平成30(2018)年1月18日、コルグはプログラマブルアナログポリフォニックシンセサイザーKORG prologue(プロローグ)を発表しました。既に取扱説明書も公開されています。
KORG prologueは、基本的なパラメーター構成やその配置、そしてオシロスコープに
minilogueを感じるのですが、標準サイズの鍵盤やオーク材の化粧板等、より上級機らしい姿をしています。
prologueには2モデルあり、49鍵機prologue-8の発声数は8、61鍵機prologue-16は16。鍵盤はともに日本製ナチュラルタッチ鍵盤で、ベロシティを採る事ができます。ベロシティを充てられるディスティネーションは、フィルターEGデプスと音量だけです。
アフタータッチはありません。8声、16声のシンセの鍵盤にモノフォニックアフタータッチ機能を持たせるくらいなら、このprologueのように用途を割り振れるエクスプレッションペダルを挿せるようにしてくれた方がいい。ポリフォニックシンセの場合、アフタータッチもポリフォニックでなければ意味が無いと思います。
prologue-8、prologue-16両機の違いは、prologue-16にのみ内臓エフェクターにアナログコンプレッサーがあります。フロントパネル右端に見えます。また、ティンバーやボイススプレッドの設定に関して、prologue-16には専用の操作子があるのですが、prologue-8はエディットモードに入ります。
つまみやトグルスイッチの形状はminilogue由来のものなのですが、つまみにはどこを指しているかを視認しやすい白い線が入っています。
鍵盤の左側ではなくフロントパネル上にあるコントローラーは、ピッチ/モジュレーションの二つのホイール。コルグのアナログシンセで二つのホイールを持つのは、昭和56(1981)年の
KORG Mono/Poly以来です。続くPOLY-61、
POLY-800はジョイスティックでした。
ピッチホイールは文字どおりピッチのコントロールのみで、他の機能をアサインする事はできません。ピッチベンドレンジをダウン/アップ個別に設定できます。モジュレーションホイールはアサイナブルです。
私はホイールよりコルグのジョイスティックやローランドのベンダーレバーの方がうまく使えるのですが、LFOにディレイタイムやフェイドタイムといった径時変化に関するパラメーターが無く、EGを充てる事もできないprologueのようなシンセの場合、手指を離すと勝手にニュートラル位置へ帰ってしまうジョイスティック/ベンダーレバーよりも、動かしたその位置へ留まるホイールの方が良いと思います。変調の径時変化にバーチャルパッチを介してEGを充てられるとはいえ、コントローラーがジョイスティックの
KingKORGを試奏していてこの事を痛感しました。
オン/オフのトグルスイッチは無いものの、minilogueと異なり、ポルタメントタイムのつまみがあります。ポルタメントはオフ、0〜127と変化します。オフと0を分けてくれています。minilogueのポルタメントのカーブはデジタルシンセ的なリニア変化でした。試奏するまで判らないものの、prologueのそれが非リニア変化である事に期待しています。
minilogueのフロントパネルでは右端にあったボイスモードの効果のつまみが、prologueでは独立して左端に移っています。
オシレータに関して、二つのVCO、そして、第3のデジタルオシレータとしてマルチエンジンがあります。
VCOは、鋸歯状波、三角波、矩形波(非対称矩形波:PWを含む)があります。いずれもシェイプというパラメーターで波形を変調する事ができます。さらにLFOを充てる事で変化に周期変化を加える事ができます。
ピッチにEGを充てる場合、minilogueがVCO2に対してのみだったものが、三つのオシレータ全て、VCO1と2のみ、VCO2のみを選ぶ事ができます。シンクロやリングモジュレータ、クロスモジュレーションの効果を複雑化する事やオートベンドに使えます。ピッチEGデプスはプラス値/マイナス値を設定できます。
マルチエンジンは、ノイズジェネレータ、VPM、ユーザーの三つから一つを選びます。
特にVPMはVCOと併せて使うと面白い効果を生んでくれると思います。
ユーザーとは、ユーザーが書いたプログラムをアップロードする事ができるのだそうです。私が使う機会は無さそうです。
奏者やマニピュレータが音色作りで最も独自性を発揮しやすいセクションは、このマルチエンジンではないでしょうか。
オシレータミキサーにノイズジェネレータは無く、VCO1、VCO2、マルチエンジンのレベルを設定します。
VCFはローパスフィルターなのですが、ローカットスイッチという簡便な形でですが低域をカットできます。
現時点で断定はできないのですが、minilogueでは可能だったことや、オシレータミキサーが三つのオシレータの割合ではなくオシレータ各々のレベルを設定できるタイプであることから、VCFは自己発振すると思われます。
EGデプスは、ポラリティスイッチでの切り替えではなくマイナス値の設定で、EGの効果をリバース曲線にする事ができます。
minilogue同様、VCF EGをオートベンド(ピッチEG)にのみ充て、代わりにカットオフフリケンシーにアンプEGを充てる、つまり、フィルターとアンプでアンプEGを共用する事はできません。
minilogueのEG MODスイッチに相当するパラメーターがprologueには無く、ビブラートやグロウル効果等のモジュレーションの径時変化のソースにEGを充てる事ができません。LFOのインテンシティを割り振ったモジュレーションホイールかエクスプレッションペダル、あるいはインテンシティつまみそのものを手操作するしかありません。
LFOの波形はminilogue同様、矩形波、三角波、鋸歯状波のみ。ランダムやノイズはありません。
効果のインテンシティに関して、シフトボタンを押しながら設定するとマイナス値になります。したがって、LFOの鋸歯状波は正逆とも使えます。
EGの所でも触れましたが、LFOの効果の深さの径時変化に関するパラメータはありません。
LFOのディスティネーションは、カットオフ(グロウル効果)、PWM等オシレータ波形の変調、ピッチ(ビブラート)のみです。そして、これらのうちのどれか一つのみを選ばなければなりません。
内蔵エフェクターは、変調系(コーラス、アンサンブル、フェイズシフター、フランジャー)及び空間系(ディレイ、リバーブ)があり、各々さらにサブタイプという複数種のエフェクターがあります。同時使用数は変調系空間系とも1つです。
コルグのアナログシンセサイザーにアンサンブルが載るのは、KORG PS-3200、
Polysix以来ではないでしょうか。LFOによるオシレータ波形変調とアンサンブルを併せて使ってみたいと思います。
その他、冒頭でも記しましたがprologue-16にはアナログコンプレッサーがあります。
二つのティンバーは、
KORG MS2000以来のアナログモデリングシンセ同様、レイヤーやクロスフェイド、スプリットはあるのですが、二つのティンバーのどちらか一つのみを鳴らすというモードが相変わらずありません。私としては、二つのティンバーの切り替えを、コルグのワークステーション機のアサイナブルボタンのオン/オフのイメージで使いたいのですけどね。
ちなみに
Roland JP-8000 、
GAIA SH-01、
AIRA SYSTEM-8等、ローランドのアナログモデリングシンセの場合、ロワー/アッパー各々の発声する/しないを選ぶ(切り替える)事が出来ます。
プログラムソートという機能があります。1〜8の八つのボタンに各々音色ソートの条件が割り振られていて、プログラム番号、カテゴリー、名称、使用回数、EGの設定、ランダムなどがあります。
アルペジエータは、アップ、ダウン、アップダウン、ランダム、そして押鍵順が反映されるモードがあります。喜多郎さんがRoland JUPITER-4のアルペジエータで行っていた
フライングジュピターをシミュレーションできます。
足回りに関して、エクスプレッションペダルとダンパーペダルの端子があります。エクスプレッションペダルには様々なパラメーターを充てる事ができるのですが、ダンパーペダルは文字どおりサスティンだけです。ポルタメントのオン/オフ等、この端子に挿したフットスイッチを使ってやりたい事はたくさんあるのですけどね。
KORG prologueは、
ARTURIA MATRIXBRUTE、Dave Smith INSTRUMENTS PROPHET REV2、moog SUB 37のような、音色の径時変化のシナリオを緻密に組めるといったアナログシンセサイザーではありません。この点に関してminilogueから退化した点すらあるのは上で記した通りです。
意地悪な見方かもしれませんが、音色作りの可能性はともかくprologueの発声数が8、16と比較的多い事に関して、
SEQUENTIAL CIRCUITS prophet-5より音色を作り込む事はできないが発声数は一つ多い
と強調するかのように、
“ Polysix ” “ JUNO-6 ”
という名を日本のシンセメーカーが冠したアナログシンセ時代を思い出しました。21世紀の日本のアナログシンセメーカーの立ち位置は、20世紀と変わらないのかもしれません。
しかしながらこれまで、単に安価で簡便なもの、復刻機、そして、何だか要領を得ない抱き合わせモデルばかりの日本の21世紀アナログシンセサイザーにあって、多少なりとも楽器に近づいたと思えるモデルが登場した感があります。
私はアナログシンセサイザーの鍵盤数は、キーボードトラックを緻密に設定できない故に、49鍵が上限だと思っているので、導入するとしたらprologue-8という事になると思うのですけど、できれば右手用/左手用に1台づつ手にしたい気がします。
平成30(2018)年2月14日追記。
KORG prologueの発売日平成30(2018)年2月24日(土)、税込価格prologue-8:162,000円、prologue-16:216,000円。
平成30(2018)年2月25日追記。
昨日発売されたKORG prologue-16に触れてきました。ほんの数分だったのですが、チェックした事柄について列挙します。
鍵盤はおそらく
KORG M3の鍵盤部M3 KYBD アセンブリ-61、73、KORG KRONOS 61、KRONOS 2 61と同じものと思われます。コツコツ当たる感じが無い、私好みの鍵盤でした。
操作子に関して、minilogueよりも間隔に余裕を持って配されているので操作しやすかった事や感触も良かったです。また、minilogueと異なり、最低値〜0〜最大値と変化するものに関して、「0」の位置にクリック感があります。minilogueは「0」を画面で視認する必要がありましたが、prologueは感触が伝えてくれます。
ポルタメントのカーブはminilogueと異なり、本来のアナログシンセ的な非リニア変化でした。喜多郎さんが
miniKORG 700Sや
800DVで1オクターブ上へレガートしながらかける間延びした感じのポルタメントを違和感無くシミュレーションできました。
ちなみに、喜多郎miniKORG 700Sリードシミュレーションのコツは、オシレータを一つのみ使いパルスウィズ33%(シェイプを330)にする事、フレキシブルEGをオートベンドに充てる、ディレイフェイドインビブラートはホイールにLFOのインテンシティを割り振り手操作で行う、です。
モジュレーションホイールにLFOのインテンシティを充てた場合、モジュレーションホイールの効果はモジュレーションホイールレンジでの設定が、そして、LFOインテンシティの設定はそれとは独立して発声に反映されます。つまり、ホイールを手前に引ききっていても、モジュレーションはかかるという事です。
prologueの内蔵エフェクターにアンサンブルがあるのですが、それを使って姫神せんせいしょんが
KORG Polysixを使って出していた
アンサンブル感のある笛の音をまねてみたところ、涼しげなあの感じを出す事ができました。PCMやアナログモデリングシンセでやるとどうしても輪郭に明瞭度が出すぎるきらいがあります。
径時変化に関するパラメーターがminilogueよりも少なく、2本しかない腕を2本とも鍵盤に置くと、じっとした音色しか出せない。エクスプレッションペダルはあるものの、私の場合、片手は常時ホイールかつまみに添える事なり、したがってprologueを導入するとしたら、やはり61鍵機prologue-16ではなく、49鍵機prologue-8の方か…ただ、腕2本を鍵盤演奏に充てられないという事で、上の方で書いた
右手用/左手用に1台づつ手にしたい
は消えました。
prologueに触れてみて思ったのは、コルグは“アナログシンセを指向する人はマニピュレーションに凝らない”と踏んでいるのだろうなという事でした。無論、コルグという企業には、音色を緻密に作り込める欧米のアナログシンセの輸入代理店であるという側面があり、あえてかち合う事を避けた、と見る事もできるのかもしれませんが…。
私としては、ちょこちょこっと音色を作る事は、このprologue、minilogue等〜logueやvolcaといったアナログシンセサイザーに引き受けてもらって、今後のコルグのアナログモデリングシンセサイザーには、よりマニピュレーションに凝る方向へ舵を切ってくれればと思います。
マニピュレーションで誰かの個性を汲む、反映させるといった指向で設計されたわけではなさそうなprologue。そういえば、かつてそんなシンセがあったなと記憶をたどったところ、ワークステーション機KORG M1に行き着きました。全く異なるエンジンを持つprologueは、1988年春発売のKORG M1の、影の30年記念モデルなのかもしれません。
令和元年(2019年)9月13日追記。
システム2.00で、前回保存値(オリジナルバリュー)が分かるようになりました。パラメーターディスプレイをオールに設定した場合、前回保存値と操作子を動かした時の値が一致した時、表示値の右側に“★”が、値が近づくと“→”または“←”が表示されます。
KORG prologue