アルバム「OASIS」の「月の光」の変奏曲と思われる作品です。

 NHK特集「シルクロード」では、西安市の中心の鐘楼(しょうろう)の空撮映像等のバックに流れていました。シルクロード沿道の都市のつくりは、支那であれイランであれイタリアであれ、こういった鐘楼や噴水等を中心に放射状に広がる形が多いのですが、そのことを示す映像がNHK特集「シルクロード」第1、2部を通じて何度かありました。

 「鐘楼」は、デジタルシーケンサーRoland CSQ-600の打ち込みか、Roland JUPITER-4のアルペジエータによるオスティナートに、手弾きのメロディやハーモニーが絡んでいくという、初期の喜多郎さんの楽曲パターンの特徴の一つがよく現れています。CSQ-600によるオスティナートの音源は、おそらくminimoogかRoland SH-5だと思います。

 私はこの曲に、西安市がかつて唐の都、長安だった頃の、市中の国際色豊かなにぎわいを想像しました。生々しいものではなく、どちらかというと壁画や日本の屏風絵に描かれているような2次元のイメージです。
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# by manewyemong | 2005-11-12 10:45 | 音楽 | Comments(0)
 「絲綢之路(しちゅうのみち)」というより「シルクロード」あるいは「シルクロードのテーマ」と呼んだ方が、世間的に通りがいいかもしれません。

 シルクロード(絹の道)は、何千年にもわたって欧亜をまたいだ国家や民族の興亡の舞台であり、物流の大動脈でした。しかしそんな壮大な題材の番組の主題曲であるにも関わらず、喜多郎さんは大仰な表現を持ち込まず、むしろ優しい、そして同時に哀調を帯びたメロディを作り、緩やかで広がりを感じさせるアレンジを施しました。結果的にこれが多くの視聴者の支持を受け、喜多郎さんが一般家庭に知られていく端緒になったのではないでしょうか。

 もしこの番組の主題曲を日本や欧米の作曲の大家が担当したら、もっと大胆な曲調の作品になったかもしれませんが、単に1番組のオープニング曲として消費されて終わったかもしれません。

 番組冒頭で流れた主題曲は、恐らくNHK側によるラップタイム指定に沿った編曲演奏が為されたと思うのですが、アルバム「絲綢之路」に収録された「絲綢之路(しちゅうのみち)」は、オープニングテーマよりも尺数が長く、音数が増え、曲がドラマチックに展開していきます。一つ一つの音の要素も洗練されているように聴こえます。

 数年前、小学校の近くを通った時、児童の皆さんが「絲綢之路」をリコーダーで演奏しているのを耳にしました。「絲綢之路」は、すでに喜多郎さんという1人の音楽家の1作品、あるいはNHK特集「シルクロード」という1番組の主題曲ではなく、楽曲そのものが1人歩きを始めているようです。
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# by manewyemong | 2005-11-11 22:02 | 音楽 | Comments(0)
 私が小学6年生だった昭和54(1979)年4月、NHKは「マルコ・ポーロの冒険」という番組を放映し始めました。おそらく後の「あしたのジョー2」「コブラ」のスタッフが携わったと思われる(絵のタッチが酷似)美しいアニメーションと、16ミリフィルムのドキュメンタリー映像とで構成された番組でした。

 マルコ・ポーロの「東方見聞録」を下地した物語の面白さと、日本とは大きく異なるシルクロード沿道の諸民族の暮らし、史跡や大自然の景観、小池朝雄の語りや小椋桂さんの主題歌は、10代初めの私をシルクロード熱に罹患させる誘い水になりました。小学6年生にして「新十八史略」、へディンやスタインの探検記、井上靖の小説「楼蘭」「敦煌」「蒼き狼」等を、辞典を引きつつ読みふけるようになっていました。「シルクロード」放映開始までに、私にはこんなプロローグがあったわけです。

 「マルコ・ポーロの冒険」終了後の昭和55(1980)年4月7日から放映が開始されたNHK特集「シルクロード」は、当然ながら私を魅了しました。そして番組中で流れた喜多郎さんのBGMは、それまでさほど関心の無かった音楽という芸術を、一気に私の意識の中心に据えてしまいました。

 アルバム「絲綢之路(しちゅうのみち)」は「シルクロード」放映開始の翌月の発売でした。私は「シルクロード」第1集の放映直後にアルバム「OASIS」を買っていたので、「絲綢之路」は発売を待つ形で手に入れた最初のアルバムです。

 アルバム「絲綢之路」の収録曲は「絲綢之路」「鐘楼」「天地創造神」「遥かなる大河」「長城」「飛天」「シルクロード幻想」「光と影」「西に向かって」「時の流れ」「菩薩」「永遠の道」。

 アルバム「絲綢之路」は、後の長尺の楽曲が多くなる喜多郎さんのアルバムと比べて、やや小品集的な趣きなのですが、ドラムセットのスネアやタムタムを使った曲が無いこと以外、喜多郎さんの音楽のありとあらゆる要素が織り込まれています。

 昭和59年に出版された「天界から飛雲までの集大成と喜多郎語録」のアルバム「絲綢之路」に関するコメントの中で喜多郎さんは、「テレビのBGMなので視聴者の立場を考える必要があった。人が意識を深くのめり込ませて聴く時間は2分半くらい。その中で色々なテクニックを使ってみようと思った」という意味の言葉を述べていらっしゃいます。

 作品として独立した絶対音楽ではなく番組の付帯音楽であるということは、音楽家にとって、いわば軛(くびき)をかけられることのはずですが、喜多郎さんはNHK特集「シルクロード」においてむしろそれを逆手に取って、「天界」「大地」「OASIS」よりも表現の幅をひろげたのではないでしょうか。

 NHK特集「シルクロード」の音楽は、その後のNHKや民放テレビの大型ドキュメンタリー番組のBGMの一つの形、流れを新たに作ったと思います。そしてそれは、1980年代半ばに興ったニューエイジ音楽という、新たなカテゴリーの世界的な盛り上がりへと続いていったように思えます。

 このアルバムは前作「OASIS」同様、喜多郎さん1人でシンセサイザー、アコースティックギター、民族楽器やパーカッション類を演奏し、2台のオープンリールタイプ8トラックのマルチレコーダーTEAC 80-8に録音していました。ミキシングコンソールを使わず、直接TEAC 80-8に録音していたそうです。

 このアルバム制作時の喜多郎さんの自宅兼スタジオは、鎌倉市腰越にありました。

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# by manewyemong | 2005-11-10 18:52 | 音楽 | Comments(0)
 姫神せんせいしょんのアルバム「姫神」の2曲目「七時雨(ななしぐれ)」のメロディの音は、「ポ〜ン…」という、やや間延びした減退音ですが、これはコルグのアナログシンセサイザーKORG Polysixで出しています。アナログシンセ時代、私はこの音を同社がPolysixとほぼ同時期に発売したMono/Poly出していました。

 この音のオシレータの波形はtriangle(三角波)です。現在各社から出ているワークステーションタイプのシンセには必ずこの波形は収められていますので、容易にシミュレーションできます。ピアノやビブラホンといった減退音系の音色プログラムからエディットしていくとよいでしょう。

 KORG Polysix、というより1970年代半ばから1980年代初頭の国産のアナログシンセ民生機の音質は、内外の高級機に比べて、輪郭がややぼやけた(それが魅力でもある)感じがします。デジタルシンセでその感じを出す為にはフィルターおよびそのEGの設定は重要です。デジタルシンセだと「ポーン…」ではなく「コーン…」になりがちです。フィルターでのカットオフポイントと音色変化の度合いを決めるEGデプスの関係にも注意を払ってください。

 昨今のワークステーションシンセには、100を超えるマルチエフェクターとは別に、音声回路の最後の方でイコライジング機能を持たせています。何か元ネタがあって、そこからエディットしていく形で音作りをする人が、元ネタのイコライジング機能の設定をさわらないまま、「フィルターをどういじっても、音の感触が、ねらったものとちがう」と言っていることがあります。音色設定をするにあたって、イコライジング機能を“0”にしておくといいと思います。デジタルシンセはパラメーターが豊富で、それが音色作りをする上で混乱の元にもなるわけですが、だからこそ豊かな音色バリエーションが引き出せるわけです。お手持ちのシンセの機能を細部まで把握しておく事は重要です。

 sine(サイン波)やtriangle(三角波)、square (矩形波:くけいは)は、saw(鋸歯状波:きょしじょうは)やpulse(非対称矩形波)と違い、フィルターでの派手な音色変化はありません。また、KORG Polysixは、VCFとVCAのEGが共通なので、デジタルシンセでもフィルターとアンプのEGを同じ数値に設定しておいても構わないと思います。しかし、デジタルシンセの鍵盤は、ベロシティ(鍵盤を押す強さ、つまり速さ=rate)によって音色や音量等に変化を付けられるので、その機能を活かす為、フィルターとアンプのEG設定を異なるものにするのも一興です。私はそうしています。

 
訂正(平成18年4月4日記)

 この音を担当したのはコルグのアナログシンセサイザーPolysixではなく、同社のMono/Polyではないかと思われます。本文中にも書きましたが、私はアナログシンセ時代、この音をMono/Polyで出していました。

 昨日KORG Polysixの実機に触れる機会があったのですが、基本的なことなのですがオシレータ波形に関して三角波は存在しませんでした。そこでオシレータ波形のPWを矩形波にして設定してみたのですが、やはり違和感を感じました。たまたま近くにあったKORG Mono/Poly(四つのVCO全てに三角波がある)で設定してみたところ、こちらは違和感がありませんでした。

 また「七時雨」のメロディ音はピッチに微かにディチューンがかかっているのですが、これをPolysixの内蔵エフェクトのアンサンブルやコーラスで出した場合よりも、どんなに調整しても四つのVCOのピッチが完全に一致することが無い(シンクロという機能を使って強制的に同期させることは出来る)Mono/Polyで作った方が感じが出ました。

 姫神せんせいしょんの全てのアルバムにコルグが機材協力(クレジットされている)していたのですが、アルバム「姫神」制作時、Mono/Polyも提供したのかもしれません。昭和57(1982)年12月の銀座ヤマハホールでの姫神せんせいしょんの公演時、ステージ上にMono/Polyがありました。

 本文中の音作りに関する記述に訂正はありません。
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 岩手県安代町・西根町にある七時雨山 (ななしぐれやま)を表題にしたナンバーです。私は平成5(1993)年の八幡平公演の翌日まで「ひちじあめ」と読んでいました。読み方の誤りは私だけではなく、平成元(1989)年8月21日に北米及び日本でリリースされた姫神のオムニバスアルバム「MOON WATER」では、「7 o'clock rain」と誤表記されていました。

 減退系の透明感のあるメロディ音や軽快なドラムの演奏は、他の曲では聴けない「七時雨」独特のもので、旋回しながら飛翔するような優雅で軽やかな旋律と相まって、私は葛飾北斎の「富嶽三十六景」の「駿洲江尻(すんしゅうえじり)」という浮世絵を想起しました。

 「駿洲江尻」は、突然の突風に翻弄される旅人達を描いた浮世絵ですが、1コマの絵であるにも関わらず、旅装束の女性の懐紙がするすると飛ばされ大空に舞うというリズミカルな動きが表現され、また同時に、泰然とたたずむ富士山のシルエットが絵の奥に配されているという、ストーリー性に富んだ作品です。

 北斎が「駿洲江尻」の中に築いた世界の中を風になって吹き渡るような幻想…。「七時雨」という曲が私の脳裡に描いたイメージです。
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# by manewyemong | 2005-11-09 00:01 | 音楽 | Comments(0)
 「舞鳥(まいどり)」の、短いながら緩急のある構成、メロディの躍動感、タイトなリズムセクション、所々に織り込まれたオスティナートの無機質なスピード感、そしてこれらが合わさって醸し出す色彩感は、私の中で、江戸時代寛永期に描かれた屏風絵「江戸名所図屏風」と結びつきました。

 「江戸名所図屏風」は、幕府開府からさほど歳月を経ていない江戸の様子が8曲1双(各々縦107.2cm、横488.8cm)全面に極彩色で緻密に描かれています。泰平の世の到来と江戸建設の活況に酔う様々な階層の人々が放つエネルギー感が屏風からあふれています。この屏風絵を見るたび(本物ではなく画集ですが…)に脳裡に「舞鳥」が鳴り響き、「舞鳥」を聴く度に「江戸名所図屏風」の部分部分が細切れに脳裡に浮かびます。

 「舞鳥」はアルバム「姫神」中、際立って分厚く多重録音が繰り返されているのですが、その多さが少しも耳に不快ではなく、自然に響きます。姫神・星吉昭さんのシンセ音色のセンス(この頃はご自分で音を作っていました)、そして姫神せんせいしょんの編曲・演奏のセンスが光っていると思います。

 イントロ部分の撥弦風のシンセのグリッサンドや間奏のオスティナートはローランドのデジタルシーケンサーCSQ-600に打ち込まれたものと思われます。シンセはおそらくRoland SH-2かSYSTEM-100Mです。ミキシングコンソールのオートパンポット機能を使って、ステレオ音場を左右に素早く移動させています。

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 かつてコルグが発行していた「SOUND MAKE UP」誌の1983年2月号「ワンページデスマッチ」のコーナーは、姫神・星吉昭さんのエッセイですが、この中で「舞鳥」の最初の部分の譜面とKORG Polysixの音色設定図が紹介されていました(KORG OASYS EXi LAC-1 PolysixEX試奏記)。来る11月25〜26日大阪でSYNTHESIZER FESTA OSAKA 2005という催しがあるのですが、もしそこでコルグのソフトウェアシンセLegacy CollectionのPolysixが使えたら、この設定図を試してみようかなと思っています。


参考文献:
「江戸名所図屏風—大江戸劇場の幕が開く 」 内藤正人
小学館アートセレクション ISBN:4096070173

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# by manewyemong | 2005-11-07 18:54 | 音楽 | Comments(0)