カテゴリ:シンセサウンドメイクアップ( 16 )

 アナログシンセ時代、シンセサイザーを買って最初に作った音が、風や波の音だったという人は多いと思います。簡単にできるからというのがその理由でしょう。喜多郎さんも、昭和56(1981)年に出版されたエッセイ「喜多郎・マインドミュージックの世界」(講談社刊)の中で、minimoogを買って最初にできた音は風や波の音だったと記されています。ちなみに喜多郎さんが長期月賦(げっぷ:死語ですね)で買ったminimoogは、日本で4台目に売れたものだそうです。

 アナログシンセのほとんどにノイズジェネレータという機能があります。廉価機ではホワイトノイズ(「ゴ〜」「サ〜」といった音)だけなのですが、中にはピンクノイズ(野菜等を炒める時の「ジュ〜」という音や、近くで鳴った雷の音など)を備えた機種もありました。もちろんノイズジェネレータを持たない機種もありました(KORG PolysixやPOLY-61、SCI prophet-600等)。

 風の音は、ノイズジェネレータのホワイトノイズを使い、フィルターのカットオフポイントにレゾナンスでくせをつけます。そして周波数帯の周期変調、要するにLFOをフィルターにかけて、「ヒュ〜、ヒュ〜」と鳴らします。この音のレゾナンスを0にすると波の音になります。これらは、あくまで風や波の音をセオリーにのっとって作った場合の話です。

 姫神、特に姫神せんせいしょんおよび姫神 with YAS-KAZは、ノイズのバリエーションが豊富で、かつ、実に効果的に使っています。今思いつくだけでも、アルバム「奥の細道」の「ありそ(荒磯)」「行秋(ゆくあき)」「やませ」、「姫神」の「空の遠くの白い火」、「まほろば」のタイトル曲、「イーハトーヴォ日高見」の「くろもじの木の匂い」などは、ノイズがサウンドに深みを与える上で重要な役割を負っています。

 「ありそ」には、打ち寄せる波と引いていく波の2種類がステレオ音場で表現されています。ミキシングコンソールのパンポットで、前者はステレオのレフト方向、後者はライト方向に定位されています。これらの音は先に挙げたホワイトノイズを使っているわけですが、別々に作られ、多重録音で重ねられています。

 「ありそ」のノイズが波の音を表現しているのに対し、「やませ」はタイトルどおり、風の音が表現されています。これも、遠近や、吹いて来る風、去っていく風という風(ふう)に、さまざまな表現が為されています。音そのものはアナログシンセの風の音そのものなのですが、先に挙げた“周期変調をカットオフポイントにかけて「ヒュ〜、ヒュ〜」と鳴らす”とはちがう方法で「ヒュ〜、ヒュ〜」と鳴らしていると思われます。カットオフポイントやレゾナンス等のつまみもしくはスライダーを、姫神・星吉昭さんが手で動かしていると思われます。風の気まぐれな吹き様を、回路に頼らず手で表現するわけです。

 話が少しそれるですが、平成14(2002)年2月7日NHK総合で放映された、「人間ドキュメント・喜多郎〜長良川を奏でる」で、喜多郎さんの「水に祈りて」という新曲とその録音風景が披露されたのですが、その終盤で喜多郎さんがKORG 800DVという国産シンセサイザー黎明期のモデルのスライダーを動かして、風の音を鳴らしている映像がありました。あのスライダーはトラベラー(シンセ黎明期、コルグはVCFをこう呼んでいた)のカットオフポイントです。喜多郎さんはあの風を“回路に頼らず手で表現”されたわけです。ちなみに800DVにはホワイト/ピンクの両ノイズジェネレータがあります。

 同じ事を、今回挙げた「ありそ」「行秋」「やませ」「空の遠くの白い火」などでもしているはずです。シンセに付いてくる取説どおりに周期変調をかける形で作ると、単に「ヒュ〜、ヒュ〜」鳴っているだけの風にしかなりません。曲の展開に合わせたり、演奏者(操縦者といった方がいい?)の意図を込めて風を吹かすのには、やはり手で表現するのがいいと思います。最近のワークステーション機は、つまみやスライダーでフィルターやLFO、EG等をリアルタイムコントロールできる機種がほとんどなので、デジタルアクセスコントロールであることのハンディキャップはありません。

 以上は「風」「波」と明確に分かるようなノイズの使い方をされている音でしたが、ノイズはもっと観念的な音表現にも用いられます。

 「空の遠くの白い火」には、始めから終わりまで「サァー…」というホワイトノイズが鳴らされています。曲の間奏部分で口笛風の音がメロディを取る個所がありますが、その後ろで鳴っているノイズは聴き取りやすいと思います。私にはこのノイズが山中の木立の葉擦れの音に聞こえます。おそらく聴く人によって色々な捉え方ができる、観念的なノイズではないでしょうか。作り方としては波の音と同様、レゾナンスを0にして、カットオフポイントを手動で動かす、といった所だと思います。ただ漫然と風を吹かすのではなく、曲の展開に合わせて鳴っているのが最大の特長です。またこの音は、ミキシングコンソールのパンポットを動かして、ステレオ音場を右、左に移動させています。

 「まほろば」は、姫神には珍しい長尺のナンバーですが、重ねられた音の密度は、決して多いとは言えません。曲を音で埋め尽くすのではなく、どの個所にも、ある種の隙間が与えられています。これがこの曲に独特の清澄感を与えているわけですが、もう一つ秘密があるとしたら、曲の展開の変わり目などで、隠し味的に様々なノイズが使われていることではないでしょうか。

 例えば「まほろば」の曲中、躍動感のあるワルツのような部分から、ストイックな部分へと変わっていく個所で「ゴー、バシャバシャバシャ…」というノイズが入ります。私は遠雷の音だと思っているのですが、これはヤマハのFM音源シンセDX7のプリセット“KAZAN-BAKUHATSU”です。KAZAN-BAKUHATSUは、キーボードマガジンの昭和58(1983)年のたしか5月か6月号の付録のソノシート(井上鑑さんの演奏が収められている。おそらくこれがDX7を使った最初のレコードでしょう。)の中に収録されていました。ワ−クステ−ションタイプのシンセでこの音を再現するには、ノイズ系の波形を選んで、フィルターのカットオフポイントに速い周期の変調をかける、がヒントです。フランジャーやフェイザーを使ってみるのもいいかもしれません。「ゴー」と「バシャバシャバシャ」をどう鳴らし分けるか一考してみてください。

 他にも「まほろば」は、曲中さまざまなノイズが鳴っています。「イーハトーヴォ日高見」の「くろもじの木の匂い」にも印象的なノイズが鳴っています。一度これらの音を、メロディやハーモニーを度外視(否、度外聴?)して、意識して聴いてみてください。これらのノイズは、いわゆる完全無音状態ではなく、静寂感の音表現ではないでしょうか。つまり「しんと静まりかえる」の「しん」を表現しているような気がします。我々日本人はこの「しん」のようなデリケートな音を捉えることが、どうやら他の民族より上手いのではないかと思います。

 姫神のサウンド面の魅力の一つは、この音にならない音、つまり「しん」を聴きとる日本人の聴覚や感性に訴求する部分があることではないでしょうか。遺憾ながら、姫神後半の作品にはそれがほとんど感じられません。一つ一つの音の要素がお互いに干渉しあっている(マスキング効果という専門用語があります)ような気がします。音が多すぎたと思います。

 もしかすると、今の日本人の耳そのものや音を捉える感性に異変が起きていて、静寂感の音表現などというものに美を感じなくなっていているのかな、とも思えます。我々の周りで余計な音が鳴り過ぎているのかもしれません。デリケートな音を捉えることができる耳や感性を大事にしたいものです。

 今回は、ほとんどマニピュレーションに関する記述をしませんでした。今回取りあげた音はマニピュレーションそのものは至極簡単です。むしろ、多重録音やライブでの鳴らし方に演奏者(操縦者?)のセンスが問われると思います。

 ちなみに今回の記事のタイトル「ノイズの効用」は、野口晴哉(のぐち・はるちか)の「風邪の効用」に引っ掛けたものです。
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 平成5(1993)年、ヤマハがこれまでとは全く違うメカニズムの音源を持ったシンセサイザーを発表しました。VL1です。

 このシンセの音源は、これまでのオシレータに記憶された波形を加工する方式とは全く違う、物理モデルをベースにしたVA(バーチャルアコースティック)音源です。楽器の発音のメカニズムそのものをシミュレーションする音源です。YAMAHA VL1は吹奏楽器や擦弦楽器をシミュレーションするタイプ、S/VA(Self oscillating Virtual Acoustic)音源を内蔵しています。

 楽器店でこのシンセを試奏した時、これを姫神・星吉昭さんが弾いたら、絶対にいい演奏になるだろうと思いました。翌年の夏に発表されたアルバム「東日流(つがる)」で的中しました。

 他に、弦を撥ねる、あるいは何かを打つといったことをシミュレ−ションするタイプのF/VA(Free oscillating Virtual Acoustic )音源を備えた、YAMAHA VP1という機種もありました。お値段¥2,700,000也。VL1、VP1とも既に製造は終了しています。

 平成6(1994)年7月の十三湖公演の翌々日、岩手県盛岡市を歩いたのですが、市内の某楽器店(アルバム「奥の細道」にクレジットされている)に立ち寄ったおり、姫神の田瀬湖畔スタジオにVL1だけでなく、VP1があることをお聞きしました。NHK「にっぽん点描」のテーマ曲(このナンバーの変奏曲が、アルバム「風の縄文」の「見上げれば、花びら」です)の冒頭の効果音は恐らくVP1です。

 アルバム「東日流」の3曲目「東日流笛(つがるぶえ)」を、私は姫神屈指の佳曲だと思っているのですが、メロディの笛の音は、VL1のBAMBOO(SHAKUだったかも)というプリセット音です。ほとんどエディットしていないと思われます。BAMBOOはその後、モジュールタイプのYAMAHA VL70-m、ワークステーション機EX5/EX5R、オプションのVA音源プラグインボードPLG150-VLのプリセットにも収録されています。どうしてもあのプリセット音と寸分違わぬサウンドが欲しいということであれば、状態の悪いVL1の中古を買うよりそちらを利用されることをお薦めします。聴感上、全く差異はありません。以前、VL1とPLG150-VLを装着したYAMAHA CS6xを並べて演奏してみたことがあります。

 無理を承知ではあるのですが、このBAMBOOを、今やどこのご家庭にもある?ワークステーションタイプのシンセサイザーで挑戦してみましょう。演奏には両手両足を使います。

 オシレータの波形は、パンパイプ系か、ハードフルート系(ブレスノイズの成分をやや過剰気味に含んだのもの)を選びます。音程の不安定感を加味したい場合は、LFOやピッチEGの設定も一考してください。

 音色変化や音量変化は、普通はフィルターやアンプ部分のEGで行いますが、少しでもS/VA音源の特性に近づける為、フィルターの変化をエクスプレッションペダルで、そして音量変化をアナログのボリュームペダルで行います。EGのサスティンレベルは、フィルター、アンプとも最大値にしておきます。ここで、エクスプレッションペダル及びボリュームペダルで行うことは、管楽器を演奏する場合、奏者が口でやっていることです。ペダル操作の苦手な方は、最近のシンセによく見かける、アサイナブル・ノブに同様の機能を割り振っても良いかと思います。しかし、できれば、手は鍵盤とコントローラーに触れていたいものです。

 フィルターやアンプのEGのアタック部分の設定は、ベロシティなども考慮して緻密に行ってください。管楽器の音をシミュレーションする上での息の吹き込みの始め方の加減による音変化を、鍵盤を弾く強さ(鍵盤が押し下げられる速さ)で行う為です。

 小学校の音楽の授業で、たて笛(リコーダー)を吹いた時の事を思い出してください。音色の変化のコントロールは、楽器側のメカニズムではなく、演奏する側の吹き込み方で行ったはずです。これが木琴やピアノ、お琴といった、打つ/撥ねる系の楽器だと、音が鳴り始めると同時に音色・音量の変化のコントロールは基本的に演奏者を離れ、楽器側の発音メカニズムに任されるわけです。アコースティック楽器の音作りをする上でこういったことを念頭に置くと、脳裏に描いた音を具現化する上で便利だと思います。

 岩手県玉山村(来る1月10日、盛岡市と合併)の姫神ホールのこけら落とし公演で、星さんがVL1を使った無伴奏の演奏を披露してくれました。「姫神笛」というタイトルでした。姫神の公演では珍しい即興の要素に加え、VL1の特性を駆使しての奏者の気持ちの抑揚を伝えてくるような演奏でした。この頃はVL1に付属しているヘッドセットタイプのブレスコントローラー、BC3を使っていらしたのですが、後年、使わなくなりました。


YAMAHA VL1
http://jp.yamaha.com/products/
music-production/synthesizers/vl1_version1/?mode=model


YAMAHA VP1
http://jp.yamaha.com/product_archive/
music-production/vp1/?mode=model


YAMAHA VL70-m
http://jp.yamaha.com/products/
music-production/tone-generators/vl70-m/


YAMAHA EX5
http://jp.yamaha.com/products/
music-production/synthesizers/ex5/?mode=model


YAMAHA EX5R
http://jp.yamaha.com/products/
music-production/tone-generators/ex5r/?mode=model


YAMAHA PLG150-VL
http://jp.yamaha.com/product_archive/
music-production/plg150-vl/?mode=model


YAMAHA BC3
http://jp.yamaha.com/products/
music-production/accessories/breathcontrollers/bc3/?mode=model

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 喜多郎さんの「シルクロード幻想」「人類青春組曲」「飛翔」「空の雲」「星雲」「自由への架橋」「朝もや」「ノアの箱舟」「大銀河」等に、極端な表現ですが「ッポアウ〜ン」「ッポウン」(頭に小さい「ッ」があるのがポイント)等と聴こえる、ややこもった、そして柔らかさと輪郭の明瞭さを同時に兼ね備えたホルン風の音が入っています。

 この音を担当したのは、今は亡き米国シーケンシャルサーキット社製のプログラマブルポリフォニックシンセサイザーSEQUENTIAL CIRCUITS prophet-5です。

 prophet-5は、昭和53(1978)年に発売されたアナログシンセサイザーで、キーアサイナー方式によるポリフォニック化やプログラマブル(作った音色を記憶させる)といった機能を初めて搭載した機種です。機能の革新性に加え、デザインの美しさや合理性、そして出音に関して低雑音でこしがあり、今日に至るまで絶大な人気を誇っています。

 キーボードマガジン昭和57(1982)年2月号の喜多郎さんの巻頭特集のインタビュー記事によると、


 オリジナルにプログラミングされていたものを自分なりにいじって作った


音だそうです。

 喜多郎さんが使っていたprophet-5は製造時期が古いものらしく、リアパネルの「prophet-5」のロゴが大きく、音色メモリーは40の仕様と思われます(シンセサイザーフェスタ’09見聞記参照)。YMOがテレビ出演時に演奏していたものは、ロゴが小さく、ヒートシンクやデジタルシーケンサーRoland MC-4との接続端子があり、音色メモリーは120のタイプでした。

 喜多郎さんがこのprophet-5で出しているホルン風の音の特徴は、既に記しましたが、ややこもった、そして柔らかさと輪郭の明瞭さを同時に兼ね備えていることだと思います。オシレータ波形は、曲によって鋸歯状波とPWM(パルスウィズモジュレーション)を使い分けています。また、同じように聴こえる音でも曲によってEGの設定が変更されているはずです。

 共通して言えることは、VCFとVCAのEGの設定に関して違いがあり、前者の方がアタックタイムが遅く、ディケイタイムは逆に早く、サスティンレベルは低いということです。「ッポアウ〜ン」「ッポウン」の「ッポ」は、VCA EGのアタックの立ち上がりよりもVCFの開き方の方が遅い故に、そして、「アウ〜ン」「ウン」の部分はフィルターの閉じ方がアンプの減退より速いことで出ている効果です。

 アナログシンセサイザー時代、アマチュアの手に届く価格帯のシンセにはVCFとVCAのENVが共通のものがほとんどでしたが、私が所有していたKORG Mono/PolyはVCFとVCAが独立した完全なADSRのEGを持つ数少ない機種で、この喜多郎prophet-5ホルンもかなり近い感じを出すことができました。KORG Mono/Polyは、PWMをMG(LFO)だけでなくVCF EGでも変調できたのですが、これは「ッポアウ〜ン」「ッポウン」の感じをやや強調気味に設定する時に役に立ちました。

 今日のデジタルシンセはPCMであれモデリングシンセであれ、廉価機であれフィルターとアンプが各々独立したEGを持っていることや、アナログシンセが太刀打ちできないほどEGを緻密に設定できるので、上で述べた特徴を考慮しながら設定すると、廉価機でもかなり近い、というより本物のprophet-5以上の効果が出せます。

 また、せっかくデジタルシンセを使うのでベロシティまわりの設定を一考、例えばフィルターの開き具合やENVのアタックタイム等をコントロールすると、より吹奏感のある喜多郎ホルンができると思います。

 喜多郎ホルンのイメージからは乖離しますが、LFOのディレイタイムやフェイドインタイム(prophet-5のLFOには後者はもちろん前者も無い)の設定を工夫して、音をふるわせて唄わせるようにしてもいいかもしれません。

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 姫神せんせいしょんデビューから姫神・星吉昭さんの晩年にいたるまで、そのサウンドの中核を為してきたのは、バリエーション豊かな笛風の音だと思います。鋭い能管風や竜笛、インドのバーンスリー、小学校のリコーダー風などさまざまです。

 これらは大雑把に、笛1本のソロ、複数本によるアンサンブルに分けられると思います。姫神せんせいしょんの頃、これらの音を担ったシンセサイザーは、Roland SH-2及びKORG Polysix等です。前者は独奏音、後者はアンサンブル音で使っているようです。

 「白い川」のメロディは、独奏の笛が妖しい美しさを秘めた旋律を吹き鳴らす印象的なナンバーです。SH-2がメロディを担当しています。オシレータの波形は矩形波(くけいは)です。SH-2はフィルターとアンプのENVが共通なのですが、デジタルシンセを使うからにはやはり設定を一考したいものです。息を強く吹き込んだ時、弱く吹き込んだ時、タッキング…。管楽器演奏には、表情豊かな演奏法が数多(あまた)あります。アナログシンセが逆立ちしても勝てないくらい豊富なパラメーターがたくさんあるので、それらを駆使して音に豊かな表情を与えるべきです。

 公演中、星さんのSH-2の演奏を見ている時に気付いたのですが、星さんは右手で鍵盤演奏をしながら左手でさかんにスライダーを動かして音色を調整しています。左手は大抵の場合、ベンダーレバーやホイールを操作するのにお使いなのですが、SH-2のときは左手をリアルタイムに音色変化を行うことにも使っていらっしゃいます。

 これを現在のデジタルシンセでやってみましょう。現在のワークステーションタイプのデジタルシンセには、パネルの左手にノブかスライダーが四つほど並んでいます。これらにユーザーが任意に機能をアサインできる機種が増えてきています。フィルターのカットオフやEGのアタックタイム等をこれらのノブで演奏中に調整できるように設定しておくと、ライブ演奏のおり、より感情のこもった演奏ができるでしょう。もちろん鍵盤のベロシティでもカットオフやアタックの強弱(速い遅い)などのコントロールはできますが、ノブでやると、より派手に、大胆に、大仰に効かせる(聴かせる)事ができます。

 SH-2の演奏時、星さんが左手で行っている音色操作のうち、現在のデジタルシンセでは全く不要な行為があります。SH-101登場以前のRoland SHシリーズに関して、手操作でビブラートやグロウル効果をかけるためのコントローラーはありませんでした。また、Roland JUPITER-8、JUPITER-6、 JUNO-6、JUNO-60はベンダーレバー付近にある白いスイッチを押す、SH-101やJUNO-106以降はベンダーレバーを前に押すことでかけたのですが、これらはビブラートやグロウル効果のオン/オフはできても、コルグのシンセのジョイスティックや内外の多くのメーカーが採用しているホイールのように、効果をだんだん深くしていく事ができませんでした。この事は、吹奏、擦絃楽器等のシミュレーションにおいて致命的です。

 そこで星さんは、VCOのMODのスライダーをコントローラーのようにして操作していました。ちょうど今日のヤマハのシンセの右側のホイールでやることを、音色設定のスライダーでやっていたわけです。ベンダーレバーの形状に大幅な改良が加えられたRoland XP-50以降、変調効果をだんだん深くしていく操作ができるようになりました。

 姫神・星吉昭さんの演奏する笛風のシンセ音は、「奥の細道」から遺作「風の伝説」に至るまで吹奏感にあふれています。その理由は、フットボリュームの操作とピッチベンドにあると思います。今回はふれる事ができませんでしたが、姫神の吹奏及び撥絃楽器風シンセ音の重要なファクターの一つであるピッチベンドについては、いずれ述べたいと思います。

 KORG polysixによる笛、さまざま(2)Roland SH-2 PLUG-OUTが出ますに続きます。


 姫神の公式サイトのブログ北人霊歌に、「思い出の一台 ~第一回 Roland SH-2」と題して、Roland SH-2に関する記事があります。

思い出の一台 ~第一回 Roland SH-2 その1
http://hokujinreika.blog40.fc2.com/
blog-entry-93.html


思い出の一台 ~第一回 Roland SH-2 その2
http://hokujinreika.blog40.fc2.com/
blog-entry-94.html


思い出の一台 ~第一回 Roland SH-2 その3
http://hokujinreika.blog40.fc2.com/
blog-entry-95.html


思い出の一台 ~第一回 Roland SH-2 その4
http://hokujinreika.blog40.fc2.com/
blog-entry-96.html



付記。

 本文中、
Roland JUPITER-8、同6、 JUNO-6、同60はベンダーレバー付近にある白いスイッチを押す、SH-101やJUNO-106以降はベンダーレバーを前に押すことでかけたのですが、これらはビブラートやグロウル効果のオン/オフはできても、コルグのシンセのジョイスティックや内外の多くのメーカーが採用しているホイールのように、効果をだんだん深くしていく事ができませんでした。
としたのですが、JUPITER-8及びJUPITER-6のモジュレーションボタンは、ライズタイム(LFO MOD RISE TIME)、つまりボタンが押されてからモジュレーションデプス設定値に至るまでの時間を設定する事ができました。
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 姫神せんせいしょんのアルバム「奥の細道」の「紫野」「邪馬台国の夜明け」「Gun-Do」などで、「シュワ〜ン」といううねりを帯びた「アァ〜」という男声風のパッド音が、バックで白玉(全音符、2分音符のこと)演奏されています。決して前面に飛び出てくるような音ではありませんが、曲調に不思議な広がりを与えています。

 この音はボコーダーRoland VP-330 Vocoder Plusのヒューマンボイス部に、フェイザー(フェイズシフター)というエフェクターをかけた音だと思います。

 Roland VP-330には、本来のボコーダー機能の他に、ヒューマンボイス、ストリングスという音源部があります。ボコーダー部は「赤い櫛」(アルバム「遠野」より)「えんぶり」(アルバム「姫神」)「武夫のテーマ」(映画「遠野物語」オリジナルサントラ盤)「ハヤト」(アルバム「姫神伝説」)で使われています。ヒューマンボイス部は「アァ〜」という人声音を電子的に合成しています。「海道を行く」や「夕凪の譜」等では、このVP-330のヒューマンボイス部がフェイザー無しで使われています。

 フェイザーは、元々はハモンドオルガンのレスリースピーカー(回転しながら音を出す)のドップラー効果(中学か高校の物理の時間に習いましたね…)を、擬似的に作り出すことを目的に開発されたエフェクターだそうです。しかし、本来の目的からは全く逸脱した形で使われています。

 変わった所では、1979年のテレビアニメ「機動戦士ガンダム」の第1回放映分で、ガンダムがビームサーベルでザク(敵のロボット)の腹部を切り裂いていく効果音は、シンセで作ったピンクノイズ(野菜等を炒める時の「ジュ〜」という音等)にフェイザーをかけたものです。

 話がそれました。うねりを帯びた男声風パッド音をワークステーションタイプのデジタルシンセで再現する、私なりの方法を記します。

 本家ローランドのJV/XPシリーズ用のオプションボードSR-JV80-04 Vintage Synthや、Fantom X/JUNO-G/JUNO-STAGE用のSRX-07 Ultimate Keys、そしてFantom Gのオシレータには、VP-330のヒューマンボイス部のサンプル波形VP-330ChoirA、VP-330ChoirB、VP-330ChoirCが収録されています。

 またKORG TRITONシリーズ/KARMA用のオプションボードEXB-PCM05 Vintage Archivesや、TRITON Extreme、microX、M3M50のオシレータには、Vocorder-VPという波形が収録されています。

 しかしながら、ここではそれらを利用できない人向けに書きます。

 まず、既存の男声風(女声の低音部でもいい)プログラムを用意してください。プリセットの中に必ずあると思います。それをあまり前面に出て来ない、しかし、広がりをもった音にエディットします。ヒントは、フィルターでの音変化を派手にしない、複数のオシレータのピッチを微妙にずらす(ディチューン)、などです。ディチューンのさじ加減を間違うとアンサンブル感が足りなかったり、逆に、単に音程をとるのが下手な合唱団みたいな音になります。また、「邪馬台国の夜明け」「Gun-Do」等の「アァ〜」は、音が減退しています。EGのディケイタイムやサスティンレベルの設定も一考してください。アタックタイムの若干遅い金管楽器風のEGに設定してみるのもいいかもしれません。

 「アァ〜」ができたらマルチエフェクターの中のフェイザーをかけてみましょう。エフェクトの深さ(デプス)、速さ(レイト)等はお好みで…。

 ワークステーションタイプのデジタルシンセのマルチエフェクターは、モジュレーションソースをシンセ部分のパラメーターと連動させることができるものが多いので利用するのも手です。鍵盤のベロシティやアフタータッチ、アサイナブル・ノブ、エクスプレッションペダル等を使用するのもいいと思います。演奏中の気分でフェイザーの効果をさまざまに変化させる事ができます。

 アナログ時代に私がKORG Mono/Polyで作った「アァ〜」を記しておきます。アナログモデリング音源やコルグのMOSS音源、Roland D-50/20/10等に応用できます。

 オシレータの波形をPWMにします。変調はLFOを選択します。Roland D-20/10等パルス波の幅をLFOやVCF EGで変調できない機種はPWでけっこうです。そしてパルス波の幅を耳で確かめながら「アァ〜」に近い位置に設定してください。

 フィルターの設定はカットオフポイントとレゾナンスの関係が極めて重要です。また鍵盤の高低とカットオフポイントの関係を設定するキーボードフォロー(キーボードトラック)も慎重に設定してください。鍵盤の位置でフィルターの感触に差異が出るのを防ぐ為です。後は上記のワークステーションタイプのシンセの設定と同じ考え方で結構です。

 冨田勲さんの1970年代のシンセアルバム「月の光」「惑星」「ダフニスとクロエ」等は、フェイザーを使った音のバリエーションが実に豊富です。「ダフニスとクロエ」の「亡き王女のためのパヴァーヌ」(作曲モーリス・ラヴェル)は、曲中でリコーダー風の音とフェイザーのかかった人声風の音(メロトロンとシステムシンセを多重録音したもの)とがかけ合いをする、非常に美しい曲です。参考に聴いてみてください。
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 姫神せんせいしょんのアルバム「姫神」の2曲目「七時雨(ななしぐれ)」のメロディの音は、「ポ〜ン…」という、やや間延びした減退音ですが、これはコルグのアナログシンセサイザーKORG Polysixで出しています。アナログシンセ時代、私はこの音を同社がPolysixとほぼ同時期に発売したMono/Poly出していました。

 この音のオシレータの波形はtriangle(三角波)です。現在各社から出ているワークステーションタイプのシンセには必ずこの波形は収められていますので、容易にシミュレーションできます。ピアノやビブラホンといった減退音系の音色プログラムからエディットしていくとよいでしょう。

 KORG Polysix、というより1970年代半ばから1980年代初頭の国産のアナログシンセ民生機の音質は、内外の高級機に比べて、輪郭がややぼやけた(それが魅力でもある)感じがします。デジタルシンセでその感じを出す為にはフィルターおよびそのEGの設定は重要です。デジタルシンセだと「ポーン…」ではなく「コーン…」になりがちです。フィルターでのカットオフポイントと音色変化の度合いを決めるEGデプスの関係にも注意を払ってください。

 昨今のワークステーションシンセには、100を超えるマルチエフェクターとは別に、音声回路の最後の方でイコライジング機能を持たせています。何か元ネタがあって、そこからエディットしていく形で音作りをする人が、元ネタのイコライジング機能の設定をさわらないまま、「フィルターをどういじっても、音の感触が、ねらったものとちがう」と言っていることがあります。音色設定をするにあたって、イコライジング機能を“0”にしておくといいと思います。デジタルシンセはパラメーターが豊富で、それが音色作りをする上で混乱の元にもなるわけですが、だからこそ豊かな音色バリエーションが引き出せるわけです。お手持ちのシンセの機能を細部まで把握しておく事は重要です。

 sine(サイン波)やtriangle(三角波)、square (矩形波:くけいは)は、saw(鋸歯状波:きょしじょうは)やpulse(非対称矩形波)と違い、フィルターでの派手な音色変化はありません。また、KORG Polysixは、VCFとVCAのEGが共通なので、デジタルシンセでもフィルターとアンプのEGを同じ数値に設定しておいても構わないと思います。しかし、デジタルシンセの鍵盤は、ベロシティ(鍵盤を押す強さ、つまり速さ=rate)によって音色や音量等に変化を付けられるので、その機能を活かす為、フィルターとアンプのEG設定を異なるものにするのも一興です。私はそうしています。

 
訂正(平成18年4月4日記)

 この音を担当したのはコルグのアナログシンセサイザーPolysixではなく、同社のMono/Polyではないかと思われます。本文中にも書きましたが、私はアナログシンセ時代、この音をMono/Polyで出していました。

 昨日KORG Polysixの実機に触れる機会があったのですが、基本的なことなのですがオシレータ波形に関して三角波は存在しませんでした。そこでオシレータ波形のPWを矩形波にして設定してみたのですが、やはり違和感を感じました。たまたま近くにあったKORG Mono/Poly(四つのVCO全てに三角波がある)で設定してみたところ、こちらは違和感がありませんでした。

 また「七時雨」のメロディ音はピッチに微かにディチューンがかかっているのですが、これをPolysixの内蔵エフェクトのアンサンブルやコーラスで出した場合よりも、どんなに調整しても四つのVCOのピッチが完全に一致することが無い(シンクロという機能を使って強制的に同期させることは出来る)Mono/Polyで作った方が感じが出ました。

 姫神せんせいしょんの全てのアルバムにコルグが機材協力(クレジットされている)していたのですが、アルバム「姫神」制作時、Mono/Polyも提供したのかもしれません。昭和57(1982)年12月の銀座ヤマハホールでの姫神せんせいしょんの公演時、ステージ上にMono/Polyがありました。

 本文中の音作りに関する記述に訂正はありません。
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