音色が鳴っています。それが今回デジタルシンセで真似する喜多郎KORG 800DVブラストーンリードです。店頭で喜多郎mini KORG 700Sリードを作る方法(KORG M3の場合)を軸にして書いていきます。あくまでヒントにすぎません。

 まず店頭で喜多郎mini KORG 700Sリードを作る方法(KORG M3の場合)で、モノになっているボイスアサインモードをポリにし、オシレータモードをダブルにします。そしてオシレータコピーモードを使って、OSC1→OSC2を実行します。

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 オシレータ波形は二つとも鋸歯状波にします。そしてチューンを片方は+2か3、もう片方を-2か3当たりにします。二つのオシレータ間にディチューンをかけたわけです。

「パァァァアー」の「アー」の部分は、押鍵から時間が経ってからピッチが1オクターブ上へ上がる変化を表現しました。この800DVのディレイタイムがかかったオートベンドに関して結論から記すと、私が使っている1990年代のコルグのワークステーション機のピッチEGではだめです。ポルタメントやEG/ENVのカーブをつぶやくで触れたのですが、800DVのオートベンドには変化にムラというかクセがあって、EGが正確なリニア変化だと雰囲気が出ません。

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 したがってアナログシンセたるKORG 800DVがオートマチックで行っている事を、デジタルシンセでは手操作でやるのですが、ピッチベンドのアップ側、つまり右へ倒す側のレンジを+12、つまり1オクターブにしてください。演奏中、自分がかけたいと思う所でジョイスティックを右へ倒します。この倒し方に芸が必要です。漫然と倒すのではなく、奏者自身の趣向と800DVのクセを併せて表現してください。

 オートマチックと違い、奏者の任意の所でのみかかるというのは、ある意味強味ではないでしょうか。喜多郎さんのライブでは、時に800DVのオートベンドがかかりっぱなしになっていて、しつこく感じられる事がありました。またmini KORG 700/700S、800DVには、そもそも手操作でベンドやモジュレーションをかける為の、ジョイスティックやホイールといったコントローラーそのものがありません。

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 参考までに、800DVのこのディレイタイムのかかったオートベンドに関するピッチEGの考え方を書いておくと、スタートレベル及びアタックレベルを同じ値、0固定であるサスティンレベルの1オクターブ下に設定します。アタックタイムはオートベンドのディレイタイム、そしてディケイタイムは、ピッチが上がり始めてから1オクターブ上、つまりサスティンレベル(繰り返しますが0固定です)へ到達するまでの時間です。これらの実行過程が、リニア変化故に雰囲気が出ないわけです。

 フィルターは元ネタの店頭で喜多郎mini KORG 700Sリードを作る方法(KORG M3の場合)よりも開いて気に入ったポイントを見つけてください。

 意外な事に他機種のアナログシンセよりもデジタルシンセの方が、mini KORG 700や700S、800DVのトラベラーの雰囲気が出ます。アナログシンセしか持っていなかった頃、KORG Mono/PolyRoland SH-101では全くだめでしたが、後に買ってすぐのKORG M1で試した時、結構良くて本当に驚きました。

 ただ先日、KORG POLY-800を試奏したのですが、意外にいい線行っていました。しかしながら、その記事に書いたとおり、ジョイスティックのピッチベンドレンジが狭く、800DVのオートベンドのマニュアル操作は不可能でした。

 フィルターのEGは店頭で喜多郎mini KORG 700Sリードを作る方法(KORG M3の場合)から、減退音的に変える必要があります。またアタックタイムやアタックレベル、及びそれらとその後のパラメーター群との関係性に気を使って設定してください。今回この音色を“ブラストーンリード”とした理由は、この辺の喜多郎さんの800DVの音色の特徴に依ります。

 店頭の試奏では無理だと思うのですが、やはりフットボリュームの必要性を強く感じます。本チャンの音色設定のおりは、音量変化をアンプEGに丸投げするのではなく、フットボリューム使用を前提に考えていただきたいと思います。

 以上、本当に最低限のポイントのみ記しました。径時/周期変化、ベロシティ、コントローラー、内蔵エフェクト…デジタルシンセ故により作り込めるポイントは数多あります。これらを駆使して、最終的に自分の音色にしていただきたいと思います。

 最後に一つ私のこぼれ話を。昭和63(1988)年春にKORG M1を導入して以来、コルグのワークスステーション機のジョイスティックを使って、この喜多郎KORG 800DVブラストーンリードのディレイオートベンドをマニュアル操作で行っているのですが、M1使用当時から今日に至るまで、ジョイスティックを右へゆっくりと倒す操作をする時、なぜか上半身全体を右へ倒す癖が抜けません。

 平成12(2000)年夏、東京を引き払う際に全てのシンセサイザーを手放し、4年余を経て平成16年暮れ、KORG TRITON Le 61を購入してシンセサイザー趣味を再開しました。TRITON Le 61が届いた日、mini KORG 700Sリードや笛、さまざま(1)笛、さまざま(2)prophet-5ホルン等とともに、このKORG 800DVブラストーンリードを作ったのですが、4年半のブランクがあったにもかかわらず、音色を完成させてディレイオートベンドの混じったフレーズを弾いた時、体を右に傾けていました。


平成25(2013)年10月1日追記。

 KORG 800DVに関して、KORG 800DV試奏記をアップいたしました。


KORG 800DV
http://www.korg.co.jp/SoundMakeup/Museum/800DV/

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 「MYSTERIOUS ENCOUNTER」の効果音とは別に、喜多郎さんが同じくminimoogを使って出していたある効果音に関するつぶやきです。

喜多郎さんの「未来への讃歌」「夢追い」等のイントロで、ピッチが上がっていくサイン波にノイズが混ざっていく効果音はminimoog(ミニモーグ)でした。

この音が一つのシンセサイズで成り立っているのは聴感的に判っていたのですが、私のワークステーションではサイン波部とノイズ部を個別に作っていました。

minimoogはVCO3がLFOになります。そしてその信号とノイズジェネレータの割合をモジュレーションミックスつまみで設定できます。

VCO1/2は使わずレイトの遅い鋸歯状波(UP)をVCFを自己発信させたサイン波にかけ、モジュレーションミックスでノイズとの割合を設定するとあの音になりました。

うちのminimoogはRoland SYSTEM-700やMC-8のモジュールとして使用する為に改造されていて、もしホイールが効かないのが故障でなければ、その辺の事情が絡んでいるのかも…。


追記。

 喜多郎さんの「飛天」「陽(ひ)」「未来への讃歌」「夢追い」「神秘の水」等の曲の始端か終端、もしくはその両方で、何かが沸き立つようなイメージの効果音が鳴っています。これもmini KORG 700Sリードprophet-5ホルンRoland JUPITER-4フライングジュピター等と並ぶ喜多郎サウンドというべき音の一つです。

 ピッチがあがっていくサイン波にノイズが混じっていくというのが、この効果音の径時変化です。

 minimoogは専用のLFOは無いのですが、三つのVCOのうちVCO3がLFOにもなります。VCO1/2を使わず、VCO3でアップ型の鋸歯状波とフリケンシー(レイト)を設定し、VCFはアマウントオブカウンタ(EGデプス)を0にしてフィルターEGを無効化し、カットオフとエンファシス(レゾナンス)を上げてVCFを自己発声させ、VCA EGを持続型にします。モジュレーションミックスつまみでVCO3(LFO)とノイズの割合を決めて出来上がりです。

 ワークステーションでの再現方法は今のところ明かす気はありません。元ネタたるminimoogに比してはるかに様々な設定を施してこの音をシミュレーションしました。将来、気が向けばシンセ音色関連の記事にします。

 この音を今後minimoogが出すのかと問われれば、はっきり、否、です。音のデッサンのつもりでワークステーション機で作っているうちに完全に自分の音になってくれたからです。minimoogではできない様々な、そして微妙な表情を持たせる事ができます。
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 昭和58(1983)年10月9日、喜多郎さんは大阪城ホールの柿落とし公演を行ないました。これは同年8月19日名古屋城から始まった「KITARO SUMMER TOUR'83」の千秋楽です。

 私はこの公演の聴衆の一人だったのですが、終演後に買ったパンフレットに添えられた紙片を見て腑に落ちない事がありました。

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 その紙片には演奏者達の氏名や使用楽器、ツアーのレパートリーが記されていたのですが、その4曲目に「フライング・ジュピター/FLYING JUPITER」とありました。「フライングジュピター」という曲は、公演の内容を思い出しても心当たりがありませんでした。大阪城ホールでは披露されなかったのかもしれません。

 ちなみに紙片のレパートリーにあった「ANGEL QUEEN」(映画「1000年女王」主題歌シングル「星空のエンジェルクイーン」のB面)も、この公演では披露されませんでした。

 「フライングジュピター」は喜多郎さんの作品の中には見当たりませんし、その後の公演で披露されたとかレコード化されたとかいう事を仄聞する事もありませんでした。

 17年後、この「フライングジュピター」とは、喜多郎さんのいくつかの曲に収録されている「ポコポコ…」という効果音の事だと知りました。「フライングジュピター」が1楽曲としてどういう形で披露されたのか今となっては私には確かめようがないのですが、一つだけいえる事は、この「ポコポコ…」という音はRoland JUPITER-4で作られているという事です。


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 1980年代初頭の喜多郎さんのステージには、このJUPITER-4が予備用のmini KORG 700S800DVの横に置かれていました。

 当ブログではこの「ポコポコ…」というランダムトーンの事そのものを“フライングジュピター”と呼ばせていただきます。それにしてもJUPITER-4で作った音だから「フライングジュピター」なのでしょうか…。そういえばライブアルバム「喜多郎イン・パースン」には「九月十八日」という曲が入っています。昭和55年9月18日にできたからだそうです。

 Roland JUPITER-4は、国産のキーアサイナー方式のプログラマブルアナログポリフォニックシンセのはしりといえるモデルで、最大発声数4、オリジナル音色8種を記憶させる事ができるのと、それとは別にボタン一つで選択できるメーカープリセット音10種を備えていました。1声あたり1VCO+サブオシレータ(1オクターブ下の矩形波)、VCF/VCAに独立してENVを備えています。

 フライングジュピターにはアルペジエータが使われているのですが、JUPITER-4のアルペジエータは、かつて私が使っていたアナログシンセKORG Mono/PolyRoland SH-101のそれよりもより凝った事ができるようになっていて、モードそのものはアップ/ダウン/アップダウン及びランダムなのですが、アップ/ダウン/アップダウンの場合、アルペジオのパターンに押鍵した順番が反映されるようになっています。

 コルグのワークステーション機のアルペジエータの場合、ソートのチェックを外しておくと同様の効果が出せます。

 思いつくだけでも、「星雲」(アニメーション映画「1000女王」オリジナルサントラ盤)「朝もや」(アルバム「天竺」)のフライングジュピターのアルペジエータのモードはアップ。「砂漠の残照」(アルバム「天竺」)「地球創成」(アルバム「飛雲」)はアップダウン。そして「流」(アルバム「氣」)の終端や「THE FIELD」(アルバム「THE LIGHT OF THE SPIRIT」)はランダムだと思います。

 またNHK特集「シルクロード」第2部では、沙漠(さばく)の陽炎(かげろう)や蜃気楼の映像のバックに、ランダムモードのフライングジュピターのみが鳴っていた記憶があります。

 今回は「THE FIELD」を参考にしました。私が所有するKORG TRITON Le 61及びMS2000Bのどちらでも実に上手く再現する事ができました。シンセ音色関連の記事の内、「東日流笛」の東日流笛 YAMAHA VL1以外のこれまでの全音色同様、今日この音色を出すにあたって実機を用意する事の意義は微塵もありません。

 先にアルペジエータの設定から行ないます。私はアルペジエータを実行させながら音を作りました。

 アルペジオパターンはランダム。テンポは106。オクターブは3。レゾリューションは16分音符(符尾が2本の記号)を選んでください。ラッチをオン。

 そして鍵盤「ソシミ」を押してください。ラッチをオンにしているので押さえ続ける必要はありません。

 次にシンセサイザー部分の設定について記します。ごく短い減退音であり、設定は容易です。

 発声はモノフォニック。オシレータは一つでいいのでシングルモード。オクターブは8’にしました。

 オシレータ波形に関して、実機の場合VCOの矩形波をこもらせたのかVCFを発振させたのか(JUPITER-4は発振しないかもしれません)判らないのですが、デジタルシンセでの音作りではサイン波が適当です。私はTRITON Leでこの音を作るにあたってSine-JPを使いました。JUPITER-4のVCOにはサイン波は無いのですが、JUPITER-8のVCO2にはあります。Sine-JPはあるいはそのサイン波をDWGSで模した波形なのかもしれません。ビブラートやピッチEGは使わないようにしてください。

 フィルターの設定はカットオフをこもり気味にしてください。フライングジュピターは曲中の後ろの端の方で鳴っている事が多いパートです。レゾナンスは0。ベロシティやEGもかからないようにしてください。モジュレーションをかける必要もありません。

 アンプ部もベロシティがかからないようにしてください。EGはアタックレベルを最大値、他の全てのレベルを0、アタックタイムも0にしてください。フライングジュピターに関して、アルペジエータのゲートタイムとEGのディケイタイム、リリースタイムには相関関係があり、仕上がりを決定づける重要な要素です。どう設定するかをあえて記しません。ご自分で考えてみてください。

 ディレイやリバーブもお忘れなく。ちなみに私はTRITON Leの内蔵エフェクト、アーリーリフレクションとスムースホールを使いました。

 私は出来上がったこのフライングジュピターを、小音量でですが部屋の中で流しっぱなしにしている事がよくあります。至極簡単にできる音なのですが、この音色単体で何だか環境音楽になっているような気がします。


平成24(2012)年4月17日追記。

 TRITONシリーズの場合、アルペジエータ実行中に音色をエディットすると、アルペジオが狂い出す事があります。TRITON Le、TRITON STUDIO 61で現象を確認しました。

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 せんせいしょんのアルバム「桃源郷」(アルバム「桃源郷」123参照)に収録されている「みみずく」の裏メロ及び「ウスユキ草」「夏まつり」のメロディで使われている、「ウー」「ゥワー」と聴こえる女声ハミングかテルミンのようなリード音について記します。言うまでもないことですが、この音色がここで記す方法で実際に作られたか否かはわかりません。あくまで私のやり方です。

 アルバム「北天幻想」の口笛をエディットする形で話を進めていきたいと思います。

 「北天幻想」の口笛では特にポリフォニック/モノフォニックについて記しませんでしたが、今回の「ウスユキ草」等のリード音はモノフォニックで、なおかつレガートの時にリトリガーがかからないように設定します。例えばコルグのワークステーション機の場合、ボイスアサインモードをモノにし、レガートプライオリティ・ラストにチェックを入れます。

 「北天幻想」の口笛と違い、「ウスユキ草」等のリード音にはピッチEGによるオートベンドはありません。EGデプスをゼロにするなどしてピッチにEGがかからないようにしてください。

 「北天幻想」の口笛はオシレータを一つしか使いませんでしたが、「ウスユキ草」等のリード音は二つ使います。コルグのワークステーション機の場合はダブルモードに、そしてローランドはトーンを二つ、ヤマハはエレメントを二つ使います。理由は1オクターブインターバルの空いた二つのサイン波を使うからです。

 1オクターブインターバルの空いた二つのサイン波の音量バランスは、今回採り上げている「ウスユキ草」等のリード音の印象を決定づける重要な要素です。低い方のオシレータの音量を規準にして、1オクターブ上のオシレータの音量のブレンド具合を調整して好みのポイントを見つけてください。ワークステーション機を使う場合、オシレータからフィルター、アンプ、EG、LFO等を二つ設定することになりますが、フィルターとアンプ部のキーボードトラック(キーボードフォロー)を一考して、二つの音源の音量バランスが鍵盤の位置によって微妙に変わるように設定するのもいいかもしれません。私はそうしました。

 ポルタメントはレガートの時のみかかるように設定してください。もちろんフットスイッチを使ってオン/オフする方法も使えますが、今回の「ウスユキ草」等のリード音は、スタッカート/レガートによるリトリガーする/しないがタイトに弾き分けられていて、そのことがフレーズ演奏にマニュアル感を与えています。どうせスタッカート/レガートを弾き分けるからついでにポルタメントも、と思います。また今回の音色の場合、私はタイム設定よりもレイト設定の方が好みです。

 ビブラートはディレイタイムはもちろん、フェイドインタイムも丁寧に設定して、唐突感が出ないようにします。デプスに関してもくどくならないように設定すべきでしょう。

 ベロシティはフィルターの開きや音量だけでなく、EGの各タイム/レベルのコントロールにも使うと、より「ウー」「ゥワー」という女声ハミングっぽい歌唱感?が出ます。特に「ウスユキ草」でのこの音のパートは、曲の進行に沿って緩急が変化していくのですが、ベロシティによる音色のコントロールは効果的だと思います。ただ、これも増長して大仰にやりすぎると、くどくなってしまいます。

 アルバム「桃源郷」のレコーディングでシンセサイザー/ドラム佐藤将展さんがお使いか否かはわかりませんが、私はこの音色の音量コントロールに関してフットボリュームを使いたいと思います。

 現行機のプリセット音の中には、少しエディットすると今回採り上げた「ウスユキ草」等のリード音に似て来るものがあります。アナログモデリングシンセKORG R3(KORG R3 THE NAMM SHOW 2007KORG R3試奏記12参照)のカテゴリー“VINTAGE LEAD”の3番“700sLead”、ワークステーション機Roland Fantom G(Roland Fantom G試奏記参照)のカテゴリー“Soft Lead”内にある“996 Sinetific”がそれです。SinetificはFantom Gの前モデルFantom Xにも入っていました。

 これらのリード系プリセット音は、オシレータ波形がサイン波であることと1オクターブ差異のある二つのオシレータを使っていることが、いずれも今回採り上げたリード音と共通していて、何より聴感的に似ています。

 まずKORG R3の700sLeadはポルタメントがかかりっぱなしになっているので、レガートの時のみかかるように変えます。またオシレータ1とオシレータ2(1オクターブ上)の音量バランスをミキサー部で変えます。オシレータ1は最大値になっていますので、それはそのままにオシレータ2の音量を変えてください。

 発声はモノフォニックでなおかつレガートの時リトリガーしないように既になっているはずです。

 ビブラートは、モジュレーションホイールによるマニュアル操作を前提にした設定になっていますが、これもコルグのアナログモデリングシンセの特長の一つであるモッドシーケンス機能を使って、ディレイフェイドインビブラートをシンセにまかせてしまうのもいいかもしれません。

 Fantom GのSinetificはTMTページのベロシティレンジロワーが、トーン1は1、トーン2(1オクターブ上)は100いくつかになっていますが、これを1にそろえてください。そしてTVAのトーンレベルで音量バランスを変えます。たしかトーン1側が最大値になっていたはずです。トーン2の方のレベルを変えて今回のリード音に近い値を見つけてください。

 発声はモノフォニックにはなっているのですが、レガートの時、たしかリトリガーしないようにはなっていなかったと思います。またポルタメントもかかりっぱなしの状態のはずです。Solo/Portaページで変えてみてください。ポルタメントはタイム設定になっていますが、先に記したとおり私はレイトにして使うと思います。

 ビブラートは700sLead同様Sinetificも、ベンダーレバーの操作を前提にした設定になっているのですが、これも0になっているLFOのディレイタイムやフェイドタイム、ピッチのデプス等に数値を入れてシンセ側からビブラートをかけさせるのもいいかもしれません。アフタータッチはピッチベンドが設定されているのですが、これをビブラートに変えて使うという手段もあります。これらの方法でビブラートをかけることで、余った手が別のことに使えます。

 「ウスユキ草」でも書きましたが、今回作ってみた音はシンセサイザー黎明期から1980年代初頭にかけて、様々なジャンルの音楽で耳にしました。今日でも唄入りの曲のイントロや間奏で聴くことがあります。

 昭和57(1982)年夏に公開された富野喜幸監督のアニメーション映画「イデオン<発動編>」は映像もストーリーもあまりにも衝撃的だったのですが、すぎやまこういちさんによるオーケストラや混成四部合唱、そしてシンセを使った音楽も壮大なものでした。この映画は最後に全ての登場人物が死に絶え、殺し合って死滅した二つの星の全人類の魂がある星の海に降り注いで終わるのですが、主人公の魂が目覚めるシーン等で、オーケストラと「ンーンーンンー…」という男声ハミングに乗る形で、ポルタメントはかかっていないものの今回作った音と似たシンセ音が、哀調を帯びたメロディを奏でました。LPレコードしか持っていないので記憶が曖昧なのですけど…。

 また冨田勲さんが編曲演奏した、クロード・ドビュッシー作曲「亜麻色の髪の乙女」(アルバム「月の光」より)、ホアキン・ロドリーゴ作曲「アランフェス協奏曲」第2楽章(アルバム「宇宙幻想」)、ヨハン・セバスチャン・バッハ作曲「アヴェ・マリア」(アルバム「バッハ・ファンタジー」)等のメロディ音が、今回作ってみた「ウスユキ草」等のリード音と少し似ていますが、システムシンセサイザーmoog III p(モーグ・スリー・ポータブル) を使った冨田さんのそれは、流石に音変化がより複雑です。

 アルバム「バッハ・ファンタジー」の冨田さん自身によるライナーノーツには、
この乙女のハミングはちょっとむずかしいぞ。でも、やり方は教えない。工夫しなさい。(平成8年からみて)22年前のシンセでもできたんだから。それからすると、今のシンセは何百倍も便利になっている筈ですぞ。
と書いてありました。挑戦してみてはいかがでしょうか。ヒントはグライド(ポルタメント)です。
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 店頭で喜多郎mini KORG 700Sリードを作る方法(M3の場合)に続いて、Roland SH-201による方法を記します。もちろん、完全なものではない事や、各店頭展示機の設置環境の違い、試奏する人の奏法の違いによる出音の差異等を考慮していただく事も前回記事に同じです。前回同様、予め喜多郎mini KORG 700Sリード及び、Roland SH-201試奏記をお読みいただきたいと思います。

 ローランドのアナログモデリングシンセサイザーSH-201のプリセットバンクAの2番は、取扱説明書によるとFat Saw Leadとなっています。もちろんSH-201にはLCDやLEDによる表示機能は無いので、その名称はパソコンのエディタ上でしか視認できません。私はこれを使って即席の喜多郎mini KORG 700Sリードを店頭で作りました。

 mini KORG 700Sは喜多郎さんだけでなく、シンセサイザー黎明期のキーボーディスト達に多用されたのですが、このFat Saw Leadはそういった人達がmini KORG 700Sで出していた音に似ています。

 和製キース・エマーソン?の難波弘之(なんば・ひろゆき)さんが、昭和60(1985)年に出したアルバム「ブルジョワジーの密かな愉しみ」のタイトル曲の間奏部分のリード音はmini KORG 700Sを使っているのですが、たしか音がFat Saw Leadに似ていたような気がします。ちなみにアルバム「ブルジョワジーの密かな愉しみ」に添付されたリーフレットには、各曲にどんなシンセを使ったかが記されていました。キーボードマガジン誌読者向けだそうです。

 本題に入ります。Fat Saw Leadを呼び出したら、まずMIX/MODのバランスつまみをオシレータ1側、つまり左いっぱいに振り切らせてください。オシレータは一つしか使わないからです。

 そしてアンプのオーバードライブをオフ(ランプを消灯させる)にしてください。不必要です。フィルターのレゾナンスもMIN方向へ振り切って0にしてください。

 オートベンドが邪魔だと感じるのであれば、ピッチENVのデプスをセンター位置、つまり0にします。そして一旦ポルタメントをオフにしてください。これらを最初に済ませておいた方が後述するパルス幅やカットオフの設定が容易です。

 オシレータ1の波形をパルス波にし、ピッチを右に振り切って1オクターブ上げます。ディチューンはセンター位置にします。

 そして次が最も重要なパルス波の幅の設定です。PW/FEEDBACKの位置をセンターから左へ2目盛り分くらい動かします。音を聴きながら慎重に動かしてください。喜多郎mini KORG 700Sリードとぴったり来るポイントが見つかると思います。ここまでで既にけっこう似てきたのではないでしょうか。参考までにRoland V-Synthシリーズのアナログモデリング部のパルスウィズの場合、-21で最も似ます。

 カットオフは耳で確認しながら好みのポイントを見つけてください。

 Fat Saw LeadのENVはおそらくフィルター/アンプとも、サスティンレベルを最大値にした形になっていると思います。アタックタイムやリリースタイムを調整してみてください。

 先程ピッチENVのデプスを0設定してオートベンドを切っておく所作を記しましたが、実はFat Saw Leadのオートベンドは、それ自体が喜多郎mini KORG 700Sリードのオートベンドと結構似ています。先程0にしたデプスをマイナス方向へ動かしただけでも復元できるのですが、SH-201はピッチENVが簡素なので、アタックタイムを0、ディケイタイムを低めに、そしてデプスをマイナス方向へ動かしただけで、一からあのオートベンドを作る事ができます。

 ビブラートはLFOのディスティネーションで設定するのですが、SH-201に関してこれがくせ者で、効果がかかっていない状態からかかり始めた時のデプスが深過ぎるのです。どうも微妙な設定がしづらい。パソコンのエディタを使うとまた別なのかもしれませんが、私にとってSH-201の受け入れ難い部分です。フェイドインタイムは設定(LFOボタンを押しながらRATEつまみを回すという想像を絶する方法)できてもディレイタイムに関するパラメーターは無いので、ベンダーレバーを使って手操作でかけてください(これも効果がきついんですけど…)。

 ポルタメントはポルタメントボタンを押しながら、音色番号の1〜8を選ぶとレイトが設定できます。SOLO-LEGATO/SOLOを点灯させるとレガートの時だけポルタメントがかかるようにできます。

 SH-201の内蔵エフェクターには、ディレイとリバーブがあります。パラメーターが簡素なので容易に設定できると思います。

 以上、KORG M3及びRoland SH-201で店頭で喜多郎mini KORG 700Sリードを作る方法を紹介しました。


 「あのシンセサイザー奏者が出しているあのシンセサイザー音はあのシンセサイザーで出してんのか!いっちょあのシンセサイザー買いにいくか!」


と思慮や試行を放棄して実機やレアモデルを買いに走るよりも、今手許にある、あるいは手に入りやすいデジタルシンセサイザーで迫れるだけ迫ってみて、自分が作った音と目標とする音のギャップを分析しながら音を作り進めてみてはいかがでしょうか。

 私の場合、仮に“あの音”に完全到達できなくても、いつの間にか自分の音になっている事がままありました。これはデジタルシンセが、数多の、そして変化の精度が細かいパラメーター群を有しているからだと思います。今回自分の手の内をほんのひとつまみ明かしたのは、そういった事をこのブログを見てくださっている皆さんに、実感していただきたかったからです。

 個々のシンセサイザーの使われ方が、屈折した執着を含まない形で、もっと濃厚になればと思います。道具として割り切られた上で、使いこなされ、使い尽くされ、使い古されるものであってほしいと思います。

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 KORG M3のプリセット音Espress Leadをほんの少しいじる方法を記します。もちろん完全なものではありませんし、各店頭展示機の設置環境の違いや試奏する人の奏法の違いによる、出音の差異等を考慮してください。それと予め喜多郎mini KORG 700Sリードをご覧いただきたいと思います。

 Espress LeadはM3以外に、KORG TRINITY/TRITONシリーズ、KARMAOASYSTRM50KRONOSに入っています。

 M3の場合バンクCの061です。他のコルグのワークステーション機を使う場合、カテゴリーLeadSynthの中から探してください。

 まずBasic/DT/CtrlsのProgram Basicでオシレータモードをシングルにします。喜多郎mini KORG 700SリードはVCOを一つしか使っていません。Voice Assign Modeはモノのままで、スタッカート/レガートのタイトな弾き分けに自信が無い場合、レガートのチェックを外してください。Controllers SetupのSW2をSW2 MODに変えます。これはジョイスティックのそばのアサイナブルボタン2で、後で設定するオートベンド(ピッチEG)のオンオフを切り替える為です。

 OSC/PitchのOSC1 Basicで波形を0646 Pulse-33%に変えてください。M3以外のコルグのワークステーション機の場合はカテゴリーSingle Wave内を探してください。この波形選択が最大のミソです。オクターブを+1[4']にし、Tuneを-0002から0000にしてください。これはEspress Leadが本来デュアルモードでOSC1が-0002、OSC2が+0002とディチューンがかかっていた名残です。

 OSC1 PitchのPitch EGのIntensity(かかり具合)を0、オルタネートモジュレーションソースをSW2、オルタネートモジュレーション側のIntensityを+8.40にします。これもオートベンドのオンオフをSW2で行う為の設定です。LFO1 Int(ビブラートの深さ)を+00.33あたりにします。ポルタメントを使う場合、SW1にポルタメントのオンオフがアサインされていますからオンにしてタイムを調整してみてください。ポルタメントモードはレイトになっていますがこれはそのままにしてください。ピッチEGはスタートレベルを-49、アタックタイムを23にしてその他の要素を全部0にしてください。

 Filter1をSingle、フリケンシーを26あたり、レゾナンスを0にし、フィルターEGのアタックタイムを14、リリースを7あたりにしてください。EGに関してアンプ部でも同じ設定変更で結構です。

 Amp1/Driver1は、ドライブ及びローブーストを0にしてください。それとたしかパンポットが右寄りの状態(Rxx)になっています。これもEspress LeadがデュアルモードでOSC1が右寄り、OSC2が左寄りに振られていた名残です。64を入れるとステレオ音場の中央に来ます(C064)。

 OSC1 LFO1は、フェイドタイムを10、ディレイタイムを14あたりにします。

 インサーションエフェクトは邪魔なので全て外してください。Insert FX Setupのオンになっている所を指で触れるとオフに変わります。マスターエフェクト2はスムースホールというリバーブになっているはずですが、これのWet/Dryでエフェクト音と原音のバランスを変えてみてください。

 以上程度のエディットでも出音に関して、喜多郎さんのmini KORG 700Sによるリード音のシミュレーションの目処が立ったように思えるのですがどうでしょうか。もちろんオルタネートモジュレーション等コルグのワークステーション機の仕様を活かして、最終的には自分の音に作り込んでいく事を期待しています。私のKORG TRITON Le 61の各パラメーターは、この記事で挙げたものとはかなり違ったものになっています。プリセット音のエディットではなく、各所にオルタネートモジュレーションを駆使したり、自分の手指に合うように一から設定した結果です。

 店頭で喜多郎mini KORG 700Sリードを作る方法(Roland SH-201の場合)に続きます。
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 喜多郎さんのアルバム「THE LIGHT OF THE SPIRIT」の1曲目「MYSTERIOUS ENCOUNTER」は、「コン!」という減退系の効果音の繰り返しで始まります。戦争映画に出て来る海中を航行する潜水艦のソナーのイメージ音のようなこの音は、アナログシンセサイザー黎明期の名機、minimoog(ミニモーグ)で作ったものです。

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 minimoogのVCOに、三角波か鋸歯状波にもう一つ折れ目を加えたような波形があります。これをランプ(ramp:傾斜)波というのですが、「MYSTERIOUS ENCOUNTER」の効果音はこのランプ波を使って作られています。minimoogの三つあるVCOのうち1と2に装備されています。

 国産のコンボタイプのアナログシンセにこの波形を備えたモデルを知らないのですが、デジタルシンセの多くはオシレータにこの波形を備えています。例えばKORG TRITONシリーズ、KARMAOASYSTRM3M50にはRamp、Ramp-mMGの二つが備わっています。倍音加算合成方式で作った波形をオシレータに焼き込んだDWGS波形と思われます。私は前者のRampの方を使って作りました。またRoland V-Synthシリーズのアナログモデリング部のオシレータ波形にもランプ波があります。

 「MYSTERIOUS ENCOUNTER」の効果音のポイントは、ディケイタイムが短くサスティンレベルが0、そしてエフェクターのディレイを使うことです。

 EGの設定は至極容易ですが、ベロシティでフィルターの開き具合や音量をコントロールすると、「MYSTERIOUS ENCOUNTER」冒頭でのクレシェンドの感じを指で表現できると思います。もちろん実際のminimoogの鍵盤にはベロシティはなく、「MYSTERIOUS ENCOUNTER」の録音ではミキシングコンソールでの音量コントロールが為されたはずです。

 エフェクターのディレイに関して、ただ漫然とかけるのではなく、フィードバック数とディレイタイムの設定を丁寧に行ってください。それらが「MYSTERIOUS ENCOUNTER」の曲想と直に関わっているからです。

 姫神のアルバム「SEED」の序曲にも似た音が使われています。これはKORG 01/W pro X(姫神の田瀬湖畔スタジオのMIDIマスターキーボードです)のプリセット音ですが、ベロシティでフィルターの開き具合や音量だけでなく、内蔵エフェクトのディレイのディレイタイムもコントロールしています。この音はアルバム「縄文海流-風の縄文III-」の「森の語り」でも使われているのですが、こちらはベロシティをディレイタイムのコントロールには使っていません。


KORG 01/W
http://www.korg.co.jp/SoundMakeup/Museum/01W/

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 笛、さまざま(1)では姫神の笛の独奏音について記述したのですが、今回はアンサンブル感のある笛について述べたいと思います。

 「舞鳥」「月のほのほ」「鳥のごとく」「遠い日、風はあおあお」「桐の花むらさきに燃え」「青天」「光の日々」「まほろば」「砂の鏡」「綿津見に寄せて」「夕凪の譜」…。今思いつくまま挙げたこれらの曲中で、笛1本を「ポー…」と鳴らしたのとも、複数本の笛を同時に鳴らしたのとも違う、しかし、アンサンブル感のある笛の音が聴こえます。この音を担ったのが、アナログプログラマブルポリフォニックシンセサイザーKORG Polysixです。

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 KORG Polysixは昭和56(1981)年に発売され、ベストセラーになりました。メーカー希望価格は24万8千円。それまで高価だったプログラマブル(作った音を記憶させる)シンセを、一気にアマチュアに近付けてくれました。他社の高級機以上に音に広がりがあり、それでいて機能はシンプルなので、入門機としても適していました。

 24万円前後でプログラマブル61鍵という構成は、その後、Roland JUNO-60、そしてあのYAMAHA DX7へと続きます。近年まで61鍵タイプのシンセの各メーカーのフラグシップ機はだいたいこの価格帯だったのですが、その伝統?を作ったのはKORG Polysixです。昭和56年当時中学2年生だった私も、よく楽器店でさわったものです。

 姫神・星吉昭さんはこのPolysixをたいそう気に入られたようで、昭和57(1982)年12月に銀座ヤマハホールで開かれた姫神せんせいしょんのコンサートでは、このシンセが星さんが立つキーボードブースの中央に置かれていました。

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 また、かつてコルグが発行していたサウンドメイクアップ昭和58(1983)年2月号の「ワンページデスマッチ」のコーナー(アルバム「天∴日高見乃國」1参照)で、星さんはPolysixに関する雑感を、

思わずため息が出てきた、とにかく手に入れて良かったと思っているシンセの一つ

と記されています。

 「ワンページデスマッチ」では、星さんの手によるPolysixのセッティングチャートまで公開されていて、アンサンブル感のある笛のセッティングもあります。そのセッティングチャートから読み取れる星さんの意図を分析し、デジタル機に応用していく形で記述を進めていきます。

 この音は聴感上は矩形波なのですが、設定上VCOの波形はPWM(パルス波の幅を変調する)になっています。パルス波の幅を不完全な矩形波にするため、中間位置よりやや右にPW/PWMつまみを設定しています。これはVCOでコーラス効果のかかった矩形波を作ることを企図していると思われます。通常PWMはLFO(周期変調)かVCF EG(時間変調)が変調のソースになるのですが、PolysixはVCOにPWM SPEEDという独立した機能があり、パルス波の変調のレイトはここで設定します。LFOとはちがうレイトが設定できるわけです。PolysixはEGによるPWMはできません。

 アンサンブル感のある笛を最終的に特長づけているのは、Polysixの内蔵エフェクターの一つ、その名も“アンサンブル(ENSEMBLE)”です。アンサンブルはKORG PS3000シリーズやPEシリーズに搭載されて好評を博しました。当時、単体での発売を切望されたエフェクターです。私も昭和58(1983)年に買ったKORG Mono/Polyのユーザーカードにそう書きました。

 VCOが1声あたり一つしかない(1ないし2オクターブ下の音を加えるサブ・オシレータはある)Polysixは、複数のVCOのピッチをディチューン(音程をずらす)してアンサンブル感を出すことはできません。Polysixの内蔵エフェクターのコーラスやアンサンブルは、そういう点をフォローする上で効果がありました。

 VCO上で作られたコーラス効果のかかった矩形波とアンサンブルエフェクト、これが、単に笛が「ポー…」となっているのとは違う、姫神せんせいしょん時代の不思議な笛の音のポイントです。

 星さんはこの音を、

何か遠い日の思い、あるいは、海辺での、昔の人々の事を想うと、こういう音色になる

と記されています。

 デジタルシンセでシミュレーションするにあたって、音源部分の設定そのものは笛、さまざま(1)で述べたことを参考にしていただければいいと思います。ワークステーションタイプのデジタルシンセでオシレータでコーラス効果のかかった矩形波そのものを作るのは無理ですが、二つのオシレータを微妙にディチューンすることで、似た雰囲気は出ます。コルグのデジタルシンセは、M1以降、WAVESTATION等若干の例外を除いて、必ず内蔵のマルチエフェクターの中にアンサンブルがあります。パラメーターの少ないエフェクターなので容易に設定できます。ローランドやヤマハのシンセにも、恐らく名称は違えども同じ機能のエフェクターはあるはずです。

 星さんがRoland D-50を使い始めて以降、アンサンブル感のある笛はD-50が担当しているようです。たしかD-50のプリセットの中にそのものズバリの音色があったはずです。エディットを加えてお使いだと思います。こちらはアンサンブル感を内蔵エフェクトではなくディチューンで出しています。

 コルグでいうプログラムを、ローランドではパッチ、ヤマハではボイスと呼んでいるのですが、それらはさらに前者は四つのトーン、後者は四つのエレメントに別れます。この四つを微妙にディチューンすると、複数の楽器が鳴っているように聴こえます。トーン/エレメントはいわば1台のシンセなので、音程だけでなく、フィルター、EG、LFO等の設定を一考して、トーン/エレメントを各々違ったものにすると、複数の楽器のキャラクターや演奏者のパーソナリティの違いを擬似的に出せると思います。

 「空の遠くの白い火」には、アンサンブル感ではなく、文字どおり笛のアンサンブルが登場します。もちろん、アンサンブルに見合う数だけシンセと演奏者を用意して1発録りしたのではなく、星さんが同じパートを複数回演奏して多重録音したものです。当時、リアルタイム入力できるシーケンサ−は存在しなかったので、当然全ての回を手弾きしたわけですが、人間の手は寸分違わない演奏は2度とできないので、アンサンブルを構成する個々の笛のパーソナリティが違う訳です。これが、擬似ではないアンサンブル感をかもし出しています。

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 私は姫神の笛風電子音に関して、アナログ時代の方が好きです。今回取りあげたアンサンブル感のある笛に関しても、複数のオシレータのピッチをディチューンして作った音より、PolysixのVCO上で作られたコーラス効果のかかった矩形波とENSEMBLEエフェクトを駆使した音の方が、聴感的に心地よく、かつ個性を感じます。1声あたり1VCOしかないPolysixにアンサンブル感を与える為に星さんが為した工夫は、オリジナリティあふれる姫神せんせいしょんだけのサウンドを聴かせてくれています。

 KORG OASYS EXi LAC-1 PolysixEX試奏記でもKORG Polysixについて触れています。


KORG Polysix
http://www.korg.co.jp/SoundMakeup/Museum/Polysix/

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 「峠」(アルバム「遠野」より)でも記しましたが、「奥の細道」後半の裏メロや「岩清水」の間奏、「やませ」のリフ等、初期の姫神せんせいしょんの作品の中に、トラベルソ(ルネサンスフルート)か尺八を模したようなシンセ音があります。最も前面に出ているのが「峠」でのメロディと思われます。

 参考までにトラベルソについて記しておくと、音孔をふさぐ行為に関して、現代のフルートのようにカバード・キイではなく、尺八などと同じく直接指を使います。フルートより音程がせまく、調を変えることができない、音程を正確に取るのが難しいといった面はあるのですが、逆に尺八のようなあいまいな音程を取りやすい、音が柔らかいといった優れた点があります。

 カテリーナ古楽合奏団のアルバム「ドゥクチア」(クルムホルンレコード)の「トリスターナ」(作者不詳、14世紀イタリア)という曲で、このトラベルソがメロディをとっているのですが、演奏者が日本人であるという理由もあるかもしれませんが、私にはその音が日本的に感じられました。

 デジタルシンセの無かった姫神せんせいしょん時代、姫神・星吉昭さんはおそらくローランドのアナログシンセJUPITER-4でこの音を作っていたと思われます。同機に触れた機会にこの音を真似てみたところ、よく似た音になりました。デジタルシンセYAMAHA DX7、Roland D-50導入以降は、この種の音はそれらで出すようになりました。「陽(ひ)」「うら青く波涛は澄み」「海の子守歌」等のフルートは、D-50と思われます。

 PCM音源のシンセにはたとえ廉価機であってもオシレータにフルートの波形がありプリセット音が入っていますが、今回はあえて姫神せんせいしょんが用いたであろう方法に依りたいと思います。笛、さまざま(1)で作った笛の音色をエディットしていく形で記していきます。

 まずオシレータ波形を鋸歯状波(きょしじょうは:saw)にします。そしてフィルターの設定をしていきます。カットオフおよびフィルターEG、ベロシティまわりの設定は特に丁寧に緻密に行ってください。カットオフが開き過ぎているとフルートではなくブラスのようになってしまいますし、閉じすぎると音がこもってしまいます。もっとも初期の姫神せんせいしょんにはブラスなのかフルートなのか判然としない音(「行秋」「水光る」等)も存在しています。

 そして、フィルターに対してモジュレーションをかけます。フルートの音をよく聞くと「フーフフフフフ…」と聴こえますが、その「フフフ…」の部分のシミュレーションです。これを“グロウル効果”といいます。これもデプスはもちろんLFOの早さやディレイ/フェイドインタイムを緻密に設定してください。

 PCM音源のシンセの中には、サンプリングの段階でフルート奏者にグロウル効果を強調させたものを収録したオシレータ波形を持つものがありますが、この波形で作った音にフィルターでグロウル効果をかけると、音がいびつに感じられることがあります。シンセサイザー奏者側の、このタイミングでグロウル効果をかけたい、という意図が拒絶されてしまうわけで、オシレータ波形のリアルさのみを追求するメーカーの考えはいかがなものかと思います。ちなみに私は鋸歯状波、フルート波形を使い分けて、いくつかのフルートの音色を作っています。

 笛、さまざま(1)同様、ピッチベンドとフットボリュームの操作は、この音色に生命感を与えるポイントです。この音をフルートではなくトラベルソや尺八に聴かせる為に、常に左手指はジョイスティック(コルグ)、ベンダーレバー(ローランド)、ホイール(ヤマハその他)といったコントローラーにかけておいて、ピッチのコントロールをまめに行ってください。


カテリーナ古楽合奏団(ロバハウス)
http://www.roba-house.com/

楽器の部屋
http://www.roba-house.com/inst.html
「フルート系の楽器たち」の中にトラベルソの画像(不鮮明ですけど)と解説があります。
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 喜多郎さんの「プロメシュームの想い」「未来への讃歌」(「1000女王」オリジナルサントラ盤より)「母なる大河」「グレートピラミッド」(「ANCIENT」)「旅路」(「An Ancient Journey」)等、極めて多くの曲で艶やかなリード音がメロディを奏でています。

 時に優しく、時に物悲しく、あるいは侘しくも聴こえるこのサウンドを鳴らしているのは、コルグのアナログモノフォニックシンセサイザーmini KORG 700Sという機種です。

 mini KORG 700Sは、国産初の量産型シンセサイザーmini KORG 700にVCOを増装して2VCOにし、リングモジュレータを加えたモデルです。主に輸出目的で製造されたようです。

 喜多郎さんのリード音はVCOを一つしか使わず、またリングモジュレータも使っていないので、mini KORG 700でも同じ音が出ます。

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 喜多郎さんが今日まで使っている理由なのかもしれませんが、このシンセの聴感上の特徴は、アナログシンセとは思えないほど音像がはっきりしていて、なおかつ低雑音であるという事です。

 一昨年の10月、mini KORG 700の実機を触らせていただく機会を得ましたが、何だか古色蒼然としたこのシンセから、むしろある意味デジタル的な音が出てくる事に驚かされました。実際1970年代後期から1980年代初頭のアナログシンセ終焉期の機種(各部位にローコスト指向が働いている?)よりも、現在のデジタルシンセサイザーの方がはるかに上手く真似できます。

 以下、デジタルシンセで再現するヒントを列挙していきます。

 喜多郎さんのmini KORG 700Sのリード音は、オシレータ波形を三角波にしているのですが、mini KORG 700及び700Sはこの三角波がかなりゆがんでいて、聴感上全く三角波には聴こえません。この事がこのシンセの出音の個性の一つにもなっています。オシレータ波形としては三角波となっていますが、聴感的にはパルス波と思われます。

 オシレータ波形に関してコルグのTRINITY(KORG TRINITY plus試奏記1KORG TRINITY plus試奏記2参照)/TRITONシリーズやKARMAOASYSTRM3M50の場合Pulse-33%が使えます。また、コルグのWAVESTATIONシリーズにも名称は違いますが同じ波形が入っています。Pulse-33%はサンプリングではなく、倍音加算合成方式で作ったものをオシレータへ焼き込んだDWGS波形と思われます。

 また、Roland Fantom XFantom GJUNO-GJUNO-STAGEのオシレータには、その名もズバリ700 triangleという波形が入っています。これはmini KORG 700をサンプリングしたものと思われます。

 アナログモデリングシンセでもパルス波でシミュレーションできます。 KORG MS2000シリーズmicro KORGRADIASR3microKORG XLの場合、オシレータ1のみを使い、コントロール1(ここでパルス波の幅を設定する)を42にし、コントロール2(ここで波形をLFO変調する)を0にします。

 Roland V-Synth及びXT、GTのアナログモデリング部は、パルス波の幅の設定に関するパラメーターが実に豊富です。パルスウィズを-21、パルス幅の周期/経時変調は不要なのでパルスウィズLFO及び同ENVデプスを0にしてください。またオシレータ波形を三角波にしてパルスウィズに関するパラメーターを同じ設定にしても似るのですが、大雑把に触った限りではパルス波よりかなり暗い音になります。

 参考までにパルス波の幅に関して、アナログモノフォニックシンセサイザーRoland SH-101等の取扱説明書に、

幅の比によって倍音構成が大きく変化する、上部の幅が全体のn分の1の時n倍音系列が欠落するという性質があり、33%の場合、3、6、9倍音が抜ける。

という意味の記述があります。

 FM音源シンセサイザーYAMAHA DX7の場合、プリセット音Female Voiceをエディットすると似た音になりました。23年近く前の話であり、どうやって作ったかを完全に失念したのですが、DX7発表時期のキーボードマガジンの付録ソノシート「DX7 SOUND SENSATION 脅威の“音”の世界」(演奏は井上鑑さん。恐らく歴史上DX7を使用した初のレコード)のA面1曲目、B面2、8曲目に使われていたFemale Voiceを聴いただけでピンと来ました。

 喜多郎mini KORG 700Sリードのもう一つの特徴であるオートベンド(ピッチEG)の設定のポイントは、押鍵した音程より低い音程からピッチがスタートするということです。スタートレベルをマイナス値、そしてアタックレベルを0に設定します。つまり、音程がスタートレベルで設定した値から押鍵した音程まで上がって来るまでの時間がアタックタイムです。サスティンレベルも当然ながら0です。サスティンレベルが押鍵した音程でなければならないからです。ちなみに先に挙げたコルグのワークステーション機にはピッチEGのサスティンレベルがなく、0固定です。

 KORG MS2000シリーズやmicro KORG、RADIAS、R3、microKORG XL、Roland V-Synthシリーズの場合、EGにマイナス値はありません。スタートレベルはプラスでもマイナスでもなく0固定、つまりピッチEGの場合、押鍵した音程から始まります。こういったピッチEGの場合、オシレータへのかかり具合を設定するパラメーター(コルグのアナログモデリング機の場合、バーチャルパッチ EG→ピッチ)の値をリバース(マイナス)方向に下げます。この値が低いほどピッチベンドの始まりの音程が深い(低い)ことになります。そして、アタックではなくディケイタイムがオートベンドの時間設定のパラメーターになります。ピッチEGのアタックタイムは0にします。これは押鍵したピッチからEGデプスで設定したマイナス音程までの実行課程が、今回のオートベンドの場合邪魔だからです。そしてディケイタイムでEGデプスで設定したマイナス音程から押鍵した音程になるまでの時間を設定します。もちろんサスティンレベルは0です。

 以前、喜多郎さんのたしか大阪城ホール柿(こけら)落としのライブビデオを見たおり、右手の人差し指から小指を使って鍵盤演奏しながら、親指を使ってオートベンドかポルタメントのスイッチ操作をしていた記憶があります。mini KORG 700/700Sは操作パネルがフロントではなく鍵盤の下にあるのでこういう操作ができるわけですが、出音以外にこの独特の形状も、喜多郎さんがmini KORG 700Sを使い続ける理由かも知れません。

 右手人差し指から小指を使って鍵盤演奏しながら親指を使って操作〜は無理ですが、コルグのワークステーション機やRoland V-Synth GT、Fantom G、JUNO-STAGEの場合、ジョイスティック/ベンダーレバーのすぐ近くにアサイナブルスイッチがあるので、左手操作でジョイスティック/ベンダーレバーによるビブラートをかけつつ、オートベンドを頻繁にオンオフすることができます。また、ピッチEGのオシレータへのかかり具合を設定するEGデプスを、鍵盤のベロシティでコントロールするように設定しておくと、オートベンドに変化を持たせる事ができます。もちろん、アサイナブルノブ(あるいはスライダー)にEGデプスやアタックタイム等をアサインしておくと、演奏中に手操作で変化を持たせる事ができます。

 フィルターやアンプの設定に関して、鳴り始めから終わりまで劇的な変化の無い音色ですから設定は容易です。しかしながらせっかくデジタルシンセを使うので、ベロシティでEGの各タイム/レベルをコントロールして鍵盤演奏に情感を加味するのもいいと思います。EGのリリースタイムに関して、タッチノイズが入らないぎりぎりまで短くする方が歯切れの良い音になります。

 鍵盤演奏に関して、スタッカートとレガートをタイトに弾き分けることを心がけてください。これも喜多郎mini KORG 700Sリードの特徴の一つなのですが、スタッカート/レガートによるリトリガーする/しないの鳴らし分けを、録音時はもちろん1980〜1990年代の公演での喜多郎さんは恐ろしくきっちりとこなしていました。ポリフォニックシンセでこれを行う場合、モノあるいはソロモードがある事が必需です。KORG Polysixのようなユニゾンモードではだめです。

 それとこれも大阪城ホール公演のビデオで見たのですが、「炎の舞」 のイントロのmini KORG 700Sの演奏で、フレーズを繰り返し鍵盤演奏しながらフットボリュームの操作で徐々に音量を下げていく事で、あたかも反響しながら音が消えていくように表現していました。これは通常ならエフェクターのディレイで行うことです。喜多郎さんの驚異的なフットボリューム操作の滑らかさを見せつけられました。喜多郎mini KORG 700Sリードに関して、シンセサイザーそのもの以外に特徴があるとすれば、フットボリュームによる音量の緩急ある操作ではないかと思います。ベロシティやアフタータッチのあるデジタルシンセでも、やはりフットボリュームは用意すべきだと思います。ちなみに喜多郎さんが好きなフットボリュームはgoodrich(グッドリッチ)やERNIE BALL(アーニーボール)のものだそうです。

 店頭で喜多郎mini KORG 700Sリードを作る方法KORG M3の場合及びRoland SH-201の場合へ続きます。


平成21(2009)年7月11日追記。

 本日まとまった時間implant4さんで、mini KORG 700を試奏する機会を得ました。エフェクターはスプリングリバーブ、スピーカーはモノラルという環境でですが、結論だけを記しますと、今日この音色を出すにあたって、実機を使う事の意義を微塵も感じませんでした。

 以下、そのおり撮影した画像です。

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